2022年12月07日 18:21 弁護士ドットコム
大阪府高槻市にある辻元清美・参院議員の事務所、同茨木市のコリア国際学園、大阪市淀川区の創価学会関連施設にそれぞれ侵入し、窓ガラスを割ったり、置いてあった段ボールに火をつけたなどとして、住居侵入や建造物損壊など3つの罪で起訴されている30歳の男性被告人の判決が、12月8日に大阪地裁で言い渡される。(ライター・碓氷連太郎)
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今年3月1日深夜、辻元清美議員の事務所の窓ガラスを割り、その窓の内側を覆っていた石膏ボードも破壊して事務所に侵入。関係者の名簿を窃取するために事務所内を物色したものの、警報が鳴ったため、何も取らずに逃走した疑い。
また、1カ月後の4月5日深夜、コリア国際学園のフェンスを乗り越えて敷地内に侵入し、ピロティに置かれていた段ボールに火をつけ、床を損傷させた疑い。
さらに5月4日深夜、創価学会淀川文化会館の敷地内にも侵入し、窓ガラスにコンクリートブロックを投げつけて割るなどした疑い。
政治家の事務所とコリアン系インターナショナルスクール、そして宗教団体の施設を狙った理由について、男性は公判で「立憲民主党は日本を滅亡に追い込む組織」「在日韓国人や朝鮮人を野放しにすると、日本人が危険にさらされる」「創価学会は日本を陥れる組織」と思い込み、犯行におよんだと述べている。
男性は2021年5月21日から2022年5月1日に逮捕されるまでの間、情報収集の手段は「ほぼツイッター」で、そこで集めた意見に「偏りがあるとは、とくに思っていなかった」と語っている。標的とした理由について、次のように語っている。
・辻元議員は「拉致被害者家族を愚弄し、在日米軍、自衛隊など、日本を守る政策や組織をバッシング」している
・「北朝鮮が邦人拉致やミサイル発射していたり、韓国人が日本への抗議デモやシャインマスカットの詐取」しているから、コリア国際学園を敵と認識した
・創価学会は「公明党が中国を擁護する発言をしたり、韓国とつながっているという噂」がある
その裏付けについて、検察から問われると、男性は「とくにないですね」と答えていた。本人が認める通り、いずれにも根拠はなく、コリア国際学園に至っては、日本、韓国、中国、アメリカなど多様なルーツを持つ学生が在籍していて、現在一番多いのは日本人生徒だという。
男性は自身の犯行について「やめておけばよかった。思慮に欠けていた。暴力に訴えて周りの人を傷つけて家族に迷惑をかけて、社会的な反感しか得られない。被害者に対して、攻撃されるようないわれがないのに攻撃してしまったことに対して、申し訳なく思っている」と反省の言葉を述べた。
しかし、辻元議員への謝罪文にはこう記した。
「立憲民主党は日本人を根絶やしにし、中国や北朝鮮といった国々に日本の植民地化を進めさせる組織であると判断しました。立憲民主党に近い意見を売国奴、もしくは平和ボケの戯言として耳を傾けていませんでした」
「暴力に走らないことを、加害者になりたくない腰抜け、あるいは行動を起こさない愚か者と考え、バカにしていました」「自分の意見を主張するには違法行為ではない、人を攻撃しない方法を用いることとします。辻元先生にはぜひ立憲民主党の代表に就任されていただきたい」
また、コリア国際学園に対する謝罪文にも、本当に反省しているのか疑問が残る言葉を記していた。
「北朝鮮による邦人拉致やミサイルの発射と言ったテロ行為や、生物の殺傷を辞さない行為等の情報から、在日コリアンは日本に敵意を持ち日本人なら何をしてもいいと思っていると判断し、学園の皆様もまた日本人の命や財産を奪う存在だと思いました」
「在日コリアンは法で裁けない、力ずくで排除するしかないと考えました」「若い生徒の皆さんが理不尽に他者を抗議する愚か者を反面教師とし、暴力では何も変わらない、誰も味方にならないということを理解していただけたらありがたいです」
11月17日の第3回公判で意見陳述したコリア国際学園の金淳次理事長も、今回の犯行を在日コリアンに対する差別や偏見に根差すヘイトクライムと批判し、謝罪文からは「ヘイトクライム事件を起こしたことに対する、心からの反省を感じることはできませんでした」との口にした。
「韓国人の射〇が合法化されないかなぁ」(原文ママ)
「もう日本人に朝鮮人の射〇許可出してくれよ」(原文ママ)
男性と思しきツイッターのアカウントを目にした金理事長は、ヘイトクライムにとどまらずジェノサイドまで扇動しているとして、底知れない恐怖と不安を感じたという。「1923年の関東大震災で、多くの朝鮮人たちが理由もなく日本人から殺された歴史を思い起こさずにはいられません」と語った。
さらにヘイトクライムは、在日コリアンへの個人的な差別意識や偏見だけに限られるものではなく、これを放置すれば、あらゆる外国人学校も標的になる可能性があり、インターネットやSNSの情報だけで犯罪に流されていくモンスターを生まないために、ヘイトスピーチやヘイトクライムの罰則を科すことで、次の加害者が現れないほしいと訴えた。
さらに「当学園では人と違う自由はありますが、人と違うことを責める自由はありません」という生徒募集ポスターに掲げた言葉を引用して、矯正教育を通しての更生を願った。
「この言葉の意味をよく考えて下さい。 自分自身の再犯の防止だけでなく、他人が起こすかもしれない同種犯罪を防止するために、いまの君に何ができるのか、これから君は何を勉強しなければならないのか。インターネットの環境がない刑務所で、真剣にこの問いに向き合ってください」(金理事長)
陳述の中で金理事長は、男性を「君」付けしたうえで名字で呼んでいた。1994年にルワンダで起きた大虐殺のきっかけとなったラジオ放送では、対立する民族を「ゴキブリ」呼ばわりをするヘイトスピーチが繰り返し流されていたとされる。
ナチスドイツもユダヤ人を、ノミやネズミにたとえていた。相手を人間扱いしないことが、ヘイトクライムの第一歩になることは歴史が示している。そこで今回は相手を人として見るために、あえて名字で呼ぶことにしたと、学校側代理人の張界満弁護士は明かした。
法廷で名字を呼ばれた男性は、何度か理事長と目線を合わせていた。自身に送られた言葉を受け止めるかのように、うなずく場面もあった。しかし、張弁護士によると、金理事長は、このとき男性からにらみつけられていると感じ「目の奥底を見ると、反省しているとは思えず、本当に怖かった」と後日語ったという。
創価学会とは示談が成立しているものの、検察は懲役3年を求刑した。
いずれも深夜の時間帯に事前に準備した軍手やマスクなどを身に着けて及んだ計画的犯行であり、謝罪や反省の弁を口にする一方で、自己の行為を矮小化し、真摯に反省している態度は見受けられないことを理由に挙げた。
さらに特定の政治思考、国籍、信仰を有する者への歪んだ憎悪心から、各犯行に及んだことに情状の余地はまったくないとし、男性の犯行動機は単なる一個人の憎悪ではなく、差別という反社会的なものであることも指摘した。
「我が国においては思想、および信仰の自由は憲法により保証され、また国籍による不合理な差別も許されないのでありますから、被告人の犯行動機は反社会的なものにほかならず、これを正当化する余地はありません」
一方、弁護側は、男性が逮捕後、罪を認めて捜査に協力していることや、ツイッターでの情報収集が偏ったものであったこと、逮捕されたことで職を失い、一定の社会的制裁を受けていること、前科がないといった事情から、執行猶予付きの判決を求めた。
「この度は大事な施設を破損し、大きな恐怖を与え、まことに申し訳ございませんでした。暴力と犯罪の卑劣さ、ならびにおのれの浅はかさを痛感いたしました。きっちりと自らの罪に向き合い、ありとあらゆる情報を精査すること、悪意をもって他者を攻撃しないことを誓います」
最後に言いたいことを問われた男性は、短く謝罪と反省の言葉を述べた。
11月も半ばを過ぎていたものの、白い半袖シャツに黒いズボン、青いサンダル履きの男性は、ふたたび腰縄と手錠をかけられ法廷から退出を促された。
その際、一瞬目が合ったが、こちらをにらみつけているとは感じなかった。なぜならその目には、何も映っていないように見えたからだ。
判決は12月8日10時の予定となっている。