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【いざ、ラリージャパン2022】注目の参戦ドライバー紹介/Vol.5『ティエリー・ヌービル』

2022年11月09日 22:01  AUTOSPORT web

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2014年からヒョンデのエースとしてWRCを戦う、ベルギー出身のティエリー・ヌービル
 いよいよ日本に帰ってくる、ラリージャパン。WRC世界ラリー選手権『フォーラムエイト・ラリージャパン2022』が、11月10~13日にシーズン最終戦として愛知県と岐阜県を舞台に開催される。北海道での開催以来、実に12年ぶりのカムバックとなる日本での世界選手権を楽しみ尽くすべく、ここではエントリーリストに名を連ねる有力参戦ドライバーや、今季より導入の最高峰“ラリー1”クラスの最新ハイブリッド車両の成り立ちや個性を紹介する。その第5回は、次世代を担う若手のホープとして期待を集め、WRC昇格後にはヒョンデ・シェル・モビスWRTのエースとして毎年タイトル候補の一角に名を連ねる【ティエリー・ヌービル】にスポットを当てる。

 難易度の高い舗装イベントを数多く開催する国内選手権の特徴もあり、かねてよりWRCの舞台に“ターマック・マイスター”を数多く輩出してきたベルギーだが、往時のブルーノ・ティリー、フレディ・ロイクスといった同国出身ラリーストの系譜に連なる次世代スター候補として、華々しく表舞台に登場したのがヌービルだった。

 グループPSAの育成ドライバーとして、2010年には2輪駆動のシトロエンC2スーパー1600でJWRCにも参戦したが、その名を轟かせたのは当時の若手登竜門として機能していたIRCインターコンチネンタル・ラリー・チャレンジの方だった。

 欧州域内を中心に、モンテカルロやサンレモ、ツール・ド・コルスにサファリ・ラリーなど、当時のWRCカレンダーから外れていた人気イベントを網羅した同シリーズでは、フォルクスワーゲン系のサポートを受けシュコダ・ファビアS2000で戦うアンドレアス・ミケルセンらとともに、その速さやルックスでも注目を浴びた。

 当時からカラフルなフレームを好んだ“メガネの貴公子”は、プジョー207 S2000でタイトル争いを繰り広げ、ユホ・ハンニネンやブライアン・ブフィエ、ヤン・コペツキーらを相手に、そのコルシカとサンレモを制覇して年間2勝をマーク。ガイ・ウィルクスやパトリック・サンデル、トニ・ガルデマイスターといったWRC経験者らも差し置き、同郷の先輩ロイクスに次ぐランキング5位に入った(王者はミケルセン)。

 翌年もIRCを連覇した好敵手ミケルセンとは対照的に、一足早くWRCへの昇格を果たしたヌービルは、セバスチャン・ローブが9連覇を決めた2012年にシトロエンのジュニアチームから最高峰カテゴリーにデビュー。『シトロエンDS3 WRC』をドライブして、アルザスでは自己最高の4位を記録する。

■ローブ&オジエの“セバスチャンズ”同様の起用さを持ち、WRC通算16勝

 このうち、ニュージーランドとサルディニアの2戦で同じくシトロエンのサテライトだったカタールWRTから参戦したことも契機となり、翌2013年はMスポーツ陣営の支援にスイッチしたカタールともども、本格フル参戦の機会を求めて移籍を決断する。

 新天地フォードで全13戦にエントリーしたヌービルにとって、豊富なテスト機会が提供されるなどマイレージを稼げたこと、そして当時の『フィエスタRS WRC』が相対的に戦闘力を有していたことも奏功し、第3戦メキシコの自身初表彰台を皮切りに、ギリシャ以降は5戦連続、そしてすでに翌年の電撃移籍を表明していた最終戦GBでもポディウムに登壇。開幕戦モンテカルロと第4戦ポルトガル以外は全戦トップ5という安定した戦績を残した。

 この実績により2014年からWRC復帰を果たしたヒョンデにエース待遇で迎えられると、シェイクダウンで大クラッシュを喫した第9戦ラリー・ドイチェランドでは、僚友ダニ・ソルドを従えワン・ツーでのWRC初優勝を成し遂げた。

 以降のシーズンでは、一時期ワークスノミネートを外れるなど不遇をかこった時期もありつつ、2017年から3年連続でチャンピオン候補として戦いランキング2位を記録。しかし通算16勝を挙げながら、王座に向けここ1番というラリーでクラッシュやトラブルに見舞われるなど、WRCでのチャンピオン誕生を待ち望む母国ベルギーや世界中のファンをヤキモキさせるシーズンが続いている。

 ただ、出身国が育んだターマック・ドライビングの精度は本物で、2019年にはTCRドイツ・シリーズのニュルブルクリンク戦にワイルドカード参戦し、いきなり予選コースレコード樹立からのポール・トゥ・ウインを飾るなど、ローブ&オジエの“セバスチャンズ”同様の起用さと、ラリードライバーらしからぬブレーキングの繊細さを兼ね備える。

 そのフランス出身チャンピオン経験者らと同様に、フロントタイヤのリミットを追求するスタイルで、2021年にはWRC初開催となった地元の名物イベント、イープル・ラリーを制し(大先輩ロイクスが7勝を記録するイベントでもある)ファンを沸かせたが、同じくターマック戦となるラリージャパンでも、その鮮烈なスピードを披露してくれるはずだ。