2022年11月07日 10:21 弁護士ドットコム
夫婦円満な生活を送るためにも、できれば事前にトラブルの芽は摘んでおきたいものです。そこで、年間100件以上離婚・男女問題の相談を受けている中村剛弁護士による「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」をお届けします。
【関連記事:花嫁に水ぶっかけ、「きれいじゃねえ」と暴言…結婚式ぶち壊しの招待客に慰謝料請求したい!】
連載の第17回は「どこからがDV? 政府も対策強化へ」です。最近は殴ったり蹴ったりする身体的暴力の他に、言葉などで精神的に相手を追い詰める「モラハラ(モラルハラスメント)」の深刻さも注目されています。
政府は、DV防止法改正案を策定し、来年の通常国会への提出を目指しています。そこで、そもそもDVとは何か、改正で何が変わるのかについて解説してもらいました。
DVとは、家庭内における配偶者からの暴力行為で、ドメスティック・バイオレンス(Domestic Violence)の略です。ここでいう暴力は、一般的に、(1)身体的暴力、(2)精神的暴力、(3)性的暴力の3種類に分けられます。
(1)の身体的暴力は、その名のとおり、物理的に身体に対して加えられる暴力です。具体的には、拳で殴る、平手打ちをする、足で蹴る、腕や髪の毛などを引っ張って引き倒すなどです。
なお、ここで言う暴力は、刃物を突きつける、物を相手に向かって投げるなど、実際に相手の身体には当たらず、怪我をしなかった場合も含まれます。
(2)の精神的暴力は、いわゆるモラル・ハラスメント(モラハラ)になります。相手を罵倒する、無視する、人格否定をする、大声で怒鳴る、執拗に監視する、わざと大きな物音を立てる、などです。生活費を渡さないなどの経済的DVと呼ばれるものも、ここに含まれることもあります。
(3)性的暴力は、相手が嫌がっているにもかかわらず、性行為を強要したり、避妊に協力しないなどの行為です。
これらは、犯罪行為に該当するものも、そこまでは言えないものもありますが、被害者の個人の尊厳を害する重大な人権侵害であり、根絶すべきものとなります。
身体的暴力は、現行法でも、基本的には暴行罪や傷害罪などの犯罪が成立します。DVがあまり認知されていない時期は、家庭内の出来事ということで軽視されていたようですが、最近は、身体的な暴力がなされた場合、警察に通報すれば相当程度対処してくれることが多いと思います。
その場合、暴力の強さや怪我の程度にもよりますが、警察が相手に対して一時的に(例えば一晩)別の場所で過ごすよう伝えて、相手と離してくれることが多いと思います。怪我が重大であれば、相手が逮捕されることもあります。
この場合は、DV防止法に基づく保護命令の申立てが視野に入ってきます。
保護命令とは、被害者を保護するために、裁判所が、加害行為を行った配偶者に対し、一定期間、被害者や被害者の子、親族へのつきまとい等の禁止や、自宅からの退去等を命じるものです。これに違反した場合は、刑事罰もあります。このような保護命令を裁判所に出してもらって、自らの身体の安全を確保することが重要になってきます。
また、すでに離婚している場合や、別居している配偶者の元に頻繁に訪れているような場合であれば、ストーカー規制法による対処もあり得ます。
これらが行われていた場合は、暴力や怪我の程度にもよりますが、法律上の離婚原因として認められることが多く、慰謝料も認められることが多いです。
これに対し、いわゆるモラハラのケースでは、脅迫などの犯罪行為に当たるケースはあるものの、必ずしも犯罪行為に当たるとは限りません。しかし、犯罪行為に当たらないからこそ厄介なものでもあります。
特に、長年、家庭内での相手方からの支配に悩まされ続けていたケースでは、そこから抜け出すのは容易ではありません。場合によっては、「相手がこのようなことを言うのは、自分が悪いからではないか」と感じる人もおり、相手が悪いということを理解するまで、相当時間がかかるケースもあります。
また、身体的暴力に比べ、裁判を行った際に、法律上の離婚原因となるか否かや、慰謝料が認められるか否かについて、微妙なケースも見られます。また、身体的暴力に比べると、怪我などの外形的に明らかなものがないこともあり、家庭内で行われるため、証拠に乏しいことも少なくありません。
モラハラを受けているケースでは、まずは相手からの支配から逃れることが必要です。そのため、早期に別居をすることが重要になってきます。そうして、冷静になって考えてみると、相手の行動の異常さに気が付く、ということもよくあります。なお、モラハラを行ってくる加害者には、パーソナリティ障害など、精神的に問題を抱えているケースも多く、治療が必要な場合もあります。
そのため、このようなケースでは、自ら直接交渉するのではなく、代理人弁護士をつけることを強くお勧めします。自ら交渉を行うと、多大なストレスを抱えるばかりでなく、萎縮してしまい、相手の思うがままにされかねません。
他方、近年は、「モラハラ」という概念が肥大化しているケースもあり、裁判においては、相手の嫌なところがあったら、とりあえず「モラハラ」と主張される、ということもあります。モラハラの加害者とされる側の代理人をやっていても、相手の主張に首を傾げることもあります。
離婚事件において、モラハラが問題となるケースは多くあります。身体的暴力が問題となるケースはそれほど多くはありませんが、モラハラが問題となるケースはよく見かけます。
ただ、重要なのは、「モラハラに当たるかどうか」ではなく、「相手により被害者の尊厳を非常に傷つけられているか」ということです。法律的には、その程度により、法律上の離婚原因となるか、慰謝料が認められるか否かが決まります。
また、婚姻費用や財産分与などは、モラハラにあたるか否かに関係なく認められるものであり、「モラハラに当たるかどうか」に固執する必要は必ずしもありません。大切なのは、相手との婚姻関係を終わらせたいか否かになります。
3つ目は、望まない性行為の強要など、性的な暴力が行われるケースです。これは、(1)身体的暴力や(2)精神的暴力に加えて行われることが多いものですが、それで妊娠してしまうケースもあり、そうなってしまうと、身体的に負荷が大きいのみならず、精神的にも大きな負担となってしまいます。暴行や脅迫を伴うものであれば、夫婦間といえども、強制わいせつ罪や強制性交等罪が成立し得ます。
「DV」というと、どうしても「加害者=男性」「被害者=女性」というイメージを抱きがちですが、もちろん逆のケースもあります。
すなわち、女性が加害者となるケースでは、(1)身体的暴力では、包丁を突き付ける、物を投げるなど、武器を使って暴力が加えられることもあります。
また、(2)精神的暴力として、相手の人格を否定する、無視する、執拗に監視するなどの行為が行われるケースもあります。男性側は、このような被害を受けていても、申告しづらいという方もおり、深刻な状況になるまで誰にも相談できずに抱えてしまうといったケースもあります。
上記で挙げた暴力に耐えきれずに、別居した場合は、一般的に、「支援措置」の申し出を行うことが多いです。「支援措置」というのは、正確には、住民基本台帳事務におけるDV等支援措置といいます。
別居した後、住民票に新しい住所を載せてしまうと、相手が住民票を閲覧し、現住所が発覚してしまう可能性があります。かといって、住民票を移さないままだと、国や自治体など、公的機関からの書類が届かないことがあり、また、児童手当も住民票をベースに別居か否かが判断されることも多いため、何かと不便なことが起きます。
そのようなときに行われるのが、支援措置です。これが行われた場合には、相手が住民票の閲覧を行うことができなくなり、住所が発覚する恐れが減ります。
DVから逃げ出した場合は、支援措置の申し出も行うことが一般的ですので、市役所等に問い合わせてみてください。ただし、暴力が全く行われていないにもかかわらず、暴力が行われたと申し出て支援措置を申し出ると、稀にではありますが、それが不法行為にあたるとされたケースもありますので、ご注意ください。
現在、国で配偶者暴力防止法、いわゆるDV防止法の改正が議論されています。その中でも、メインで議論されているのが、保護命令の強化です。
上記のとおり、保護命令はかなり強力な効果があるのですが、現在、保護命令が認められるのは、身体的な暴力に加え、生命等に対する脅迫に限られるなど、厳しい要件があります。
そこで、今、議論されているのは、「被害者を畏怖させる言動」も対象に加え、「精神に対する重大な危害を受ける恐れが大きい場合」についても対象にし、より認められやすくしようというものです。
近年は、DVが問題となるケースが多々あります。DV防止法が改正されれば、より被害者救済に繋がるかもしれません。今後の法改正の動向に注目したいと思います。
(中村剛弁護士の連載コラム「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」。この連載では、結婚を控えている人や離婚を考えている人に、揉めないための対策や知っておいて損はない知識をお届けします。)
【取材協力弁護士】
中村 剛(なかむら・たけし)弁護士
立教大学卒、慶應義塾大学法科大学院修了。テレビ番組の選曲・効果の仕事を経て、弁護士へ。「クライアントに勇気を与える事務所」を事務所理念とする。依頼者にとことん向き合い、納得のいく解決を目指して日々奮闘中。
事務所名:中村総合法律事務所
事務所URL:https://rikon.naka-lo.com/