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実績抜群のエリート営業マンが起業! チャンスと信じて付いて行ったら大後悔した話

2022年11月06日 06:20  キャリコネニュース

キャリコネニュース

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かつて某有名出版社の営業職だった男性(30代後半)は、いまでも5年前の選択を悔いている。

彼は、業界トップクラスの営業成績だったエリート社員から「僕が独立して立ち上げる新会社に来ないか」と誘われ、その将来性に賭けて転職を決めたのだが……これが大失敗だったというのだ。

「営業マンとして優秀な人が、経営者として優秀とは限らない。そんな当たり前のことに気づけなかったんです……」

いったい何が起きたのか、男性に詳しく語ってもらった。(取材・文:広中務)

「アニメ作品に出資する夢」も語っていたが……。

某有名出版社で営業職をしていた男性。「一緒に仕事をしよう」と彼を誘ってきたのは、同業他社の優秀な営業マンだった。

「会社は違いましたが、年齢もほぼ一緒ですので長く付き合いがありました。自分の成績はそこそこですが、向こうは大変優秀な人で好成績をあげていました。ただ、ずっと自分の売上に対して給料が安すぎることを愚痴っていましたね」(男性)

そんな優秀な人物が独立して会社をつくる。「これは成功するに違いない」と、男性は目がくらんでしまったという。

「いま考えると、事業計画があまりにもあやふやだったのですが、それまでの実績を知っていたせいで、きっと成功するのだろうとまったく疑っていませんでした」

いったい、どんな事業を行う会社なのか。

「アニメグッズの製作販売です。そこから始めて、いずれは自社でもアニメの制作委員会に出資をする夢まで語っていました」

彼らが勤めていた大手出版社は、アニメ原作を多数抱えていた存在。当然男性たちにも、そうしたビジネスへの知見が一定程度はあった。しかし、実際に仕事を始めてみると、見えてきた風景はそれまでとまったく違っていたという。

「『社長』が出版営業として実績があったのは事実です。そして、それまで有名漫画家やアニメ関係者に人脈を持っていたのも事実です。でも、それはあくまで大手出版社の看板があってのものという基本を、私自身も忘れていました」

彼らは、これまでの人脈があれば、人気作品の版権許諾を得られるとなんとなく思っていたのだという。しかし……。

「アニメの場合、製作委員会に版権許諾を申請して許可を得てからグッズを製作するわけです。ところが全然許可なんて得られません。なぜなら売れそうな作品は、たいてい製作委員会そのものにグッズを製作している会社がすでに入っているからです」

つまり、「事前にヒットが見込める作品」のグッズを製作することは、新参者企業にとって、ほぼ不可能なのだ。結局のところ、彼らが販売することができたのは、売れるかどうか微妙な作品のグッズばかりということに……。

「グッズは大抵の場合、版権使用料として価格の5%を支払い、7掛けで下ろします。ということは、1000円の商品でも粗利は650円。そこから製作コストを除いたら、儲けは微々たるもの。結局、売上は人件費が出るかどうかギリギリのラインでした」

いきなり目論見が大崩壊してしまったわけだが、まあベンチャー企業なんてどこも失敗だらけ。うまくいかないときにどう方針転換するかが重要だ。そういうときにこそ、創業メンバーたちで知恵を絞って、アイデアを出すべきなのだが……。

その肝心のアイデア出しを躊躇するほどに、社内の空気が悪かったというのだ。

「自分を含めて社員3人ほどしかいない会社なのですが、とにかく社長のプライドが高い。自分の思いついたアイデアには賛同を求めるくせに、他のアイデアにはダメ出しばかり。それも、いきなりキレたりするんです。とにかく自分は誰よりも優秀で、ほかは無能という世界観なんだな、と思いました」

社長は「営業職としては優秀だったかも知れないが、経営者としての才覚はまったくない人物だった」と男性は回想する。

「飲みに行っても、酒の注ぎ方とか注文の仕方とか、いちいちキレながらダメだしをするんです。上の指示通りに動く営業マシンとしては、優秀だったんでしょうけどね……」

誘ってくれた義理もありこうした扱いにも我慢していた男性だが、最終的に1年余りで「もう、付き合いきれない」と告げて退職を決断したそうだ。

そして、会社もそれから半年ほど後、「終了」となったそうだ。

大企業で活躍していた優秀な人でも、ちょっと立場が変わればまったく持ち味を活かせないことはよくある。この「社長」の場合も、そういうケースだったのだろう。なんとももったいないことだ……。