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愛されキャラは不変? ルノーの新型「カングー」を実車で確認!

2022年11月01日 11:31  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
ルノーの「カングー」といえば、フランス生まれの愛嬌たっぷりなワゴンだ。ファミリーカーやアウトドアの相棒などとして、日本にも多くのファンがいる。来年にはフルモデルチェンジ後の新型が発売となるが、具体的には何が変わるのか。写真で見ると少し精悍になった印象だが、カングーの特徴でもある「愛されキャラ」は不変なのか。実車を確認してきた。


○カングーが人気車になるまで



まずはカングーの歴史を少し振り返りたい。



1997年に誕生した初代は、Bセグメントのコンパクトカーをベースとしたスライドドア付きトールワゴンスタイルの実用車であった。並行輸入で多少は入ってきていたが、日本への本格導入が始まったのは2002年3月のこと。扱いやすい小さなボディ、愛嬌あるスタイル、積載能力の高さから、徐々にファンを拡大していった。ユニークなのは、ワゴンながらMT(マニュアル)車が一定の支持を得ていたところ。手頃なフランス車として、幅広い層に支持された。



本国では2007年に2世代目に進化。日本で2代目カングーの導入が始まったのは2009年9月だった。最大の変化はベース車のクラスアップによる大型化だ。当初はサイズアップに否定的な声も聞かれたが、広々とした後席スペースの実現やさらなる積載能力の向上、そして何より、可愛い初代とは方向性が異なるが、2代目の「ゆるキャラ的」デザインが愛されるようになり、より多くのファンを獲得することに成功した。



日本の熱狂的(?)なカングー愛にこたえるべく、ルノージャポンでは2世代目カングーから日本専用の限定車を投入するようになった。これもファン増加の一因だ。


2世代目はロングセラー商品となり、フロントマスクのイメージチェンジを図るフェイスリフトも実施。2021年7月に発表となった最終限定車「リミテッド ディーゼルMT」をもって販売が終了している。


本国では2021年5月から第3世代となる新型が発売となっているものの、昨今のコロナ禍による半導体不足の影響などを受け、日本導入には時間がかかっているようだ。現行型(2世代目)の新車在庫が尽きたこともあって、日本では新型カングーの動向に多くの人が注目してた。


○カングーが大人になってしまった?



新型カングーについては、ルノーの公式発表などでデザインやボディサイズが判明していた。写真と数字からは、カングーが乗用車としての機能や質感を高めたことは感じられたのだが、ファンからは「これまでのカングーらしさが失われてしまったのでは?」という心配の声も多く聞かれた。



そんな不安も、新型カングーをひと目見ると吹っ飛んでしまったかもしれない。なんと、日本に上陸したのは黄色の新型カングーだったのだ。実はこれ、日本だけのスペシャルカラー。ルノージャポンによれば、新型カングーの開発にあたっては日本のニーズを本国に伝えたそうで、これにより、日本向け新型カングーは一部が特別仕様となっているという。


日本仕様の最大の違いはリヤスタイルにある。本来、本国仕様のカングー乗用車にはミニバンでよく見る跳ね上げ式のテールゲートが備わるのだが、日本仕様は観音開き式の「ダブルバックドア」だ。このドア、新型ではカングーの商用車のみに採用されるものだが、日本仕様だけは特別に変更されている。


ギア感を高める無塗装のブラック樹脂バンパーも日本だけの装備。日本限定色となる黄色「ジョン アグリュム」には、この黒バンパーが標準の組み合わせとなる。ほかの導入色は未定だが、ボディ同色仕様と黒バンパー仕様が選択できるようだ。

新型のデザインはちょっと上品ですまし顔ではあるものの、どこかフレンドリーだし、トールワゴンスタイルのフォルムは現行型ともイメージが重なる。見た目には商用車ゆずりのギア感もあり、やはり日本のワゴン車とは一味違う。



さて、懸念された新型のボディサイズだが、全長4,490mm×全幅1,860mm×全高1,810mm、ホイールベースが2,715mmとなっている。現行型と比較すると全長は210mm、全幅は30mm拡大しているが、全高はキープだ。ホイールベースは+15mmと少しだけ長くなった。


それでも全長は、国産ミッドサイズミニバンに比べれば短い。サイズアップ分は車内と荷室の広さに貢献していると捉えていいだろう。最も影響が大きい全幅については、現行型も3ナンバーサイズだったし、拡大幅は片側+15mmずつにとどめられているので、現行型ユーザーならば駐車場や道路事情が問題となることはないはずだ。

○大幅進化で気になる価格



基本構造やメカニズムは、14年振りのフルモデルチェンジということもあり全面的な刷新が図られている。今や必須アイテムといえる先進の安全運転支援機能もしっかりと装備。現時点の情報では、全車速追従機能付きアダクティブクルーズコントロール、衝突被害軽減ブレーキ、後側方接近車両警報、車線中央維持支援機能の4つが搭載されるようだ。



タッチスクリーン付きインフォメーションシステムが標準装備となるのも嬉しい。意外にも現行型は、最後まで懐かしの(!?)CDラジオデッキであった。バックドアにカメラが確認できたので、バックカメラも使えるようになるようだ。機能面の大幅なアップデートには期待できる。


今回は細部までチェックすることはできなかったが、内装の質感も高まっている。また、鍵がカードキーになるので、ハンズフリーによるドアの開閉やスタートボタンによる始動が可能となるなど、利便性も大きく向上している模様。ただ、スライドアが歴代モデル同様に手動式となるなど、実用性重視のフレンチシックな世界観は貫かれているようだ。実際にスライドアを開け閉めしてみたが、現行型よりも動きがスムーズであり、細かな磨き上げも期待がふくらんだ。


エンジンは1.2L直列4気筒ガソリンターボと1.5L直列4気筒クリーンディーゼルターボの2種類。トランスミッションは7速オートマ(7速EDC)を備える。ただし、将来的にはMT車の導入も検討しているというから、アナログ好きには朗報だ。駆動方式は前輪駆動、乗車定員は5人で変更なし。プラットフォームの進化により、静粛性や乗り心地の向上にも期待できる。乗用車としての磨き上げも進んでいることは間違いない。


新型カングーがサプライズでお披露目となったイベント会場では、定番の黄色と愛嬌を感じるボクシーなスタイル、お約束の観音開きのドアを持つ新カングーを見て、多くのファンが安堵した様子だった。どうやらファーストコンタクトでは、歴代カングーの系譜を受け継ぐ存在として認められたようだ。この光景にルノー関係者もホッとした様子だった。



さて今後の予定だが、今回は新型のお披露目のみであり、詳細が明らかになるのはまだ先の事だ。導入開始は2023年春の予定となっている。春といっても年明けではなく「桜のシーズン」とのことだから、3月後半から4月上旬と見ていいだろう。



次なる最大の関心事は価格だが、ボディのサイズアップや機能向上というカングー自体の進化に加え、円安と資源高という問題も重なるため、現行型よりも高価となることは避けられない。しかし今のカングーには、同じくフランス生まれのワゴンであるライバルのシトロエン「ベルランゴ」が存在する。



ベルランゴのデビュー時は300万円前半が主力だったが、今や価格は400万円を超えている。新型カングーは少なくとも、最新価格のベルランゴよりはお手頃になるのではないかと予測する。



ちなみに第2世代カングー最終型のガソリン車は254.6万円~264.7万円であり、限定車のディーゼル車が282万円であった。ただそれは、シンプルな実用車であり、なおかつロングセラー商品であったからこそ実現できた価格だ。最新機能も加わる新型がこの水準を超えることは間違いない。これから日本導入までに半年ほどの時間があるので、コストアップにつながる世界の課題が収まることを願いつつ、現実的な提案を期待したい。


大音安弘 おおとやすひろ 1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。主な活動媒体に『webCG』『ベストカーWEB』『オートカージャパン』『日経スタイル』『グーマガジン』『モーターファン.jp』など。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。 この著者の記事一覧はこちら(大音安弘)