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ラノベ作家たちに聞いてみた 累計100万部の大ヒットでアニメ化でも年収1000万だと夢がない?

2022年11月26日 06:20  キャリコネニュース

キャリコネニュース

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シリーズ累計100万部にアニメ化決定! ライトノベル作家として、これ以上を望めないぐらいの、理想的な展開である。しかし、そんな状態になったとしても年収が1000万円程度だ……というツイートをきっかけに、ネット上で様々な意見が交わされている。ごくごく一握りの存在ですら、年収1000万円。これは、夢のない話なのか、それとも……。(取材・文:弘中務)

もちろん「1000万」は大金ですよ!!!

まず前提として、そもそも話題の元ツイートは「作家の裏垢」を自称するアカウントがした、真偽不明なものにすぎない。ただし、数字としてはリアリティがある。

仮に計算してみよう。シリーズ累計100万部ということで、1年で30万部売れたとする。文庫ラノベが1冊650円として、30万部だと売上が1億9500万円。著者の取り分は印税が10%だとして1950万円となる。そこからザックリ所得税40%と住民税10%を引いたら1000万円を切るレベル。ツイートの数字は、まったく変ではないのだ。

もちろん「年収1000万円」は大金。給与だとすれば、かなりの高所得だ。国税庁の「民間給与実態統計調査」の「給与階級別給与所得者数・構成比」によれば2021年に給与所得が1000万円超1500万円以下だったのは全体の5.4%(1500万円超は合計で全体の2.2%)しかいない。最多は450万円超500万円以下の17.5%となっている。30万部売れたら、最多層の倍以上の収入ということになる。

ラノベ5冊を出した作家でも「専業なんて無理。結構儲かる趣味程度」

そうなると、本当は夢のある職業じゃないのか? ということで、知り合いのラノベ作家にも話を聞いてみると……。

現在5冊ほどの著作がある、とあるラノベ作家(30代・男性)は語る。

「もちろん年収1000万円で、かつアニメ化は羨ましいです。けど、それが何年続くかと思うと不安ですね。もしも、自分がそれくらい売れたとしても、本業はやめず、全額貯金に回しますよ、きっと」

兼業ラノベ作家ということだが、作品の出版ペースや部数のほどは……?

「今年は1冊しか出版できませんでした。小規模な出版社なので部数も1万部程度です。ですので専業になんてなれません。”けっこう儲かる趣味”程度に考えていますよ」

先程の計算で1冊650円、1万部、印税10%だとすれば、65万円ほどとなる。なるほど、それでも大金だが、執筆にどれほどの労力を費やしているかを考えると、濡れ手に粟ではなさそうだ。むしろ執筆時間に他の副業をしたほうが儲かる可能性すらある。

ラノベ作家を「引退」した人に聞いてみると……

かつて数冊のライトノベルを書いたものの、今はまったく別ジャンルで活動している40代の男性ライターの意見はこうだ。

「……(1000万円は)毎年入ってくる「年収」じゃなくて、あくまでその単年の収入ですよね。いまの仕事柄、ライトノベルに限らず、いろんな作家にインタビューもけっこうしているんですけど、ずっと売れ続ける作家なんて僅かでしょう」

と、おカネに関してはシビアな見方だが、「一時でもアニメ化なりで脚光を浴びたなら、十分に夢があるじゃないですか」とも語っていた。そう。実際に、アニメ化までたどり着ける作品は、ほんの一握りなのだ。

そんなわけで、よほどの大ヒットを飛ばせない限り、ラノベ作家たちも「これで人生安泰」とは思っていないはずだ。この男性は「売れなくなっても、関連で大学教員とかになれそうだからラノベ作家よりも純文学作家のほうが夢があるかも」と話していた。大学教員として安定した収入を得るのは、それはそれで高難易度だとは思うが……。

ともあれ上記2人はどちらも年収450万円程度と、本業をメインにしてしっかりと稼いでいるようだ。そうなると、ますます「ラノベに専念」は難しい。もしいったんはヒットが出たとしても、その先で2・年も売れない時期が続いたら、総収入が逆転してしまうからだ。・

さてもう一人、ライトノベル作家を目指して、ネットに投稿を続けている20代男性に話を聞いてみると……。

「年収1000万円なんて夢しかないじゃないですか。おまけにアニメ化なんて……。自分の作品もいつかそうなればいいなと思って頑張ります」

とのことだった。

ちなみに、どんな作品を書いているのかと訊ねて投稿サイトを見てみたのだが……ひとつも完結している作品がなかった。がんばれ!

さて、こんなことを書いていると19世紀ドイツの哲学者ショウペンハウアーの本の一節を思い出したので、なんとなく引用しておく。

われわれの幸福や楽しみにとって主観的なるものが客観的なるものよりもはるかに本質的であることは、飢えが最良の料理人であることや、若者が賛美する女神を老人が無関心に眺めることからはじまって、天才・聖者の生き方にいたるまですべてのことが確証している。
「生活の知恵のためのアフォリズム」『ショウペンハウアー全集』第11巻