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森口将之のカーデザイン解体新書 第57回 トヨタの新型「プリウス」はカッコいい? デザインが好評な理由とは

2022年11月30日 12:02  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
ハイブリッド車(HEV)のパイオニア、トヨタ自動車の「プリウス」がモデルチェンジした。デザインについては賛否両論だった先代に対し、多くの人が好感を持っているようだ。その理由はどこにあるのか。新型プリウスを詳細に見ながら解説していこう。


○低さに込められた意味とは?



トヨタのプリウスは今回の新型で通算5代目となる。先代は2015年に発表されたが、フロントマスクなどにネガティブな声が多く、3年後に大規模なマイナーチェンジを行ったことを覚えている人もいるだろう。


つまり新型は、そうした声を払拭するリベンジの機会にもなる。発表資料には、商品に込めた思いとして「一目惚れするデザイン」「虜にさせる走り」とある。つまり、デザインを最初に持ってくるほど力が入っているのだ。



新型プリウスで印象的なのは、低くてスマートなプロポーションだ。



プリウスは2代目以降、フロントフードとフロントウインドーが一直線につながり、リアゲートまでスムーズに線がつながる 「モノフォルムシルエット」を継承してきた。新型はこれを受け継ぎつつ、全長は25mm伸びた4,600mm、全幅は20mm幅広い1,780mm、全高は40mm低い1,430mmとなっている。


スリーサイズの中で、全高の変化が全長を上回るのは珍しい。発表資料にはスタイリングについて、「ワクワクする」「エモーショナル」なデザインを目指したと書いてある。その象徴が低さではないだろうか。



この低さ、プリウスがSUVではないからこそ実現できたといえる。今やファミリーカーの主流はSUVになりつつある。故にセダンやハッチバックはパーソナルカーとしての意味が大きくなる。新型プリウスはこうした状況を考え、先代のイメージを払拭する意味もあって、パーソナルカーとしてのカッコよさを追求したのだと考えている。

○単純に低くなっただけではない



ただしそのプロポーションは、先代をただ低くしたわけではない。ルーフの頂点の位置が変わっているからだ。



プリウスのデザインを決定づけたといえる2代目は、「トライアングルシルエット」と称していた。ルーフの頂点がドライバーの頭上あたりにあり、そこから前後にスロープが伸びていたからだ。


3代目になるとそれがセンターピラーの後ろにまで移動したが、先代では再びドライバーの頭上あたりに戻した。そして新型は、3代目よりさらに後ろ、リアドアの真ん中ぐらいまで下がっている。


しかも新型は、ホイールベースが50mm伸びている。真横からの図面を見ると、フロントオーバーハングを25mm伸ばし、後輪を50mm後方にずらしたような感じになる。



ルーフが低くなったので、スペースを確保するには室内長が必要。よってホイールベースを伸ばしたのかもしれない。ただしドアの開口部は限られているので、やはりパーソナルカーとして捉えたほうがよさそうだ。



低さの次に目についたのは、シンプルであることだ。フロント/リアまわりはもちろん、サイドも彫刻的なキャラクターラインはなくなった。代わりにサイドシルからリアフェンダーにかけて跳ね上がるラインで躍動感を表現している。


先代では否定的な声も多く、マイナーチェンジで変更されたフロントマスクは、ハンマーヘッドモチーフをさらに際立たせたヘッドランプが特徴としている。


「ハンマーヘッド」という表現は、2022年5月に発表された電気自動車「bZ4X」でも見られる。同車の発表時のニュースリリースには「フードからヘッドランプ上部へと連続する、特徴的なハンマーヘッド形状で独自性にチャレンジ」という言葉がある。



bZ4Xと異なるのは、上下に薄いヘッドランプの端が折り返して、上に回り込んでいること。2022年7月に発表された新型「クラウン」のうち「クラウンスポーツ」に似ており、フェラーリ「プロサングエ」もこれに近い表情を提案している。今後のトレンドになるかもしれない。



リアはパネル上側のブラックパネルの中に薄い横長のコンビランプが光るスタイルになっており、現在のトヨタ車では「ヤリス」に近いデザインテクニックだが、ランプの両端を下に向けているのは、2代目から先代前期型まで継承してきた縦長を受け継ぐ意味が込められているのかもしれない。


○インテリアもスポーティーに



フロント/リアまわりで付け加えれば、新型はHEVとプラグインハイブリッド車のPHEV(先代までのPHVから呼び名を変えた)が共通になったことも特徴だ。



先代はフロントとリアのデザインが異なり、リアについてはバッテリーを搭載するためにリアオーバーハングを延長していたが、新型はバッテリーをHEV同様、リアシート下に移したことで同一になった。


ボディカラーは8色で、新規導入色はアッシュとマスタードになる。アッシュとは灰色のことで、ソリッドのグレーをベースに色味のあるマイカを加え、見る角度により微妙に異なる色合いを実現したとのこと。マスタードは彩度を少し抑えつつメタリックを加え、光が当たる部分のみ輝くように仕上げたという。


インテリアではクラウンに続き「アイランドアーキテクチャー」と呼ばれる手法を導入した。アイランドアーキテクチャーとはデジタル分野で数年前から使われている言葉で、静的な部分はサーバー側、動的な部分はアプリ側で表示させる手法とのこと。



トヨタでは静的な部分をインパネやドアトリム、動的な部分をメーターやセンターディスプレイと解釈。圧迫感のない広々とした空間と、 運転に集中しやすいコクピットを両立したという。


運転席に乗り込むとまず目に入るのは、メーターがドライバーから遠い位置にあり、ステアリングの上から見るタイプになっていることだ。トヨタではbZ4Xに続く採用になる。


歴代プリウスは初代以来、センターメーターを受け継いできた。センターメーターもまたインパネの奥にあり、ステアリングの上から見る方式だった。新型はそれをドライバーの前に移動させたという見方もできる。スポーティーな雰囲気を強調したかったのかもしれない。



そんな想像を抱かせる理由は、インテリアカラーにある。発表された3タイプはいずれも黒基調の精悍な色合いで、インパネやシートへの差し色はグレーとともにレッドが用意され、アンビエントライトも赤になっているからだ。



新型プリウスはメカニズムについても、ハイブリッドシステムに使うエンジンが従来の1.8リッターに加えて2リッターが用意され、PHEVはスポーツカーの「GR86」に近い0-100㎞/h加速6.7秒という数字を披露するなど、走りのアピールも目立つ。



トヨタとしては、ハイブリッドは走らないという一部の噂を払拭したいという思いがあって、それが低くてスマートなプロポーションや精悍なインテリアカラーに表れているのかもしれない。早く実車に乗って、そのあたりをチェックしてみたいものだ。



森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら(森口将之)