2022年11月13日 10:11 弁護士ドットコム
軽貨物の配送ドライバーらが加盟する「建交労軽貨物ユニオン」などは11月10日、ドライバーの待遇改善を訴えるシンポジウムを都内で開いた。
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シンポには、アマゾンの荷物を運んでいた元ドライバーが登壇して「荷物の積載数や配達エリアをAIで決められるようになった結果、交通安全が守られなくなった」と批判。
ユニオン関係者らはシンポジウム終了後、アマゾンジャパン本社を訪れ待遇改善に関する要望書を渡そうとしたが、「門前払い」に遭い文書の受け取りも拒否されたという。
配送ドライバーの多くは、個人事業主として運送会社などと業務委託契約を結び、荷物を運んでいる。個人事業主は本来、契約企業の指揮命令を受けずに自己裁量で作業の進め方を決められるはずだが、実態は雇用されたドライバーと同じ仕事をしている、というケースも珍しくない。
アマゾンの荷物を配送するドライバーだった大島二郎さんによると、積み込む荷物の数や、どのエリアを何時まで誰に任せるかを決めていたのは、契約していた企業の社員ですらなくAIだった。積み込み作業が長引くなどして、AIの計画通りには配達が進まないこともしばしばあったが、現場の管理者は元請けの不興を買わないよう、AIの言いなりになっていたという。
大島さんは「人間が常識の範囲内で判断すれば、安全に配達できるはずなのに、AIという制御できないシステムに指示されるためドライバーがやむなく運転を急ぐなどして、交通安全が脅かされるリスクが生まれていた」と語った。
軽貨物ユニオンの高橋英晴執行委員長は、ドライバーに対して実施したアンケート結果を発表した。それによると回答数132件の25.8%が、1日の平均労働時間を「12時間超」、約半数が勤務日数を「週6日以上」と回答していた。高橋氏は「長時間労働が蔓延している上に、休日も確保できていない実態が明らかになった」と話した。
さらにコロナ禍で職を失った人が、参入障壁の低い配送ドライバーになったことで「仕事の取り合いが生じている」とも指摘。新たにドライバーになった人らが、不慣れな仕事で「1年に2、3回交通事故を起こすケースもある」という。
配送中の転倒や重い荷物の運搬などでケガを負うドライバーも多く、ユニオンに寄せられた相談の中には「ケガで仕事を休んだところ、他のドライバーが穴埋めに入り仕事に戻れなくなった。その上、稼働できなかった時間の損害賠償を請求された」といった内容もあった。
「休んだら戻れる保証がないので、多少のケガでも無理をして働いている人も多い。参入者が増えたので配達単価もどんどん下がっている」(高橋氏)。
登壇者の一人である首藤若菜・立教大教授は「通販の普及でドライバーの人数も相当数に上っており、個人事業主として働く者の保護の在り方を考える必要性が高まっている」と強調。事業者数が増えるほど単価が下落し、減収を補うため長時間労働を迫られるといった悪循環に陥るのを防ぐためにも「標準配送運賃や、乗務時間の上限などのガイドラインを設けるべきだ」と話した。
大島さんは、昨年5月ごろから配達個数が激増したが、報酬は1日当たりの定額だったため、契約企業に報酬引き上げを要望した。しかし企業側から「君の話はもっともだが、我々も下請けで上に物は言えない」と回答されたという。
また楽天グループの配送業務を請け負っていた運送会社トランプ(埼玉県川口市)の矢作和徳社長によると、同社は楽天グループの配送に車両1万9109台を稼働させたが、支払われた代金は、稼働台数より272台分少なかった。
同社はその後、契約で定めた事前告知がないまま突然契約を解除されたとして、同グループに損害賠償を求める訴訟を起こした。同グループからは減額された代金を含む請求額の一部が支払われたという。
軽貨物業界は、大手事業者の下に2次、3次と下請け企業が重なり、ドライバーは下請けと契約を結んでいる。川上の事業者が、一方的に下請けへの支払いを減額する「買いたたき」も横行しており、中には買いたたかれた分、契約ドライバーへの支払いを減らす下請けもあるという。
矢作社長は「大手事業者の買いたたきで、しわ寄せを受けるのは立場の弱いドライバー。しかし彼らには時間的、経済的な余裕もなく、声を上げられずにいる」と語った。
労働問題に詳しい水口洋介弁護士は「重層下請け構造を規制し、大手の優越的地位の濫用から個人事業主を守る必要がある。軽貨物業界が社会のインフラとなった今が、法整備のチャンスだ」と述べた。
大島氏や軽貨物ユニオンのメンバーはシンポジウム後、アマゾンジャパン本社を訪問し、配達単価の引き上げや荷量の適正化などを求める要請書を提出しようとした。事前に担当者へ訪問時間などを伝えていたにも関わらず、受付で警備員に阻まれ、書面の受け取りも拒否されたという。同ユニオンは今後、同社へ書面を郵送するとしている。
高橋氏は「契約ドライバーが実態として労働者であると認められれば、組合に加入して団交を申し入れることが可能になり、経営側も拒否できなくなる」と主張する。実際に、契約ドライバーと事実上の雇用関係にあったとして、運送会社が労働基準監督署から是正勧告を受けたケースもある。
ただ労働基準法や労働組合法で規定された「労働者」として認められるかどうかは、会社から指揮命令を受けていたかなどの判断基準(労基法と労組法で異なり、労組法の方がハードルが低い)をクリアする必要がある。水口弁護士は「明らかに労働者として認められる人だけでなく『グレーゾーン』の人も含め、ドライバーをおしなべて保護できる仕組みが必要だ」と訴えた。
(ライター・有馬知子)