2022年12月06日 10:51 弁護士ドットコム
日々問題なく働いている人でもいつ労働トラブルに巻き込まれるかわかりません。パワハラ、労災、長時間労働などのトラブルは今もなくなっていないのが現状です。
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トラブル発生に備え、過去の裁判例を通じて、実際に発生した労働トラブルとその結末を知っていれば、いざという時の助けになるかもしれません。
今回紹介するケースは、私的な交際を禁止するキャバクラの運営会社が交際禁止の約束を破ったキャバクラ嬢に違約金を請求したという事例です。林孝匡弁護士の解説をお届けします。
こんにちは。
弁護士の林孝匡です。
今回は、キャバクラの運営会社とキャバ嬢との間で起こった事件(大阪地裁令和2年10月19日判決)について解説します。
キャバクラを運営している会社が、キャバ嬢に対してブチギレました。
交際禁止の約束を破ったから、140万円を払え!と訴訟を起こしました。
結論。
恋愛は自由だー!
キャバ嬢の勝利です!
裁判所は「違約金の同意書は労働基準法16条に違反する」とし「公序良俗に反する」と判断しました。
この記事では、以下の内容をメインにお伝えします。
・キャバ嬢は誰と付き合ったのか
・「交際禁止」同意書の内容
・裁判所の判断
・労働基準法16条って何?
Y社は、キャバクラ店やガールズバーを経営している会社です。
Xさんは、平成29年12月、Y社に入社しました。
Y社では、キャバクラで働く従業員に対して、同意書への署名をさせていました。
何に同意しなければならないかというと、私的交際のゼッタイ禁止です。
その同意書には、上記に違反すると、「違約金を200万円支払う」との内容が書かれていました。
Y社が私的交際の禁止を掲げる目的は3つです。
(1)その客が離れてしまい1日あたり3~5万円の損失が発生する
(2)店舗の風評被害が生じる
(3)従業員の友達も退職するなどの被害も予想される
Xさんは、その同意書にサインをして、キャバクラで働き始めました。
Xさんがキャバクラで働き始めて、約9カ月後の平成30年9月。
キャバクラの副店長と恋に落ちちゃいました。
付き合っちゃいました。
当初はバレなかったのですが…
交際開始から3カ月後の12月。
会社側に問い詰められたのでしょうか。
Xさんは、副店長との交際を認めました。
ソッコーでY社は「違約金200万はらえ!」と言いそうなものですが、ここは抑えました。
その代わりに、Xさんに誓約書を書かせました。
Xさんに書かせたのは、以下の4つです。
(1)私は、2人(私と副店長)のことを他言しない
(2)私の平成30年12月分の給料を3カ月間停止することを承諾する
(3)私は、会社に対し、日常生活における副店長の動向など、細かなことを報告する
(4)Xは、各店舗のある特定の自治体を副店長と2人で連れ立って歩かない。
この誓約書を書いて、事態は終結した・・・かに思えました。
判決からは、何カ月後か不明ですが、Y社がブチギレました。
「誓約書に違反した!」とブチギレたのです。
具体的には、以下の3つのブチギレです。
(1)Xが副店長とのことを他の従業員に相談した
(2)副店長の動向などを報告しなかった(副店長が店の名前を使ってサラ金で借金するなど金遣いが荒かったこと・朝帰りしていたこと)
(3)各店舗のある特定の自治体を副店長と2人で出歩いた(客の目撃情報あり)
(上記の3点は、裁判ではXさんは認めていません。あくまで会社の主張です)
Y社は、誓約書に違反したことを理由に、もともとの同意書に書かれていたとおり、違約金200万円プラス100万円の損害賠償(合計300万円)をXさんに請求しました。
プラス100万円の損害賠償の理由は、Xが所属していたクラブの売上が減少した、Xを別のクラブへ異動させざるを得なくなった(諸々の業務調整が生じた)というものです。
Y社からの請求に対して、Xさんは拒んだのでしょう。
Y社がXさんを提訴!舞台は法廷へ!
(損害の一部である140万円を請求してきました)
キャバ嬢の勝利です!
裁判所は、以下のように判断しました。
「私的交際のゼッタイ禁止、違反したら200万円」は「労働基準法16条に違反しており無効」と判断。
労働基準法 第16条
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない
さらに、「公序良俗にも反し無効」と判断しました。
民法 第90条
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする
理由の骨子は以下の内容です。
(1)誰と交際するかは、その人が自由に決めるべきこと
(2)その人の意思が最大限尊重されなければならない
(3)本件同意書は、真摯な交際をも禁止している
(4)200万円という高額な違約金を定めている
戦前は、会社が労働者を足止めしたりするために、契約期間の途中で転職や帰郷した場合は違約金を支払う約束したり、もろもろの違反につき損害賠償額を定めておくようなことが横行していました。
これはけしからん!ということで、労働基準法16条が定められました。
働き始めるときに【理不尽な約束事】にサインをしたとしても、あとで戦える可能性があります。
会社から「サインしただろ!」と言われても、今回のキャバ嬢のように戦って勝てる可能性があります。
「何かこの約束、理不尽だよな~」と感じている方は、弁護士に相談してみましょう。
【筆者プロフィール】林 孝匡(はやし たかまさ):【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。働く方に知恵をお届けしています。HP:https://hayashi-jurist.jp Twitter:https://twitter.com/hayashitakamas1