Text by CINRA編集部
本日11月20日、大石始の新著『南洋のソングライン —幻の屋久島古謡を追って』(キルティブックス)が刊行された。
大石始は世界の音楽・地域文化を追いかける文筆家で、これまでに『盆踊りの戦後史』『奥東京人に会いに行く』『ニッポンのマツリズム』『ニッポン大音頭時代』『大韓ロック探訪記』などの著書・編著書を発表する傍ら、CINRAで久保田麻琴や折坂悠太、寺尾紗穂、GEZANらの取材記事も担当してきた。
本書は、琉球音階が取り入れられた屋久島の民謡“まつばんだ”を追ったノンフィクション書籍で、3年がかりのフィールドワークを経て書き上げられた。
琉球文化圏ではない屋久島に、なぜ琉球の名残があるのか。調査を通じて見えてきたのは、沖縄~鹿児島~南西諸島に暮らす海洋民たちの生活史だったという。また本書には、“まつばんだ”を復活させようとする島民たちの活動も併せて収録されているとのこと。
12月には、鹿児島と屋久島で著者トークショーも開催。12月4日は『ash Design & Craft Fair 2022』で、12月5日は屋久島にてゲストに緒方麗と長井三郎を招いて実施される。著者のコメントに加えて、シンガーソングライターの宮沢和史、写真家の石川直樹、アーティストのコムアイからの推薦文も到着した。
【著者コメント】
歌の本質はいったいどこにあるのか。この本の取材を進めるなかで、常にそう自問自答して いたような気がしている。
僕はここで〝まつばんだ〟を伝え、歌った人々の個人史を綴ろうとしていたのだと思う。郷 土史にさえ載っていないような小さな物語を拾い集めること。しかも島の外部に生きる人間として、そうした物語を繋ぎ合わせ、そこから浮かび上がってくるものに目を凝らすこと。
ただし、本書の軸をなしているのは、あくまでも「彼らの物語」であって、「僕の物語」で はない。この本は屋久島に住む人々の物語に部外者である僕が触れた結果でもある。
屋久島の物語は必ずしも島民だけが繋いできたわけではない。琉球や山川、与論島からやっ てきた海民たちや薩摩藩の役人たち。あるいは屋久島に導かれてやってきた移住者たち。彼ら が紡いできたものも物語の一部を形成している。屋久島の個人史は実に多様で、島の内部と外 部を巡る関係もまた決して単純なものではない。だからこそ、〝まつばんだ〟のように多層的 な歌が育まれてきたのだ。(あとがきより)
【宮沢和史の推薦コメント】
消えゆくものは 消えてゆく
その理由は 誰ひとりとして
それを思い出さなかったから...
たったひとりでもいい
「それを決して忘れたくない」
と切望する人がいれば
“それ”は未来へと運ばれてゆくのだ
【石川直樹の推薦コメント】
ページをめくるたびに 次々と歌の新たな航跡が現れ
最後には見たことのない
新しい地図が自分の頭に浮かびあがってくる
島を旅するための手がかりに満ち満ちた
気持ちの良い本でした
【コムアイの推薦コメント】
降りすぎる雨の中 険しすぎる山道を
幻の古謡の放つ香りに手まねきされて
奥へ奥へと
自然の強さにかき消されそうになりながら
それでも確かに聴こえてくる
おばあからおばあへ受け継がれた
歌の鎖を辿って山頂へ
その道は海を渡り どこまで続いているのだろう