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映画『THE FIRST SLAM DUNK』で豊玉高校戦は描かれるのか? 作品貫くテーマが詰まった“名勝負”

2022年11月29日 09:51  リアルサウンド

リアルサウンド

pixabayより(イメージ)

 2022年12月3日(土)、いよいよ待望のアニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』(原作・脚本・監督/井上雄彦)が公開される。本稿を書いている時点では、その内容はほとんど明らかになってはいないが、予告映像やポスターのヴィジュアルなどを見るに(そこに描かれている桜木花道のヘアスタイルと履いているバッシュから推察するに)、おそらくは原作の終盤――インターハイでの試合が映像化されているのではないかと思われる。


(参考:【写真】これが映画で描かれたら……名シーンが描かれた『SLAM DUNK』のプレミアムグッズたち


 ちなみに“『SLAM DUNK』でインターハイ”といえば、多くのファンは(原作のクライマックスでもある)湘北高校バスケ部と山王工業の試合を思い浮べることだろうが、その1つ前の試合――すなわち、湘北高校が大阪の強豪・豊玉高校と戦った試合もなかなか読み応えがあるのである。


 誤解を恐れずにいわせていただければ、もしかしたらこの豊玉戦は、『SLAM DUNK』で描かれている湘北高校の数々の“名勝負”の中では、どちらかといえば地味な印象を持たれているかもしれない(それくらい、その後で行われる山王工業戦や、その前に行われた神奈川県予選での海南大附属戦、陵南戦が壮絶だった、ともいえるのだが――)。


 だが、この豊玉戦では、かなりわかりやすい形で、『SLAM DUNK』全編を貫いている大きなテーマの1つが描かれており、それゆえにぜひ、この試合も映像化してほしいと私は思っているのだ。


■豊玉高校がラン&ガンにこだわる理由とは


※以下、ネタバレ注意。


 湘北高校と豊玉高校の試合は、ジャンプ・コミックス版でいえば、主に23巻から24巻にかけて描かれている。主人公・桜木花道が所属する湘北高校バスケ部は、海南大附属とともに神奈川県の代表に選ばれ、インターハイの第1戦で豊玉高校と対戦することになったのである。


 ラン&ガンによる超攻撃的なプレイが売りの豊玉高校は、全国でベスト8クラスの強豪校だ。一方の湘北高校もどちらかといえば同じような攻撃的なチームではあるのだが、特に速攻に固執しているわけでもなく、時には安西監督の指示でペースダウンし、オーソドックスなハーフコート・バスケットでゲームを運ぶこともできる。この差が、つまり、“ラン&ガンというスタイルにこだわっていないこと”と、“選手たちが監督の指示に従うこと”が、後々試合の勝敗を分ける大きな要因となっていく。


 そう、この試合に挑んだ時点で、豊玉高校の選手たちにはある種の“枷”があり、それは、具体的にいえば“ラン&ガンだけでインターハイを勝ち抜いていく”という縛りであった。そしてその陰で、監督との確執もあった……。


 また、豊玉の主要選手のひとり、南烈は「エースキラー」とも呼ばれており、この試合でも、(おそらくは)故意に、湘北のエース・流川楓を負傷させてしまう。だが、流川は負傷したまま試合に出続け奮闘、それがかえって豊玉側のプレッシャーとなっていくのだった。


 ちなみになぜ、豊玉高校の選手たちがラン&ガンにこだわっているのかといえば、それは、彼らの尊敬する前監督・北野が信条とする戦術だったからに他ならない。2年前(?)、同校は、ラン&ガンに固執するあまり、ベスト8の壁をなかなか突破できずにいた北野を解任していた――。


 当然、そのことに納得のいっていない選手たちは、何がなんでもラン&ガンでインターハイを勝ち抜いていき、前監督の戦い方が間違っていなかったことを証明しようとしているのだ。それゆえに、ディフェンス面での強化を主張している新監督の金平とは反りが合わず、チーム内では、監督と選手たちの間に大きな溝ができてしまっていた。


■「バスケットは好きか?」


 さて、先ほど私は、この湘北高校と豊玉高校の試合では、『SLAM DUNK』という作品を貫く大きなテーマがわかりやすい形で描かれていると書いた。それは、簡単にいってしまえば、「好きなことだから人はがんばれる」ということだ。


 むろん、本作の場合、「好きなこと」とは「バスケットボール」のことであり、主人公・桜木花道はもちろん、主要キャラのすべては、(ライバルも味方も)この「好きなこと」のために、青春を賭け、さらなる“高み”を目指しているといっていい。そしてそれが、多くの読者の共感を得ることにもつながっているのだ(なぜならば、誰にでも夢中になれることの1つや2つはあるだろうから)。


 試合の終盤、北野前監督が観客席にいることを知った豊玉高校の選手たちは、それまでのダーティなプレイを捨て、自分たち本来の姿を取り戻していく。


 かつて、北野は彼らにこう問うていた。


 「バスケットは好きか?」


 その言葉を思い出した南たちは、格下であるはずの湘北相手に本気で勝負を挑んでいく(試合の残り時間は約2分で、湘北が10点リードしているが、南たちは諦めない)。その姿を見た金平監督も、涙を流しながら選手たちを応援する(この時、北野監督解任以来、初めて豊玉高校バスケ部は1つになったといっていいだろう)。


 思えば、『SLAM DUNK』の別の場面では、湘北高校の選手たちも、「安西先生……!! バスケがしたいです……」(三井寿/8巻)だとか、「(バスケが)大好きです 今度は嘘じゃないっす」(桜木花道/30巻)などといって、“バスケへの熱い想い”を打ち明けていた。繰り返しになるが、好きなこと、楽しいことだからこそ、人はがんばれるのである。そして、その姿を見た人たちも、勇気や元気をもらうことができるのである。


 そういうことをあらためて思い出させてくれるこの湘北高校と豊玉高校の試合もまた、『SLAM DUNK』の“名勝負”の1つであった、といってもいいのではないだろうか。


(島田一志)