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トラブルになりやすい「離職理由」、安易に「自己都合退職」に乗ってはいけないワケ

2022年11月01日 10:11  弁護士ドットコム

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職場でトラブルに遭遇しても、対処法がわからない人も多いでしょう。そこで、いざという時に備えて、ぜひ知って欲しい法律知識を笠置裕亮弁護士がお届けします。


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連載の第22回は「残業時間が多ければ、会社都合退職になる?」です。最近ツイッターでも「退職前の残業時間が多すぎる場合は自己都合ではなく会社都合の退職になります」という投稿が1.5万回リツイートされるなど話題となっていました。



どのような時に会社都合退職にできるのか、そもそも会社都合退職と自己都合退職とでは何が変わってくるのでしょうか。笠置弁護士は「会社によっては、離職理由を何とか自己都合にできないかという働きかけを行ってくる」と注意を呼びかけます。



●トラブルになりやすい「離職理由」

コロナショックにより景気がなかなか上向かない中、解雇や雇止めに遭ってしまった、退職勧奨を何度も受けていて困っているといったご相談はひっきりなしに来ています。その中で、たびたびトラブルになるのは、離職理由です。



解雇や退職勧奨に遭っているにもかかわらず、離職の理由を「自己都合」であると記載した離職票を発行されてしまったり、自己都合で退職したことを認める趣旨の合意書に署名を求められたりするといったケースはとても多いと思われます。



会社都合による退職者を出してしまっていると、雇用関連の各種助成金を受け取ることができなくなったり、助成率が下がったりするデメリットが出てきてしまうため、会社によっては、離職理由を何とか自己都合にできないかという働きかけを行ってくるのです。



しかし、このような誘いかけに安易に乗ってしまうことは非常に危険です。なぜなら、自己都合による退職と会社都合による退職とでは、失業給付の給付に関する様々な点で効果が異なるからです。



●どのような違いがある?

よく知られているのは、失業給付の給付がいつ始まるかという点での違いです。自己都合の場合、原則として申し込みを行ってから2か月後になってしまいますが、会社都合の場合には、申し込みを行ってからすぐに(7日間が経過してから)給付を受けることができます。



また、失業給付を受け取ることのできる資格(受給資格)についても異なります。受給資格を得るには、通常は離職以前2年間の中で被保険者期間が12か月以上あることが必要とされていますが、後に述べる特定受給資格者や特定理由離職者に当てはまる場合には、離職以前の1年間の中で被保険者期間が6か月以上あれば受給資格が得られます。



失業給付を受け取ることができる期間(所定給付日数)についても異なります。所定給付日数は年齢や被保険者期間によって変わってくるのですが、後に述べる特定受給資格者や特定理由離職者に当てはまる場合には、通常よりも所定給付日数が長く設定されています。



このように、純粋に自分の都合で退職しただけなのか、特定受給資格者や特定理由離職者に当てはまるなど、(広い意味で)会社のせいで退職せざるを得なかったり、正当な理由で自己都合退職を選択せざるを得なかったのかによって、失業給付の要件や内容が大きく異なってきます。



そのため、会社都合で退職に追い込まれているのであれば、必ず会社都合で退職したという前提で離職票を発行してもらう必要があるわけです。



●特定受給資格者や特定理由離職者の範囲は?

特定受給資格者の範囲は、一般的に、会社都合での退職とは、会社が倒産したり会社から解雇されたような場合をイメージされると思いますが、入社時に説明を受けていた労働条件と入社後の労働条件とが著しく異なっていたり、長時間労働を強いられて退職せざるを得なかったような場合にも、会社都合での退職として取り扱われるということは、意外と知られていません。



特定理由離職者の範囲は、雇止めに遭って離職せざるを得なかったような場合や、自己都合退職の中でも正当な理由があるものが、該当します。



詳しくはハローワークのHPに記載があります
(https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_range.html)。



特定受給資格者または特定理由離職者に該当するか否かの判断は、最寄りのハローワークが行うこととされています。



●会社が応じてくれない場合は?

会社が正確な離職理由を記載した離職票を発行してくれれば問題ありませんが、中にはそのような事実などないにもかかわらず、「一身上の都合による」などと記載した離職票を発行してくる会社もあります。その場合、まずは記載を改めるよう会社と交渉してみる必要があります。



ただ、これに応じてくれない場合には、いったん離職票を受け取りつつ、離職票の中の「離職者本人の判断」欄の「異議有り」に〇をつけ、「離職者記入欄」と「具体的事情記載欄(離職者用)」に、本当の離職理由を記載した上で、それを裏付ける証拠とともにハローワークへ提出しましょう。



例えば、長時間労働が離職の理由であるという場合には、タイムカード等の勤怠記録や残業時間が記載された給与明細のほか、自身のスマートフォンの記録(GPS記録等)などといった労働時間を裏付ける証拠を提出することが考えられます。



万が一使用者が離職票を発行してくれないという場合には、最寄りのハローワークに申告し、会社に対して指導を依頼することが考えられます。それでも発行してくれないという場合には、ハローワークに対して被保険者であることの確認請求を行い、ハローワークから離職票の発行を受けることができます。



(笠置裕亮弁護士の連載コラム「知っておいて損はない!労働豆知識」では、笠置弁護士の元に寄せられる労働相談などから、働くすべての人に知っておいてもらいたい知識、いざというときに役立つ情報をお届けします。)




【取材協力弁護士】
笠置 裕亮(かさぎ・ゆうすけ)弁護士
開成高校、東京大学法学部、東京大学法科大学院卒。日本労働弁護団本部事務局次長、同常任幹事。民事・刑事・家事事件に加え、働く人の権利を守るための取り組みを行っている。共著に「こども労働法」(日本法令)、「新労働相談実践マニュアル」「働く人のための労働時間マニュアルVer.2」(日本労働弁護団)などの他、単著にて多数の論文を執筆。
事務所名:横浜法律事務所
事務所URL:https://yokohamalawoffice.com/