トップへ

King & Prince、5年間の軌跡。王道アイドル曲から極上のHIPHOPまで

2022年11月24日 19:00  CINRA.NET

CINRA.NET

写真
Text by 原里実
Text by ノイ村

2018年5月、King & Princeのデビュー曲“シンデレラガール”を初めて聴いたときに感じた、目の前の景色がパッと開けていくようなあの感覚を思い出す。

言わずとしれたジャニーズ事務所から生まれたグループであり、日本のポップミュージックのド真ん中を狙っているのは明確なのに、それでもなお「これこそが王道」と直感的に理解し、「王道であることの素晴らしさ」を無条件に称えたくなるほどの圧倒的な輝き。

そのデビューはあまりにも鮮烈であり、デビュー前からのファンはもちろんのこと、ほかのアイドルグループのファン、あるいは普段は積極的にJ-POPを聴くことの少ない層に至るまで瞬く間に多くの人々を虜にしていった。いまなお、彼らのことを「真っ直ぐに王道を進むジャニーズグループ」として認識している人は少なくないのではないだろうか。

あれから約4年半が経過したいま、King & Princeは大きな分岐点を迎えている。平野紫耀、岸優太、神宮寺勇太が、CDデビューからちょうど5年となる2023年5月22日をもってグループから脱退することが発表された。以降は永瀬廉、高橋海人(※「高」は「はしごだか」)の2人によって活動が継続される予定となっている。

本稿では、これまでに発表されたさまざまな楽曲を通して、“シンデレラガール”という王道からスタートした彼らがどのように多様な音楽性を獲得してきたのか、その道のりを振り返っていきたいと思う。あえて明確に書いておきたいのだが、このテキストは今回の脱退をめぐる出来事そのものについて考えたり、何か思うところを述べたりしたいがために書いているわけではない。ただ単に、「この5年間で彼らがどのように成長し、どれほど素晴らしい楽曲を届けてきてくれたのか」というシンプルな事実を残しておきたいのだ。

King & Prince(左から:岸優太、高橋海斗、平野紫耀、神宮寺勇太、永瀬廉)。ジャニーズ事務所のアイドルのなかでも圧倒的な人気を誇り、ファンクラブの会員数は嵐に次ぐ2番目に多いと言われている

「キラキラした王道のアイドルソング」を見事に体現した“シンデレラガール”は、King & Princeという名を持つアイドルのデビュー曲としてあまりにも完璧な作品だった。同作はグループの勢いをこれ以上ないほどに後押ししたが、同時にその後のキャリアにおいて、作品に対するハードルをこれ以上ないほどに高めたのもまた事実だろう。

一方で、デビュー会見当時から平野や高橋、(当時メンバーだった)岩橋玄樹らが世界を見据えた活動に言及しており、事務所側もデビューにあたってユニバーサル・ミュージックと共同で新たなレーベル「Johnnys’ Universe」を設立したこともあってか、やがて彼らは次のステップとして、明確に海外へと視点を向けた。

そこで彼らが挑んだのが、米国・ロサンゼルスとラスベガスを舞台とするダンス / ボーカルレッスン、通称「アメリカ武者修行」だ(2ndアルバム『L&』初回限定版Bにドキュメンタリー映像を収録)。メルビン・ティムティム(ヒップホップダンス世界大会『Hip Hop International World』金メダリスト)やフィル・タイヤ(ブルーノ・マーズ“Finesse”、マーク・ロンソン“Uptown Funk feat. Bruno Mars”などで知られる振付師)、プリンス・チャールズ(リアーナ“Needed Me”、ビヨンセ“Ring Off”などで知られるソングライター / プロデューサー)といった世界的なアーティストから直接指導を受けたこの経験は、デビュー当時から定評のあったグループの実力を、さらなる高みへと引き上げることとなる。

その成果が如実に反映されているのが、2019年の2ndアルバム『L&』に収録された“Bounce”だ(通常盤のみ収録)。前述のプリンス・チャールズがソングライティングに関わり、武者修行期間中にレコーディングが実施された本楽曲は全編英語詞によるモダンR&B。それまでにも“Naughty Girl”のようなR&Bからの影響を彷彿とさせる楽曲はあったものの、ここまで音数が削ぎ落とされた海外基準のトラックはグループにとって初。

にもかかわらず、さまざまな声色を使い分けながらクールな色気を振りまくメンバーの歌声には違和感がまったくなく、むしろ新たな魅力を存分に引き出す仕上がりとなっていたのである。2022年の5月に公開された本楽曲のダンスプラクティス動画では、トラックに仕掛けられた空白を完璧にとらえながら鮮やかな動きを見せるメンバーのダンススキルに圧倒される。

この“Bounce”で提示した方向性にさらなる磨きをかけてつくり上げたのが、ついに全編英語詞のシングル表題曲となった“Magic Touch”である。トラップビートに合わせてキレのあるヒップホップと艶やかなR&Bをシームレスかつ大胆に切り替えながら、間奏にはダンス・パートも設けられた本楽曲は、世界的なメインストリームとも呼応する本気の海外仕様。

“Bounce”で垣間見せた、確実にトラックのポイントをとらえながら自らの歌声の魅力をしっかりと聞かせるスキルはさらに磨き上げられており、前述のメルビン・ティムティムが担当した振付も完璧に乗りこなして見せる驚愕の一曲だ。デビュー当時の王道のアイドル像からは想像もできなかったほどの変化だが、ここまで振り切った作品においてもなお、一つの完成形を提示してしまうのがKing & Princeのすごさであると言えるだろう。

王道のJ-POPでも、世界を見据えたポップナンバーでもある種の完成形を提示したKing & Princeは、ふたたびJ-POP路線に回帰しても良いだろうし、さらに海外路線を推し進めても良いという状況にあった(実際、続くシングル曲“恋降る月夜に君想ふ”は、王道のアイドルソングに振り切った良曲となっていた)。

そこで彼らが選んだのは、両方のスキルを併せ持つ彼らならではの「世界基準のジャパニーズミュージック」。2022年6月にリリースされた現時点での最新アルバム『Made in』は、赤と白を基調としたカラーや暖簾や家紋を取り入れたビジュアルからもわかるとおり、和のテイストを全面に押し出した作風となっている。そんな同作のリード楽曲として選ばれたのが、日本が誇るヒップホップアーティストであるKREVAが作詞・作曲・編曲を手掛けた“ichiban”だ。

何より、このタイミングでKREVAをパートナーに選んだというのが興味深い。ラップ / ビートメイクの両面において日本トップクラスの実力を誇る彼は、海外の最新の動きをキャッチしたうえで、あくまで自分が理想とする音やビートに対して、まるで職人のように向き合い続ける存在だ(筆者個人としては「禅の人」という印象を抱いている)。

特に日本で古くから親しまれている「和」の音色や、そこにある「侘び寂び」に対するこだわりは相当なものであり、提供曲“ichiban”においても、音使いや言葉の選び方、一つひとつの音を明確に発音するフロウに至るまで、その姿勢が明確に落とし込まれている。それでいて、ヒップホップらしいボースティング(自己顕示)もふんだんに盛り込まれており、この「日本らしい奥ゆかしさ」と「圧倒的な自信」を両立した絶妙なバランスをKing & Princeは完全にモノにしているのだ。

その感覚は、時にはきめ細やかに、時には自由奔放に、縦横無尽な動きで魅了していく本作のダンスにおいても遺憾なく発揮されている。まさに日本と海外、2つの視点・スキルを手にしたからこそ辿り着いた境地がここにある。

そんな彼らの最新の姿を楽しむことができるのが、11月9日にリリースされた両A面シングル『ツキヨミ / 彩り』だ。危うげなムードに満ちたミュージックビデオが印象的な“ツキヨミ”は、近年の海外のポップミュージックにおいて完全に定着したラテンをベースとしながらも、(メインストリームとなっている)ゆったりとリラックスしたムードを単に模倣したものではない。激しく乱れ打つビートと、聞き手を翻弄するかのように目まぐるしく変貌していくリズム、そこに絡んでいく性急なメロディーと情熱的な歌声によって、「愛を拒みながらも救済を求める」という複雑な心象風景を大胆に描ききった快作である。

一方、まるでメンバーの日常風景を切り取ったかのようなミュージックビデオが用意された“彩り”はまるで真逆の作風となっており、オーケストラの音色が彩る王道のJ-POPサウンドに乗せて、優しく寄り添うように、何気ない風景の素晴らしさを歌い上げる美しい名曲に仕上がっている。

海外のトレンドを踏まえつつ、あくまでも「King & Princeらしいポップミュージック」として提示する“ツキヨミ”と、デビュー時からさらに磨きのかかる真っ直ぐな想いと歌声によって、聞き手の心を力強く射抜く王道のJ-POP“彩り”。見事な二面性を持った本作は、まさにいまのKing & Princeの持つスキルが遺憾なく発揮された作品と言えるだろう。

また筆者個人としては、2018年の時点から存在し、映像作品『King & Prince First Concert Tour 2018』にもパフォーマンスの模様が収録されている隠れた名曲“Misbehave”がついに音源化されたのも嬉しい限りだ。(恐らく)アメリカ武者修行以前でありながら、トロピカルディスコを彷彿とさせる音数の少ないダンストラックを華麗かつ楽しそうに乗りこなしてみせる当時の彼らの姿は、King & Princeというグループがデビュー当時の時点でいかに優れたスキルと伸びしろを持っているのかを明確に示していた。そこにある絶大な可能性を、周りのスタッフも、何よりメンバー自身も強く信じてきたからこそ、ここまで書いてきたような音楽面・スキル面の両方における大胆な変化と成長を実現することができたのだろう。

正直なところ、これを書いているいまも、現在の彼らを巡る状況について気持ちの整理がつかない自分がいる。だが、冒頭でも書いたとおり、この5年間で彼らがつくり上げてきた楽曲が素晴らしいものであるという事実は揺るがない。また、少なくとも現在の体制での活動期間はまだ残っているし、その後もKing & Princeは続いていく。きっと、来年5月までのあいだにも、彼らはまだまだ成長し、新たな姿を見せてくれることだろう。

いまはとにかく、これまでの彼らがたどってきた道のりに想いを馳せながら、5人が揃う残された日々を大切に過ごしていきたい。