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ひろゆき、中田敦彦……教養系インフルエンサーの両雄、なぜ人気? 爽快感あるコンテンツの功罪

2022年11月01日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 子ども達に対する憧れの職業の調査では近年、「YouTuber」が上位に並ぶことが増えた。コクヨが実施したアンケートによると、中高生は学校の先生よりもYouTubeから勉強方法に関する情報を得るケースが多いそうだ。実際、学校におけるメディア教育支援を行うYOUTH TIME JAPAN projectによる「高校生が総理大臣になってほしいと思う有名人は?」のランキングで1位になったのは、論破王と呼ばれるひろゆき氏。さらに東大生に最も人気のある教育系YouTuberは、チャンネル登録者数490万人を超える「中田敦彦のYouTube大学」でおなじみのオリエンタルラジオ・中田敦彦氏だという。


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 大人も無関係ではない。モデルプレスが発表した「ビジネス・教養系YouTuber影響力トレンドランキング」のトップ2に入ったのも前述の両氏だ。ともに物事を簡潔に分かりやすく、面白く解説・要約し、視聴者に提供する人気インフルエンサーだが、彼らが世の中に求められているのはなぜだろうか。


 YouTuberによるコンテンツをはじめとした、今日的な「教養」のあり方への問題提起と次の時代への処方箋をまとめた新書『ファスト教養』の著者であるレジー氏に、彼らの動画の特徴を聞いた。


「両者のコンテンツに共通しているのは“爽快感”ではないでしょうか。中田氏は自身のコンテンツを『エクストリーム授業』と呼んでいます。スケートボードや自転車でのエクストリームスポーツのイメージで、スピード感を重視しながら学ぶという、ざっとわかることを重視した明快なネーミングですね。中田氏は『楽しい学び』を大事にしていて、その話術もさすがテレビの第一線で活躍していただけあってずば抜けたものなので、エンタテインメントとして質が高いものとなっています。


 対するひろゆき氏はその場の議論をリードするような立ち振る舞いが上手なため、パッと見ではとても聡明に映ります。視聴者も彼の言動を通して問題点を理解できたかのような爽快感を得られますし、相手を「論破」するようなことがあれば『自分たちが言えなかったことをよくぞ言ってくれた!』という気持ちになっているのではないでしょうか」


 一方、コンテンツを鑑賞して得られる爽快感に身を任せることには、怖さもあるとレジー氏は指摘する。


「中田氏の『勉強の楽しさを伝えたい』という志は素晴らしいと思いますが、彼のコンテンツを学びや教養の主流としてしまうことに対してはやはり疑問が残ります。その本質はあくまでも「話術」と「要約力」であって、そこに対象ジャンルへの専門性はありません。するすると飲み込める作りになっているからこそ、それが最小限のインプットによって構築されている危うさには意識的になっておく必要があると思います。


 ひろゆき氏の「論破」も同様で、あくまでもその場の議論で「勝っている感」を出すための話法が現実の諸問題に対してどれほどの有用性があるのかは慎重に考えなければならないと思います。また、ひろゆき氏に留飲を下げている人たちが、自分も「切り捨てられる側」になるかもしれないと考えているかどうかは気になるところです。教養という言葉にはたくさんの意味合いがありますが、それでも「こちら側」と「向こう側」に線を引いて優越感やコンプレックスを煽るような態度は教養と遠い場所にあるものだと思います」


 冒頭に紹介したランキングを例に挙げるまでもなく、彼らのようなインフルエンサーは様々な領域で大きな影響力を持っている。そして、その背景には複雑な要因が絡み合っている。


「ひろゆき氏のような存在が若い世代から「総理大臣になってほしい」と思われている現状には恐ろしさを感じますが、ここには彼を積極的にメディアに登場させる「大人」側の問題も大いにあると思います。また、中田氏のチャンネルが東大生に大きく支持されるというのも「わかりやすくて面白い、かつ勉強になるコンテンツ」が不足している、もしくは存在が伝わっていないことの裏返しと言えるかもしれません。人気のインフルエンサーやYouTuberの動向を嘆くだけでなく、「ではどんなものであればよいのか」についていろいろな立場の人たちがそれぞれの視点で考えていく必要があるのではないかと思います」


 当然のことだが、広く人気を得ている存在からの発信が必ずしもすべて正しいわけではない。新しいメディアとしての立ち位置だったYouTubeがプラットフォームとして一般化しつつある今、その利便性が孕む副作用についても立ち止まって見直す必要がありそうだ。