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W杯スペイン戦、平日朝4時からビール片手に応援したい…出勤前の飲酒に法的リスクは?

2022年11月30日 09:51  弁護士ドットコム

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カタールで開催中のサッカーワールドカップに出場中の日本代表は、グループリーグ2戦を終えて1勝1敗(勝ち点3)で、決勝トーナメントへの進出はリーグ最終戦の結果次第という状況だ。


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最終戦の相手は優勝候補にも挙げられるほどの強豪スペイン。試合開始は日本時間12月2日午前4時。金曜日のため試合観戦後に出社するという人も多そうだが、負ければリーグ敗退決定ということもあり、ファンとしては見過ごせない一戦となる。



中にはお酒片手に楽しく声援を送ろうとする人もいるかもしれない。ただ、試合の時間帯に飲酒してしまうと、勤務時間までに酔いがさめないおそれもありそうだ。明け方の大一番とはいえ、飲酒した後に出社したらやはりまずいだろうか。水野順一弁護士に聞いた。



●勤務時間外は「原則自由」だが…

——勤務時間外の行動について、何か制約はあるのでしょうか。



労働者(従業員)が勤務時間外に何をしようと個人の自由であり、使用者(企業)は労働者の行動に干渉することはできないのが原則です。



ただし、自由とはいえ、どんな行為をしてもいいというわけではありません。合理的な理由がある場合に最小限度の決まりを就業規則で設けることはできます。



たとえば、勤務時間外に事件や事故を起こした場合などには、企業の信用を貶めることになるので、就業規則に従って、懲戒処分を受ける可能性はあります。



また、就業後と違い、出勤前の場合はその後就労することが予定されていますので、その点も考慮されるでしょう。



——出勤前の飲酒についてはどうでしょうか。



労働契約上、労働者は「職務に専念する義務」ないし「誠実に労働する義務」があります(労働契約法3条4項)。労働の対価として賃金(給料)をもらう以上、これは当然のことです。



飲酒することで、労務に影響する程度の酩酊状態になった場合、この契約上の義務を果たさなかったということになります。



●「通常は上司から注意されて終わりということが多い」

——労働契約上の義務を果たさなかったと判断された場合、何か処分を受けることになるのでしょうか。



このような契約上の義務違反(債務不履行)については、通常は上司から注意されて終わりということが多いでしょう。



もっとも、出勤前の飲酒を繰り返して企業の秩序を乱したり、他の労働者に悪影響を与えたりする場合には、「勤務態度の不良」を理由として、「普通解雇」(労働者の債務不履行を主な理由とした解雇)などをされる場合が考えられます。



——懲戒処分を受けることはないのでしょうか。



「懲戒解雇」や「戒告処分」などの懲戒処分は、労働者に対する制裁なので、懲戒処分をおこなうには、あらかじめ就業規則に種別及び事由を列挙し、労働者に規則を周知させる必要があります(フジ興産事件判決、労働基準法106条、労働契約法7条等参照)。



就業規則中の服務規律(名称は異なることがあります)には、酒気を帯びて勤務することや酩酊状態で勤務することを禁止する規定がおかれている場合があります。



仮に、そのような具体的な規定がなくても、職場の秩序を維持することを一般的に禁止する規定があることが多いでしょう。



これら規定がある場合、出勤前の飲酒を理由とした懲戒処分を受ける可能性があります。



●業種によっては厳しい処分になることも

——出勤前の飲酒で、いきなり懲戒解雇になることもあるのでしょうか。



実際の懲戒処分が、対象となる労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効となります(労働契約法15条)。



懲戒処分を受けることがあるのか、受けるとしてもどのような処分となるかについては、業種や職務の内容等により結論は異なります。



たとえば、バスやタクシーの運転手など、そもそも飲酒が許されない職務では、厳しい処分となってもやむを得ないと考えられます。また、接客や営業など他人と接触するような職種であれば、酒臭い状態で勤務することは社会通念上問題があるので、同じように考えられるでしょう。



しかし、一般職については、アルコールを摂取した人の体質等によるとはいえ、ビールを一杯飲む程度では就業能力にそこまで大きな影響がないと思いますので、いきなり懲戒解雇は行き過ぎであるように思われます。



そもそも一杯程度なら懲戒の対象とすべきでないという意見もありえますが、一方で他の従業員が不快な思いを抱くことで企業内の秩序を乱すおそれがあるのも否定できません。



ケースバイケースにはなりますが、日本人の一般的な常識観念など考えると、戒告程度の軽い懲戒処分を受けることは合理的な理由がないとは言えませんし、社会通念上も相当であるといえるので、処分を受けても仕方がない場合があるのではないかと思います。




【取材協力弁護士】
水野 順一(みずの・じゅんいち)弁護士
中央大学法学部法律学科卒。2004年弁護士登録。2010年なります法律事務所開設。共著書3冊。地域に密着した法的サービスを目指しています。離婚等男女問題、相続、借金、交通事故など一般民事事件及び刑事事件を取り扱っています。最近では、離婚等の男女問題を多く取り扱っております。
事務所名:なります法律事務所
事務所URL:http://www.narimasu-law.net