2022年11月16日 16:31 弁護士ドットコム
ひきこもりの自立支援と称する「引き出し業者」に無理やり連れて行かれたあとで、同意なく精神科病院に医療保護入院させられたとして、30代の男性が精神科病院を訴えていた裁判で、東京地裁(大嶋洋志裁判長)は11月16日、男性に対する医療保護入院は違法と認定し、病院側に308万円の支払いを命じる判決を言い渡した。
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判決を受けて会見した原告の高橋さん(仮名)は「全面勝訴を勝ち取ったという認識です。判決を聞いてホッとしています。病院は素直に判決を読んでいただきたい」と述べた。
一方、病院側は控訴する方針。
医療保護入院のためには、精神保健指定医による診察などが必要だが、判決は、精神保健指定医ではない医師によって電子カルテの入力がされていることなどから、精神保健指定医が髙橋さんを診察していなかったと指摘した。
また、そもそも入院時に高橋さんが精神疾患を有していたとは認められず、精神障害者にあたらないなどとして、医療保護入院に求められる要件を欠いていたと判断した。
さらに、高橋さんの同意なく医療情報を「引き出し業者」に伝えたことは、プライバシー権を侵害するとした。
「原告は精神障害を有していたとは認められない」
裁判長の言葉に、高橋さんは法廷で首を大きく縦に振った。言い渡しが終わると目を赤くはらして、代理人弁護士らと喜んだ。
判決文や原告側弁護団によると、高橋さんは2018年5月、自立支援施設「あけぼのばし自立研修センター」(新宿区)の職員らによって、自宅から施設に連れて行かれた。
その後、足立区の精神科病院に連れて行かれ、ベッドに拘束されたり、オムツをはかせられるなど、3日間の身体拘束を含め、50日間にわたって入院させられたという。
高橋さんは2019年11月、精神科病院の医師ら4人を刑事告訴したうえで、病院側に550万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。
施設側にも裁判を起こしており、東京地裁は今年3月25日、無理やり施設へ連れて行き、部屋に閉じ込めたことが不法行為にあたるとして、施設を運営していたクリアアンサーには計110万円を支払う責任があると認めた(判決確定)。
刑事では、告訴の受理後に不起訴処分とされていたが、民事で施設と病院の違法性を認める判決が出たことを受けて、検察審査会への申し立ても検討している。
原告側弁護団の宇都宮健児弁護士は「精神障害者でもないのに、強制的に50日も拘束された。誰もが自由剥奪される危険性のある制度となっている」と話す。
病院側は、弁護士ドットコムニュースの取材に「判決をよく読んで対応したい」として、控訴する方針を示した。