世の中には、レアケースだが「働きもので、いつも奢ってくれる上司」という生き物が存在する。今回は、そんな上司にあたったと思って喜んでいたら、後ほど急転直下のトンデモな事態になったという30代男性に話を聞いた。(取材・文:山崎尚哉)
話を聞かせてくれた男性の勤め先は、とある人気レストラン。連日行列ができるレベルで大繁盛していて、デートスポットとしても使われる店だ。
その上司は40代男性で、20年以上その店で働いているマネージャーだった。店の前にできている行列をさばく「店の顔」みたいな存在で、全幅の信用をよせられていたそうだ。
このマネージャーのいいところは、やたらと羽振りがよいこと。「職場の飲み会で、いつも何万円の会計を一人で支払ってくれていました」と、男性は振り返る。
太っ腹なマネージャーはプライベートでも豪勢な暮らしぶり。外車のアウディを乗り回し、「給料も良さそうだし、独身貴族とはこのことか」という印象だったそうだ。
その後、結婚し、子どももできるなど、傍目からは順風満帆な人生に見えたという。
仕事熱心。毎日、夜遅くまで残って……。
さて、そんなマネージャーは長く勤めていることもあり、店長や経営者の信頼を得て、さまざまな業務を任されていたようだ。
「最終的な店の鍵閉めや防犯チェックなどは全てマネージャーの仕事でした。毎晩、忙しそうに従業員が全員退勤するまで残ってお金の計算をしていました。退勤後休憩室で遅くまでおしゃべりしていると、『お前ら残ってないで早く帰れ!』とよく言ってきましたね」
そんなことで、店のお金まわりを把握しているのは、基本的にこのマネージャーと、彼が休みのときにサポートをする男性社員Sぐらいだったそうだ。
そんな中、事件は起きた。それは、とある冬の寒空の日だったという。
「その日は、珍しくお客さんの入りが少なく落ち着いていました。ちょうどお客さんがいなくなったところで、店長が早めの閉店を決めました。するとそのタイミングで突然、警察が店内に入ってきたんです」
厨房からホールの様子を伺おうとした男性は、店長に「見るな!見るな!」と抑止された。
何が何やらわからない突然の事態に、大混乱する従業員たち。そんな中で、ただ一人だけ素早く動き出した人がいた。それが件のマネージャーだ。彼は仕事着のまま、財布も持たずに一目散に走って店から逃亡したのである。
ただ、突然の逃亡生活が、そんなに長く続けられるわけもない。結局、マネージャーは数日後に逮捕されることになった。
「後日聞いたところによると、マネージャーは店のカネを勝手に着服していたらしいです。取り調べの結果、トータルで2000万円以上横領していたと聞きました。男性社員Sも翌日に突然いなくなったので、おそらくマネージャーとグルだったのだと思います」
やたら羽振りが良いと思ったら、まさか長年勤務していた職場で横領に及んでいたとは……。
男性は「マネージャーという役職は給料が高いんだなと思ってました。なんかいつもよそよそしいというか、他人を信用していないかのような、影のあるような顔をしていたと思ったら、こういうことだったんですね」と振り返っていた。