2022年11月03日 09:31 弁護士ドットコム
職場にトイレがない——。こんな悩みを抱えた運転手が弁護士ドットコムに相談を寄せました。
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相談者の職場では、新たに駐車場を併設した営業所が新設されることになりました。しかし、そこにトイレや休憩室はありません。この営業所で出退勤の点呼やミーティングを行うこともあり、1日4時間ほどはいますが、水道すらないというのです。
会社側は「トイレは近くの本社やコンビニですればいい」と言いますが、営業所から本社までは数キロ離れており、毎回コンビニで借りるのも現実的ではありません。相談者は「このようなトイレが無い職場環境は、労働基準法上問題ないのでしょうか?」と疑問に感じています。
職場にトイレを設置しなくても、法的には問題ないのでしょうか。島田直行弁護士に聞きました。
トイレは、誰にとっても必要不可欠のものです。ですから「職場にトイレがあるのはあたりまえ」と通常は考えられているでしょう。ですが「あたりまえ」といえるためには法的な根拠が必要になります。
労働安全衛生規則628条は、労働者が安心して就労することができるように事業主が守るべき職場におけるトイレの設置基準を定めています。設置基準の概要は、次のようになります。
(1)男性用と女性用に区別する
(2)男性用大便所は、男性労働者60人以内ごとに1個以上
(3)男性用小便所は、男性労働者30人以内ごとに1個以上
(4)女性用便所は、女性労働者20人以内ごとに1個以上
ですから今回の相談についても、職場にトイレを設置しないのは違法ということになります。
なおトイレの設置基準については、令和3年に改正がありました。この改正では、新たに「独立個室型の便所」が法令で位置付けられました。独立個室型の便所とは、次の3つの条件を備えている便所です。
・男性用と女性用に区別せず、単独でプライバシーが確保されている
・便所の全方向が壁等で囲まれ、扉を内側から施錠できる構造である
・1個の便房により構成されている
障がいのある方、高年齢の方あるいは性的マイノリティーの方への配慮など、トイレに対するニーズは多様化しています。ニーズの多様化に応じるため、独立個室型の便所もよりよい職場作りに必要なものといえるでしょう。
そこで改正においては、独立個室型の便所もひとつの便所と認めたうえで、男性用と女性用と区別された便所に付加的に設置した場合には、就業する労働者の数を独立個室型の便所1個につき男女それぞれ10名ずつ減らすことができるようになりました。
さらにこの改正では、少人数の作業場における例外も定められました。トイレは、作業場の規模に関係なく男性用と女性用に区別されたものを設置することが原則となります。
ですがマンションの一室などを使用している場合には、トイレが1箇所しか設けられておらず、建物の構造などからやむを得ず区別したトイレを設置することができない場合もあります。そこで同時に就業する労働者が常時10名以内の場合には、トイレを男性用と女性用に区別することの例外として、独立個室型の便所を設置することで足りるということになりました。
もっともこの改正については、女性へのプライバシー配慮から反対の意見も多かったようです。企業としては、よりよい職場のためには原則通り男性用と女性用を設置したうえで、多様な労働者のニーズに応じるべく付加的に独立個室型のトイレを用意していくべきでしょう。
「働きやすい職場」というのは、決して目新しい制度や設備を導入したからといって実現できるものではありません。まずは「あたりまえのこと」と言えるものをきちんと整えることから始めるようにしていきましょう。
【取材協力弁護士】
島田 直行(しまだ・なおゆき)弁護士
山口県下関市生まれ、京都大学法学部卒、山口県弁護士会所属。著書に『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』、『社長、クレーマーから「誠意を見せろ」と電話がきています』『社長、その事業承継のプランでは、会社がつぶれます』(いずれもプレジデント社)、『院長、クレーマー&問題職員で悩んでいませんか?』(日本法令)
事務所名:島田法律事務所
事務所URL:https://www.shimada-law.com/