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「婚姻関係が破綻していた」から不倫も認められる? 男女トラブルの慰謝料、よくある誤解と争点

2022年11月28日 10:31  弁護士ドットコム

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夫婦円満な生活を送るためにも、できれば事前にトラブルの芽は摘んでおきたいものです。そこで、年間100件以上離婚・男女問題の相談を受けている中村剛弁護士による「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」をお届けします。


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連載の第18回は「男女トラブルの慰謝料、認められるものと認められないもの」です。不倫やDV、婚約破棄など男女トラブルは様々ありますが、中には、精神的苦痛を受けたとして、相手に慰謝料を請求できることもあります。



法律上慰謝料まで認められるケースというのは、どういうものか。ケース別に詳しく紹介してもらいました。



●そもそも慰謝料とは?

今回は、男女問題で問題となる慰謝料についてお話ししたいと思います。



「慰謝料」とは、何かしらの不法行為が行われた際に、被害者が被った精神的損害を補填するためのお金のことです。



男女問題に限らず、例えば、交通事故などで怪我を負ってしまった場合には入通院慰謝料、亡くなってしまった場合は死亡慰謝料などが発生します。犯罪行為で被害を被った場合も発生しますし、医療過誤などの事故が起きた場合にも発生します。



このように、慰謝料はあらゆる不法行為で問題となり得るものですが、今回は、主に男女問題でよく問題となる慰謝料についてお話ししたいと思います。



●慰謝料が認められる可能性が高いもの

慰謝料が問題となる事件類型の中で、まずは、慰謝料として認められる可能性が高いものについて、ご紹介します。



(1)不貞行為
男女問題で、慰謝料が問題となる最もメジャーなものと言えば、不貞行為による慰謝料請求でしょう。芸能人や、スポーツ選手などの有名人も、よく報じられて問題となっています。婚姻している夫婦(実態としては婚姻関係にあるが、戸籍上の届け出を行っていない内縁関係にある場合も含みます。)の一方に対し、第三者が不貞行為を行った場合に、不法行為となり、損害賠償義務が発生します。



(2)DV
前回のコラムで記載したような、DVが行われた場合も、慰謝料が認められる可能性があります。



暴力を受けて、病院に行くことになったなど、身体的暴力があった場合は認められる可能性が高いといえます。また、そこまでではなくても、殴られてあざができた、腫れたなどの事情があれば、認められる可能性は十分あるでしょう。



精神的DVについても、身体的暴力に比べればハードルは上がるものの、暴言やモラルハラスメントが常態化していた場合などは、慰謝料が認められる場合もあります。



(3)離婚
婚姻関係破綻の原因が、主に一方の行為によるものであった場合に、慰謝料が認められます。



上記のような不貞行為やDVが行われた場合もそうですが、その他にも、過度の浪費や借金、刑事事件を起こしてしまった、理由のない長期間の性行為の拒否などでも、場合によっては、慰謝料が認められる可能性があります。ただし、事情にもよりますが、上記(1)(2)に比べれば、慰謝料が認められるハードルは上がるケースもあります。



(4)婚約破棄
婚約が成立していたが、正当な理由なく婚約破棄された場合も、慰謝料の対象となり得ます。婚約していたとしても、結婚は強制できないため、あくまでも慰謝料という形で解決が図られます。



(5)ストーカー行為
全く見知らぬ第三者や、交際していない人からストーカー行為された場合だけでなく、恋人や配偶者(元恋人、元配偶者も含みます)から、ストーカー行為の被害を受けた場合も、慰謝料が発生する可能性があります。



●慰謝料が認められることが難しいもの

逆に、精神的苦痛は被っているものの、結婚もしておらず、内縁関係にもなく、婚約もしていないただの交際のみの場合は、暴力行為やストーカー行為など、犯罪にあたりうるような行為がない限り、慰謝料請求が認められるのは難しいと言わざるを得ません。



たまに受けるご相談としては、交際中に浮気をされた、相手にギャンブル癖がある、マッチングアプリなどで経歴を詐称されていた、などがありますが、これらにより、法律上慰謝料まで認められるケースは、絶対にないとまでは言えませんが、あまりないでしょう。



●よく問題となる争点は?

これまで述べてきた事件類型別に、訴訟などでよく問題とされる争点についてご紹介します。



<不貞行為>
(1)そもそも不貞行為がなされたか
まず、「そもそも不貞行為がなされたか」が問題となってきます。もちろん、不貞行為がなければ慰謝料は認められません。



その際の証拠としてよく出されるのが、探偵による調査報告書、LINEやメールなどのメッセージのやりとり、相手が不貞行為を認めて謝罪した書面、ホテルの領収書、旅行に行った際の旅程表、カード明細、2人で撮った写真、ドライブレコーダーの記録、ボイスレコーダーによる不貞相手との会話の録音などです。



どこまであれば十分かについては、事案と裁判官によるので、何とも言えないところがありますが、近年は、相手が不貞行為を否認してきた場合、裁判所が不貞行為を認めるハードルは高くなってきていると感じます。



(2)不貞行為といえるか
次に、ある程度の事実が認められたとしても、それが「不貞行為」にあたるかということが問題となり得ます。



性行為・肉体関係であれば、不貞行為と認められることはもちろんですが、肉体関係を持たなかったら一切成立しないかというと、そういうわけではありません。婚姻共同生活の平和を毀損するのであれば、違法性を有すると判断されることもあります。



例えば、交際し、配偶者に対して別居や離婚を要求し、キスをしたという事案(東京地裁判決平成20年12月5日)や、一緒にホテルに行き、一緒にお風呂に入り、体に触れるなどの性的な行為を行っていたという事案(東京地裁判決平成23年4月26日)でも、不法行為が認められています。



ただ、「愛してる」「大好きだよ」などのメールやLINEなどのやり取りが行われていた、手を繋いで歩いていたなどは、それだけでは不法行為にはあたらないとされる例が多いと思います。もちろん、それらの事情に加え、他の事情も併せて考えたときに、肉体関係があったと推認されるケースであれば、不法行為となることは当然です。



(3)婚姻関係が破綻していたか
さらに、「不貞行為を行ったときに、既に婚姻関係が破綻していた」という主張もよくなされます。



不貞行為は、婚姻共同生活平和の維持という権利が侵害されたから不法行為として認められるのであって、不貞行為が行われた当時、既に婚姻関係が破綻していた場合には、そのような権利侵害がないとして、不法行為が成立しないというのが判例(最判H8.3.26)だからです。



もっとも、実際の裁判で「婚姻関係が破綻していた」という主張が認められるのは、相当のハードルがあります。同居している状態で、夫婦間の会話がない、性交渉がないなどの事情があったとしても、婚姻関係が破綻していたと認められることはほとんどありません。



「家庭内別居」と主張されることもよくありますが、これが認められるケースは相当稀と考えた方がよく、最低でも実際に別居をしていないと、婚姻関係が破綻したとは認められないことが多いのが実情です。



別居していたとしても、別居直後(1~2か月程度)であれば、婚姻関係が破綻していたと認められないケースもありますので、婚姻関係破綻の主張が認められるハードルは相当高いと覚悟していた方がいいと思います。



(4)慰謝料額に関する主張
仮に、不法行為が認められるとしても、その額が次に問題となります。



慰謝料額が決まる要素は様々ですが、婚姻期間の長さ、不貞行為の頻度や期間、不貞行為当時、婚姻関係が良好であったか悪化していたか、未成熟の子の有無、不貞行為発覚後の状況(謝罪をしたか、不貞行為発覚後も関係を継続しているか、不貞相手から他方配偶者に対して嫌がらせをしているか否かなど)などです。



婚姻期間の長さや未成熟子の有無は戸籍などにより簡単に明らかになりますが、それ以外については、様々な事情を主張して、慰謝料増額事由または減額事由として主張していくことになります。



<DV>
(1)そもそもDVがあったか
まず、そもそもDV自体が存在するのかが問題となります。この場合、証拠として提出されるのは、身体的DV(殴る、蹴るなど)の場合は、怪我をしたときの診断書、殴られた部位の写真(赤く腫れている状況がわかる写真など)、警察を呼んでいれば、警察への相談記録などです。



また、精神的DV(暴言、無視など)の場合は、録音データ、LINEやメールなどのメッセージなどです。



(2)DVの程度
身体的DVの場合は、怪我をしているのであれば、その怪我の程度がどの程度重いものであったかによって、慰謝料の額が変わってきます。また、怪我にまで至っていないとしても、暴行を受けた回数がどの程度あったかによって、慰謝料額が変わってきます。



精神的DVの場合、多少の暴言があったとしても、直ちに慰謝料まで認められるわけではなく、その程度により、慰謝料が認められるか否かが変わってきます。そのため、できるだけ多くの暴言などがあったことが争いになり得ます。 また、心療内科に通っているのであれば、その診断書や薬の処方箋なども証拠として提出することがあります。



<離婚>
離婚による慰謝料は、どちらが主に婚姻関係を破綻させたのか否かが問題となります。どちらにも原因がある場合は慰謝料が認められません。そのため、お互いに、婚姻関係が破綻したのは、主に相手に原因があることを主張していくことになります。



<婚約破棄>
(1)そもそも婚約が成立しているか
婚約破棄の場合は、まず「そもそも婚約が成立していたか」が問題となります。単に長く交際している、同棲しているというだけでは、婚約(または内縁)が成立していたとはいえず、お互いが結婚する約束をすること(一方が結婚すると思っていたというだけでは足りません。)が最低限必要となります。



また、不法行為が認められるためには、単に結婚を約束したというだけでは足りず、具体的な行動をして、初めて認められることが多いです。例えば、婚約指輪を購入する、結納をする、結婚式場を決めて予約する、結婚式の案内を参列者に送るなどです。結婚に向けて、どこまで進んでいたかにより、不法行為が成立するか否かや、慰謝料額が変わってきます。



(2)婚約破棄に正当な理由があるか
仮に、婚約が成立していたとしても、正当な理由があるならば、婚約破棄をしたとしても、不法行為は成立しません。



正当な理由があるか否かは、個別の事情によりますが、相手が浮気をした、暴力行為を行ったなど、結婚していれば離婚原因となるような行為があったのであれば、正当な理由があると認められやすいでしょう。



他方、そこまでの事情はなく、単に結婚に不安を抱いただけであれば、正当な理由があるとはいえず、慰謝料が発生する可能性があります。



<ストーカー行為>
ストーカー行為に関しては、実際にどのような行為が行われたか否かが問題となります。単に、メールやLINEのメッセージがしつこい、という程度であれば、慰謝料は発生しません。



ですが、ストーカー規制法に違反するような行為が行われ、同法に基づく警告や禁止命令などが出された、あるいは同法違反で有罪判決を受けたなどの事情があれば、認められる可能性が出てくるでしょう。



簡単ではありますが、男女問題でよく問題となる慰謝料について見てみました。特に、不貞行為については、これだけで1冊の本が出されるくらい、多岐にわたる問題点がありますが、よく問題となるものに絞って簡潔にご紹介しました。参考になれば幸いです。



(中村剛弁護士の連載コラム「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」。この連載では、結婚を控えている人や離婚を考えている人に、揉めないための対策や知っておいて損はない知識をお届けします。)