2022年11月05日 08:01 弁護士ドットコム
2021年8月、大津市内で母親の代わりに面倒をみていた兄(無職=当時17)による暴行で、小1の妹(7)が亡くなる痛ましい事件が起きた。経済的な理由などで、別々の児童養護施設で育っていた兄妹が母と3人で暮らすようになったのは、わずか4カ月前のことだった。
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その大津市内で子どもと若者の居場所作りなどの支援をするNPO法人の理事長・幸重忠孝さんは今、若者たちの就労支援に取り組んでいる。子どもたちの支援をする中で、子ども時代の環境から「乗り越えるパワー」を得られなかった若者たちは社会に出ると、壁にぶつかることに気づいたからだ。幸重さんに話を聞いた。(ルポライター・樋田敦子)
※『コロナと女性の貧困2020-2022――サバイブする彼女たちの声を聞いた』(著:樋田敦子・大和書房)の一部を再編集したものです。
大津市内で2016年から、子どもと若者の居場所(「トワイライトステイ」「ほっとるーむ」「ジョブキャッチ」などを運営)を作り、支援をしているNPO法人「こどもソーシャルワークセンター」理事長、幸重忠孝さん。
現在取り組んでいるのは、生き直り支援だ。学校に行けなかったり、中退したりした若者は就職ができない。引きこもりやニートの予備軍が増えていることを目の当たりにし、どうしたら彼らに働くための活動を作っていけるのかに苦心している。
そのような若者は自信がなく、生活リズムが身についていない。これでは仕事は絶対にうまくいかない。「ジョブキャッチ」という就労活動を続けてきたが、どんなにがんばっても月に1万円程度の作業収入にしかならなかったという。それでは自立などしていけない。
「うまくいかないことがあったときに、それを乗り越えるパワーがない。学校に行ってなかった僕が悪いから、みんなと同じように働けないと、自分を責めるのです。僕は〝親ガチャ〟で失敗した、と言う子もいます。仕事をするためというよりも、働くための前提となるエネルギーとか経験値がどうしてもない。短期的には何とかできるけれど、長期的に正社員として働くことができないのです。
困窮家庭で生活保護を受けて最低限の文化的な暮らしを体験すると、それまでひどい暮らしをしていたので、このレベルの生活ができるのだと思ってしまいます。生活保護は大事な制度ですが、それが故に、就労になったときにそのエネルギーが生まれてこないおそれもある。引きこもりながらでも生きていける。ネット回線も引けるしね。だから踏ん張って仕事するという一歩を踏み出しにくいのです」
世の中の就労サービスは、仕事がしたくてもできない、働く気がある人を対象にしている、働く気がない人を就労支援するためのものではない、と幸重さんは言う。そこで考えついたのが「深夜のアウトリーチ」事業だ。
生きづらさを抱えた11人の若者たちが、当事者性を生かした〝ピア相談員〟としてさまざまなアウトリーチ活動を行う。昼夜逆転の夜型の若者が多いので、SNSも使いこなすし、ゲームもうまい。深夜の22時から翌朝5時まで、ピア相談員とソーシャルワーカーがペアになって、深夜につらさをつぶやく子どもたちとSNSでやりとりをする。
中国地方にいる16歳の高校生は、虐待により家を出て、無人型のラブホに2晩泊まった。そこから学校に通っていたが、親は無関心で、彼がどこにいるのか、何をしているのかわからなかったという。たまに家に帰ったりしながら、1ヶ月間ホームレス生活を送っていた。そのことを相談員と話していくうちに、信頼関係が生まれ、緊急保護につながったこともあった。
ピア相談員は時給1000円、深夜は25%アップで、1回相談員として入れば1万円程度がもらえ、月に3、4万円の給料になる。
「彼らもいろいろな事情を抱えているので、無理強いはできないのですが、今後も続けていきたいとは思っています」
助成金の関係で現在は、この事業は一時休止することになった。一時的な助成金では継続して活動することは難しく、続けていけないのだ。幸重さんに、彼らが立ち直れて、社会で自立するためには何が必要か、その条件を聞いてみた。
「きっかけになるのは、リアルな出会いだと思います。ネット上ではなくリアルで出会った誰かの支えがあると、きっと彼らはすっと飛び立っていけると思うのです。何か困ったことがあったり、うまくいかないことがあったりしたら、またここに帰ってくればいいよとも言っています。支えてくれる誰かを探すのは、ネットは便利でいいですけれど、継続的に支えてくれるのとは違いますから」
幸重さんのNPO団体では現在、クラウドファンディングを実施中だ。 京都地域創造基金・事業指定寄附「つながりを意識したヤングケアラー支援事業」 https://www.plus-social.jp/project.cgi?pjid=131