2022年11月02日 16:11 弁護士ドットコム
「ジュビリーエース」「ジェンコ」などのマルチ商法を用いた金融商品をめぐり、被害を受けて自死した女性の母親が11月2日、勧誘者3人に対して、被害額および慰謝料の計1265万円の損害賠償を求め、東京地裁に提訴した。
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亡くなった女性は大阪府で学校職員をしていた川上穂野香さん(当時22)。大学の同級生だった被告らから「ジェンコ」について投資勧誘を受け、穂野香さんは150万円を借り入れて出資したものの、同金融商品が破綻したため損害を受けた。
借り入れた金銭が返せなくなった穂野香さんは、母親に「迷惑をかけた」旨の遺書を残し、2020年10月1日に自死した。
穂野香さんの母親である川上佐永子さんは11月2日、都内で開かれた会見に出席し、「勧誘者が友達だから信用してしまったというのが大きいと思う」と話し、「おいしい話はまず詐欺だと思ってほしい」と訴えた。
訴状によると、穂野香さんは2020年8月、大学の同級生とその知り合いだという被告男性2人から、不特定多数の物から集めた資金を主催者が運用し、出資者がその見返りとして金銭配当を受ける「ジェンコ」という金融商品への投資勧誘を受けた。
その際、「レバレッジ4倍で3000ドルで始めると10000ドルのパッケージなので月利ボーナスが8%」「今しかない」「ポンジやマルチではない」などといった説明を受けたという。
もう一人の被告男性は「ジェンコ」を扱うジュビリーグループの幹部だった人物で、他の被告2人に穂野香さんを勧誘させた人物と位置付けられている。この幹部は、過去に別件で金融商品取引法違反があったとして有罪判決を受け、別の被告1人も略式起訴され有罪判決を受けた。
大学を卒業したばかりの新社会人だった穂野香さんは、借り入れをして150万円を「ジェンコ」に出資。しかし、「ジェンコ」が破綻したため、150万円がそのまま損害となった。思い悩んだ穂野香さんは2020年10月1日に自死した。
母親である佐永子さんが原告となった今回の提訴では、被告らの行為と穂野香さんの自死には因果関係があると主張。被害額150万円に、穂野香さんと佐永子さんの精神的苦痛として慰謝料1000万円を加え、弁護士費用を含め計1265万円を求める。
詐欺事件で被害者側の慰謝料請求が認められることは裁判実務上まれであるとしたうえで、人が死んでいるという重大な結果が発生していることを考慮すべきとしている。
佐永子さんの代理人を務める杉山雅浩弁護士によると、「ジェンコ」や「ジュビリーエース」はいずれも「ジュビリーグループ」が扱う金融商品。月利10~15%で、さらに元本3倍保証などとうたい、高い配当利率と紹介料から全国的に拡散し、約650億円の出資があったとも報じられたことがある。
佐永子さんによると、出資した150万円が損害となってしまったことに、穂野香さんはだいぶ悩んでいた様子だったと振り返る。
「お金を渡したあとの2020年9月頃、家にいても笑わなくなったり、何かあったのかを聞いても『大丈夫』というだけでした。様子はおかしかったのですが、一人で解決しようとしていたようです」
9月中旬ごろに穂野香さんから今回の被害について話を聞くことができたが、「ジュビリーエース」「ポンジスキーム」など単語がぽつぽつと出てくるくらいで、なかなか全容をつかむことが難しかったという。
「勧誘者が友達だから信じてしまったというのが大きかったと思います。借金についても悩んでいましたが、友達に騙されたことに本人は苦しんでいたと思います」
「よく手紙を書いてくれる子だった」という穂野香さんが最後に残した遺書には佐永子さんの感謝の気持ちが綴られていた。
〈お母さんへ。22年間、ずっと私を育ててくれてありがとう。投資詐欺の件でたくさん迷惑を掛け、心配を掛けてしまってごめんなさいごめんなさい。本当にありがとう。服とかは売ってね。多少のお金にしかならんかもやけど〉
娘の無念を晴らすことだけを考えてやってきたという佐永子さんは、「生前の娘は、自分以外の被害者が他にもたくさんいると言って、他の被害者の方のことも心配していた」と話し、投資詐欺のことを社会がもっと知ってほしいと訴えた。
「巧妙な手口の投資詐欺などが横行していますが、まだまだ騙される側が悪いと思っている人がたくさんいるように思います。会社を経営するような中高年の方でも被害に遭っている方がいますが、なかなかその状況を理解するのが難しいのかもしれません。
ですので、一人でも多くの方に、(今回のような投資案件が)悪質な詐欺であることを理解していただければと思います」
杉山弁護士は、詐欺行為と自死との因果関係の証明は難しく、自死についての慰謝料請求について「私も初めて」と話すが、今回は穂野香さんの遺書があることから「因果関係の立証はできると考えている」とする。
後を絶たない投資被害については、「社会経験の乏しい若い方は安易に信じてしまうかもしれないが、おいしい話は現実的には存在しないので、まず耳を貸さないでほしい」と警鐘を鳴らす。
「勧誘する側も同様です。同じようにだまされているのかもしれませんが、(不自然に)おいしい話を勧誘して結果的に損害を与えれば、自分も刑事責任や民事責任を問われることがあるということを、勧誘する側も知っておいてほしいです」(杉山弁護士)