2022年11月16日 10:21 弁護士ドットコム
日本弁護士連合会(日弁連)は11月14日、死刑に関するオンラインシンポジウムを開き、再審(裁判のやり直し)請求中の死刑執行について問題提起した。
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7月26日に死刑が執行された秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大元死刑囚も2度目の再審請求中だった。報告では、近年はこうした例が相次いでいるとし、弁護権の侵害にも当たると指摘。特に冤罪が疑われる事件では、迅速な再審開始の必要性を共有した。
日弁連は2016年に開催された第59回人権擁護大会において「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し、死刑制度の廃止を訴えるとともに、刑罰制度全体の見直しを求めている。2008年から毎年「死刑を考える日」を開催している。
「死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム'90」のメンバーである深田卓さんは、以前はおこなわれていなかった再審請求中の死刑執行が繰り返されている現状を問題視した。
強盗殺人などの罪で死刑が確定し、1999年12月に執行された小野照男元死刑囚は、自力で複数回にわたり、再審請求を繰り返すもすべて却下された。当時の臼井日出男法相が執行命令書に判を押したのは、弁護人が再審請求書を提出した前日のことだった。
臼井法相は、死刑廃止を推進する議員連盟に「これは死刑執行への妨害だ。だから、本人の再審請求を無視した」と語り、弁護人がおこなっていた再審請求については知らなかったという。
それから18年間、再審請求中の死刑は執行されていなかったが、2017年7月、再審請求を複数回おこなっていた西川正勝元死刑囚の死刑が執行された。4件の殺人で判決が確定していた。金田勝年法相(当時)は「再審請求をおこなっているから執行しないという考え方は取っていない」とした。
2018年には、オウム真理教の元教祖や幹部など13人の死刑が執行され、話題になった。元死刑囚の中には、初めて再審請求をしている人もいた。深田さんは「弁護人がついていても堂々と死刑が執行される現状がある」と指摘した。
一方、再審請求中の死刑執行は認められるとする解釈もある。刑事訴訟法442条が「再審の請求は、刑の執行を停止する効力を有しない」と規定しているためだ。
しかし、シンポに参加した葛野尋之教授(青山学院大学法学部)は「再審請求中の死刑執行は違法」と主張する。葛野教授によると、再審請求する権利とは、裁判所の誤った判断を正す「誤判の匡正(きょうせい)を求める権利」であるという。判断をくだすのが人間である以上、誤判(冤罪)は起こりうる。
葛野教授は「正当な理由のない刑罰によって、人の生命や自由を剥奪することは許されない」とし、再審請求中の死刑執行は「弁護人の弁護権も侵害している。再審請求は、請求人である弁護人の援助がなければ困難だ」と語った。
実際に、2人を殺害したなどとして死刑が確定していた岡本啓三元死刑囚の第4次再審請求中に執行されたとして、弁護権の侵害を訴えている3人の弁護士がいる。
弁護団のひとりである宇野裕明弁護士によると、国に対し、弁護士ごとに500万円の慰謝料と10%の弁護士費用(総額1650万円)を求め、2020年12月、国家賠償請求に踏み切ったという。宇野弁護士は「死刑執行が許されない場面を獲得するための一歩にしたい。再審請求中の死刑執行はそのひとつだ」とした。裁判は現在も続いている。
死刑確定事件の中には、冤罪が疑われている事件もある。三重県名張市で起きた「名張毒ぶどう酒事件」の奥西勝元死刑囚は、無実を訴えながら、医療刑務所で亡くなった。9回目の再審請求中のことだった。
シンポには弁護団の小林修弁護士が参加し、生前の奥西元死刑囚について語った。第7次再審請求で再審開始と死刑執行停止が決定したとき、そのことを奥西元死刑囚に伝えると、静かな声で「毎朝毎朝が恐怖でした」と語ったという。
「面会するようになってから15年が経過していたが、初めて聞いた。それまでは、負けたことを報告するたびに、奥西さんは『先生、またやってくれますか』と弁護団を励まし、気丈に振る舞っていた。そんな彼が、実は執行への恐怖を抱いていたことに気づかされた」(小林弁護士)
同じく冤罪が疑われているのが、袴田事件だ。最高裁は2020年12月、再審開始決定の取り消しを破棄し、審理を東京高裁に差し戻した。今後の裁判所の判断が注目されている。