2022年10月30日 11:01 弁護士ドットコム
政府が2024年秋に健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」にすると発表した。SNS上では「マイナカードで婚姻届を出したら運転免許証もパスポートも自動更新され、補助の一覧が自動的に出てくるみたいな役割を期待している」という声も上がる。
【関連記事:マイホーム購入も「道路族」に悩まされ…「自宅前で遊ぶことのなにが悪いの?」】
「デジタル社会のパスポート」と政府が言うマイナカードだが、どこまで生活は便利になるのか。マイナンバーを担当するデジタル庁に聞いた。(ライター・国分瑠衣子)
マイナカード、マイナポータル、番号法制などの担当者が取材対応した。デジタル庁は民間出身者が3分の1を占めるが、マイナンバー関連にも金融機関やIT企業出身の職員が在籍しているそうだ。
マイナカードは現在、健康保険証として使えるが、2023年2月からは転出届がオンラインで完結する引っ越しサービスが始まる。これまでは自治体独自の取り組みとして転出届のオンライン受け付け対応を行っていない場合、自治体の窓口まで行き、転出届を出す必要があった。だが2月からはマイナポータルにアクセスし、オンラインで転出手続きが完了する。
転入手続きはこれまで通り、窓口へ行く必要がある。現行の住民基本台帳法で実在性や本人性の確認のため対面と定められているためだ。ただし、新たなサービスとして転出届と同時にマイナポータルで「転入予定の連絡」ができるようになる。申請時に申請者自身が転入先の自治体で行う手続き内容や持ち物などを確認することで、手続き漏れや持ち物忘れによるロスの解消が期待できる。
では転出届を出せば、運転免許証などの住所変更も自動的にできるようになるのか。これは今の段階ではできない。「システムを作ることはできるのですが、運転免許事務に関わる警察との協議や法整備の問題があります」(担当者)。今は実現に向けて検討中という。 システム構築のハードルは低いが、番号法や住民基本台帳法でどのような業務で使えるようにするか整理が必要ということだ。
引っ越しの時はマイナカード1枚で電気やガス、水道などの手続きも一気にできれば便利ではと思うのだが、民間事業者との調整がありこれもすぐには難しそうだ。今は民間事業者が運営するポータルサイトとマイナポータルが連携し、転出届や電気、ガスなどの手続きがワンストップで行える実証実験が進められている段階だ。民間の契約事業者をどう増やすかがカードの利便性を上げる鍵と言えるかもしれない。
セキュリティーの問題はどうか。マイナカードを落とすと第三者にマイナンバーを知られてしまい不正利用されるのではといった声や、個人情報の流出を心配する声がある。
デジタル庁の担当者が「ぜひ伝えたい」と話すのが、個人情報の分散管理だ。マイナンバー制度の導入以降も、個人情報は国に一元管理されているわけではない。市区町村、都道府県、ハローワークなどそれぞれの行政機関が情報を分散管理している。
機関を越えて照会をかける時は、マイナンバーそのものではなく、マイナンバーから生成された符号を使っている。また、マイナンバーが使える事務は「税、社会保障、災害対策」の3分野に限られている。
「マンションの玄関の鍵を破られたからといって全ての部屋の情報が取られるわけではありません。100の部屋があればそれぞれの部屋に鍵がかかっているとイメージしてほしいです」(デジタル庁)
河野太郎デジタル大臣が、任意だったカードを「マイナ保険証」とすることで事実上義務化すると発表したのは10月のこと。突然の方針転換にネット上では反発の声が上がった。
最初からマイナカード自体を義務化してしまうという案はなかったのだろうか。担当者は「それはかなり難しいと思います」と話す。マイナカードは最高位の身分証明書という位置づけだ。例えば寝たきりの高齢者などを想定し、顔写真を撮影できない場合もあるとの理由で義務化は難しい。
インターネット上ではマイナカードで全ての行政手続きが完結するような世界を望む声が上がっている。マイナカードでできること、逆に絶対にできないことは何なのか。
マイナカード担当者の1人は「個人的な見解」とした上で「将来的には『ゆりかごから墓場まで』ほぼ全ての行政サ-ビスが、カード1枚で受けられるようになっていくと思います」と話す。
例えば、あくまでイメージだが、法整備や民間連携が進めば以下のようなものなどが考えられる。
・2人でマイナカードをかざして婚姻届を提出し、新居の転入手続きもオンラインで実施
・大学入学共通テストの手続き
・学校と連携することで、映画館などでの学割確認にも活用
・ローン審査
・代理人による死亡届
ただ、マイナンバーやマイナカードをめぐっては、反発の声もたびたびあがっており、「国の管理が強まりそうで何となく嫌だ」と思っている人も少なくない。どれだけ安全で利便性の高い世界が実現できるのか、小さなことからでも、それを体感できるものを提示することが大事だろう。
(10月31日、一部内容を修正しました)