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ツイッター人員削減の衝撃、日本企業と異なる外資系のシビアな「切り方」 弁護士が徹底解説

2022年11月12日 08:41  弁護士ドットコム

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ツイッター社を買収したイーロン・マスク氏がこのほど、同社従業員の約半数を解雇するほか、日本法人で働く社員もその対象となるなど、大規模な人員削減に着手したことが報じられた。


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一方、テレ東BIZ(11月9日)の報道では、日本法人の社員に対して、現時点では解雇対象となったという通知が来ただけの段階で、今後退職金などについて話し合いが行われるとの見方も示されている。



使用者側の労働事件に詳しい向井蘭弁護士は、「程度の差こそあれ、この種の人員削減は、多くの外資系企業で行われている」としたうえで、今回の「解雇」騒動の実態が退職勧奨なのだとすれば「多くの従業員が退職勧奨に応じて退職すると思う。法的紛争に発展するのは一部の従業員のみではないか」と話す。



日本での整理解雇は難しいとも言われる中、外資系企業(特に解雇が自由なアメリカ企業)による人員削減はどのように進められるものなのだろうか。向井弁護士に詳しく解説してもらった。



● 外資系企業の考え方「削減ありき」「訴訟上等」

イーロン・マスク氏がツイッター社を買収したことにより、日本法人のツイッタージャパンでも大規模な人員削減が始まったと報道されています。



まだ、確定的な報道はないものの、いきなり整理解雇をしたものではなく、現時点(11月10日時点)では、退職に向けての話し合いを進めている状況にあると言われております。



そこで、外資系企業の人員削減について述べてみたいと思います。



外資系企業の人員削減における考え方については、日本の一般的な企業と比べて以下の特徴があります。



(ア)削減人員数ありき



外資系企業の本部の基準に従って、突然「いついつまでに何名削減してほしい」との指示が日本側に伝えられます。



つまり、外資系企業の場合、売り上げ等の独自の基準に従って従業員の頭数が決まっていることが多く、本部が考える適正な規模に収まるように期限を切って具体的に人数を削減するよう指示をしてくるのです。



(イ)特定の個人を指名して退職してもらう(希望退職募集を嫌がる)



外資系企業の場合、特定の個人を指名して解雇や退職勧奨を通じて退職してもらうことがほとんどです。会社の業績に貢献していない従業員から先に退職してほしいからです。



日本企業の場合は、円満に人員削減を終えることを優先するので、退職したい人が応募できるように希望退職募集を用いますが、外資系企業は、後述するとおり、希望退職募集を嫌がります。



(ウ)場合によっては解雇・訴訟も厭わない



退職勧奨などでどうしても合意退職が成立しない場合、外資系企業は整理解雇を行うことがあります。この点が日本の一般的な企業(特に大企業)と大きく異なる点です。



外資系企業の整理解雇は無効と判断されることが多いのですが、外資系企業はそれでも解雇に踏み切ることがあります。



理由はそれぞれの事案で異なるとは思いますが、「他の退職勧奨により退職した従業員との公平性を重視する」、「法的な判断を仰ぐことは何らおかしくはないという考えを持っている」、「解雇訴訟の中で合意退職が成立する場合も多い」等の理由から解雇に踏み切ることがあります。



一方、特に日本の大企業の場合は、訴訟で整理解雇が有効となる可能性が高くない限り整理解雇には踏み切りません。整理解雇が違法無効となることで受けるリスクを避ける傾向が強いと言えます。



●外国人経営者が希望退職の募集を嫌がるワケ「私が株主から訴えられる!」

経営悪化等の経営上の理由による人員削減のための解雇は「整理解雇」と呼ばれています。



日本では、使用者が自由に解雇をすることができましたが(民法627条)、労働者の生活に与える影響などを考慮して、裁判所は次第に権利濫用という枠組みで解雇の有効性を判断するようになりました。



特に整理解雇は、従業員側に落ち度はなく、経営上の都合から解雇することから、(a)人員削減を行う経営上の必要性、(b)解雇回避努力、(c)被解雇者選定基準の合理性、(d)被解雇者や労働組合との間の十分な協議、という4つの要素から判断するという枠組みが用いられるようになりました(東洋酸素事件〈東京高裁昭和54年10月29日判決〉が有名です)。



(b)解雇回避努力についてだけでも、以下の内容が挙げられ、外資系企業の整理解雇の多くの事例では、このような義務を履行していないとして整理解雇は無効と判断されています。



(1)経費の削減:交際費、広告費、交通費など
(2)役員報酬の減額
(3)新規採用の中止
(4)時間外労働の中止
(5)正社員の昇給停止、賞与の抑制、削減
(6)配置転換、出向
(7)一時帰休
(8)非正規社員の雇い止め
(9)希望退職の募集



多くの外資系企業はこのような解雇回避義務を履行することを避けます。



特に、(9)の希望退職の募集については、私が外国人経営者に提案しても「どこにでも転職できるほど優秀な人材に希望退職されてしまったら、会社の損失だとして私が株主から訴えられる」と言われたことすらあり、理解してもらうことが困難です。



そのため、上記(a)~(d)の要素に照らして外資系企業の整理解雇は無効と判断されることが多いのです。



●「退職勧奨」と「解雇」の違い

会社からの働きかけで従業員に辞めてもらう場合、2つのケースが考えられます。



会社と従業員との話し合いを通じて従業員自らの意思で退職に応じてもらうケース(退職勧奨)と、従業員の意思にかかわらず会社から一方的に労働契約を終了させるケース(解雇)です。



解雇の場合、法律上の規制があり、適法性が厳格に判断されることとなります(労働契約法16条)。なにより、従業員本人の意思に関係なく行われるものなので、後々のトラブルに発展しやすいといった点があります。したがって、解雇は極力避けることになります。



退職勧奨は、会社と従業員との間で退職に向けた話し合いは行いますが、実際に退職するかどうかの決定は従業員自身が行います。そして、従業員が退職に応じる場合には、会社と従業員との間で労働契約の終了の合意をすることになります。



退職勧奨については解雇とは異なり、厳しい明確な法規制があるわけではありません。実際の人員削減では、多くの場合、解雇よりも退職勧奨により退職してもらうことを目指します。



●労使の思惑から「退職勧奨→合意退職」に落ち着くことが多い

外資系企業において、対象従業員が退職勧奨に応じて退職するか否かは、色々な要素を検討した上で、最終的に合意退職に応じることが多く、その要素をお伝えしたいと思います。



(1)労働者側の思惑「提示される退職金と紛争になることの再就職への支障を比較検討する」



外資系企業が退職勧奨を行う場合、ほとんどの場合、特別退職金(以下「退職金」)を提示します。



職場復帰を目指して徹底的に争う方も中にはいますが、割合としてごくわずかであり、多くの方は職場復帰を目指そうと考えておらず、退職金をもらって再就職することを目指します。



当然、労働者側からすれば退職金は高い方が良いですが、退職勧奨に関する交渉がうまくいかない場合は、外資系企業は交渉を打ち切り、解雇を選択することがあります。そうなれば否応なく法的紛争(交渉・労働審判・訴訟)に移行してしまいます。



法的紛争に移行してしまえば、再就職に支障を生じさせることがあります。短期間の交渉であれば問題ないのですが、交渉が長引いたり、訴訟になれば、なかなか再就職活動が難しくなります。



といいますのも、日本の解雇法制はあくまでも法的には解雇無効による職場復帰を前提とした地位確認請求を前提としているため、再就職をしてしまえば職場復帰をする意思はないと判断され、地位確認請求が認められない可能性が出てくるためです。



特に通常訴訟になると1~2年かかることもありますが、その間再就職をすることは難しくなります。また、弁護士に依頼して交渉・訴訟等になればそれに伴うコストもかかります。



一般の労働者がここまで考えることはないと思いますが、漠然と法的紛争になれば再就職に支障を生じると考えますので、多くの場合、提示される退職金に不満があっても受け入れて合意退職が成立します。



もちろん、弁護士や労働組合を通じた交渉や労働審判による解決により比較的短時間で解決することもありますが、労働者側からすれば心理的ハードルが高く、それよりも再就職活動に時間を使いたいと考える方が多いと思われます。



(2)使用者側(外資)の思惑「訴訟のリスク・コストも避けたいが、場合によっては解雇に踏み込み訴訟解決も辞さない」



外資系企業もできれば訴訟などの法的紛争に発展することは避けたいと考えます。



訴訟等の法的紛争にかかるリスクやコストがかかることを懸念することは労働者側と同じで、多くの場合、金銭を提示して退職勧奨を行い、解決を目指します。



もっとも、外資系企業の場合は、本部からの指示が明確で揺るぎないことが多いため、一定期限内に何としても人員削減を行うことが求められます。



また、大人数に退職勧奨を行う場合、労働者側も労働者同士で情報を共有するため、退職金も一定のルールにもとづいて提示し退職勧奨を行いますので、特定の労働者のみ優遇して 退職金を支払うことができません。



そのため、退職勧奨がうまく進まない場合は、人員削減を達成するため、整理解雇に踏み切り、訴訟での解決も厭いません。



●法的紛争に発展するケース「多くないのではないか」

程度の差こそあれ、今回のツイッター社のような人員削減は、多くの外資系企業で行われていることです。



同じ日本の労働法が適用されても、外資系企業は日本の一般的な企業よりも人員削減に対しシビアな態度で臨みますが、外資系企業で働く労働者もそれを前提として働いていますので、思ったよりも法的紛争に発展しません。



ツイッタージャパンの内部事情は分かりませんが、おそらく多くの従業員が退職勧奨に応じて退職するのではないでしょうか。法的紛争に発展するのは一部の従業員のみと思われます。




【取材協力弁護士】
向井 蘭(むかい・らん)弁護士
東北大学法学部卒業。平成15年弁護士登録。経営法曹会議会員。企業法務を専門とし、特に使用者側の労働事件を数多く扱う。企業法務担当者に対する講演や執筆などの情報提供活動も精力的に行っている。
事務所名:杜若経営法律事務所
事務所URL:http://www.labor-management.net/