2022年11月20日 08:51 弁護士ドットコム
自分の子が犯罪を犯した時、親としてどう接していくかは悩むところだ。繰り返すことがないよう厳しい目を持つと同時に、子を信じる力も試される。
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複数の女子高校生らに対するわいせつ行為などに問われていた男の裁判員裁判が、今年8月から9月にかけて東京地裁立川支部で開かれていた。公判には男の父親が証人として出廷し、被告人を見守っていくことを約束していたが、その監督能力に疑問を呈されていた。
被告人には同種の服役前科があり、父親は前回の裁判でも、同じように息子の監督を誓っていた。にもかかわらず、被告人は仮出所から1年も経たずに再犯に及んでいたのだ。(ライター・高橋ユキ)
被告人(公判当時40)は、2020年から翌年にかけて、東京都下でウーバーイーツの配達員をやりながら、盗撮やわいせつ行為を繰り返していた。
起訴されていたのは、女子高校生3名に対する強制わいせつ致傷や強制わいせつ、同未遂、児童ポルノ禁止法違反に加え、49回に及ぶスカート内の盗撮という迷惑防止条例違反。だがこうした行為に及ぶ前段階として「のぞき」も繰り返していたことを本人は公判で認めている。
逮捕前はウーバーイーツの配達員をしていた男であったが、初公判では証言台の前まで歩くことさえやっとなほどヨロヨロとした足取りを見せ、それ以降は車椅子を使用した。
「間違いありません」と起訴事実を全て認めた被告人が、なぜわいせつ行為を2020年から繰り返していたかといえば、その直前まで服役していたからだった。
証拠によれば、被告人はまず2014年に盗撮事件で有罪判決を受けた。だがその執行猶予期間中に、住居侵入と強制わいせつに及び、盗撮事件での執行猶予が取り消されて服役していた。2020年3月に仮釈放となり、1ヵ月後にはウーバーイーツの配達員を始めたという。新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が発令されたタイミングだった。
刑務所内で性犯罪者向けの再犯防止プログラムに参加していたという被告人だったが、仮釈放からほどなく、のぞきを開始。さらに配達員のかたわら、週4のペースで早朝の駅周辺で『盗撮Gメン』として見守りをおこないながら、仮出所から半年後には、あろうことか自分が盗撮行為を再開させる。手口はエスカレートし2020年10月から翌年1月にかけて、全く面識のない女子高校生3人に対して次々と犯行を重ねていった。
そんな被告人は前回の裁判の際、あるクリニックから『性嗜好障害』との診断を下されており、父親は出所後に被告人を通院させて治療を継続する旨、約束していたのだという。さらに受刑中に受けた再犯防止プログラムを継続して受講する予定もあった。ところが、証言台の前で父親は「息子は治療には行っていなかった」と明かした。
父親「まず仮釈放後に法務省の再犯防止プログラムを受ける予定でした。本人は楽しみにしていたんですがコロナで中止になった。だからいいのかなと……」
弁護人「民間の病院には行っていない?」
父親「はい」
弁護人「法務省のほうのプログラムが中止になって民間の病院に行かせてなかったのは何か理由があるんですか?」
父親「深く考えてなかった。病名があると思っておらず……」
父親が息子の再犯について気を留めなかったのは、被告人がフードデリバリーの仕事を熱心にこなしていたことが理由だったという。
父親「出所して、フードデリバリーの仕事……いつから始めたかは定かじゃないが、出てからそんなに経っていない。本人が決めてきて、毎日休まず出勤していました」
弁護人「もう一度犯罪犯さないか心配では?」
父親「ありません。真面目に働いてた。僕もそれだけで判断していた。まー、それが間違いだったんですが……」
弁護人「またやってるのか、と聞くことは?」
父親「ないです。真面目に仕事やってるんで、またかと(思われる)、この話を嫌がるかなと思い、聞かなかった。今考えると、ある程度話し合いをしながらやってればよかったです」
このように前回の“監督不足”について後悔を滲ませる父親は、紺色のスーツを着た痩せ型で、頭髪は白く、かなり高齢に見える。43年間勤めた会社を定年退職し、被告人の逮捕までは、妻と3人で暮らしていたが、逮捕後には「田畑の多い他県に転居した」という。出所後に被告人と畑仕事をするためなのだそうだ。
また出所後は、息子の治療費も自ら捻出し、通院にも同行したいと述べた。経済的にゆとりがあるのか、支援の体制は万全ともいえるが、父親からは、息子が犯した今回の事件について「男として大体わかる。抑制するかしないか」などと、性犯罪に手を染める欲求に理解を示すかのような発言も飛び出す。
検察官「さきほど息子さんの起こした事件について『男なら思うことを抑制するかしないか』などと言っていましたがこれはどういうことですか?」
父親「人間として理解できるってのありますし」
検察官「事件を起こすってことがですか?」
父親「いや、本能として思ってると思う」
自分の息子が性犯罪を繰り返したのは、男性の本能であり、男性ならば皆そうした欲求があるのだ……といったことを繰り返す父親に「これは犯罪を理解しているということですか?」と、弁護士がフォローを入れるも、
「いえ、犯罪を理解しているわけではない、感情的なアレがある。みんな持ってるもの、ただ、それを犯罪につなげるか……」
と語っていた。息子の犯罪の欲求に理解を示す父親に、果たして監督ができるのかと、聞いていて心配になる問答である。
前回の裁判の際は、被告人ではなく父親が被害者に130万円を支払い示談に応じてもらったというが、このお金をいまだ、被告人から返してもらっていないことも明らかにした。万全の支援体制が整っているといえるのか、それとも単に甘やかしすぎているのか。
今回の逮捕後、被告人の弟から「こうなったのはお父さんの責任だ。縁を切る」と絶縁されたともいう。
「いや、甘やかしたのもあるかなと、それも一つかなと」(父親の発言)
すでに高齢の父親が、今回懲役8年の判決を言い渡された被告人の出所後にも心身ともに元気で、これまでのような経済的な支援を続けていくことは、現実のところ可能かは不透明だ。
しかしなんと言っても、被告人はすでに40歳。自分が犯した全てのことに、自分で責任を負う年齢でもある。犯行について「神の思し召し」「これはもう運命」などと、さも何か不思議な縁によって繰り返したかのような発言を繰り返す被告人に、その覚悟はうかがえなかった。
【プロフィール】高橋ユキ(ライター):1974年生まれ。プログラマーを経て、ライターに。中でも裁判傍聴が専門。2005年から傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。主な著書に「つけびの村 噂が5人を殺したのか?」(晶文社)、「逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白」(小学館新書)など。好きな食べ物は氷