今月発表された「SUUMO住民実感調査2022 首都圏版 2022年住み続けたい街(駅)」ランキング。その第4位になったのが東銀座(東京メトロ日比谷線)だ。街のシンボルでもある歌舞伎座で知られるエリアだ。最近はメディアで特集されることも増え、隣接する銀座とは違う下町情緒の残るエリアとして知られるようになった。とはいえ、日本随一の商業地。そもそも暮らしやすさなんてものが存在するとは、にわかには信じがたいのだが……。(取材・文:昼間たかし)
以前はペットフードも「デパートで」
写真:筆者
東銀座駅は銀座4丁目にある。「東銀座エリア」といった時は、おおむね昭和通りよりも東側のエリアのことを指す。銀座といえば繁華街のイメージしかないが、中央区の統計によれば、銀座地域の人口は2022年10月現在で2474世帯、3528人は住んでいるらしい。
しかし、この街に「住み続けたい」という理由は、外部の人間にはいまいちわからない。とても生活に便利な街とは思えないからだ。確かに、銀座のデパートにも歩いて行ける。歌舞伎座の周辺には「大人の週末」を楽しみたい人が喜びそうな、小洒落た店も数多く存在する。しかし、コンビニはあるけどスーパーは見当たらないのが、このエリア。安いスーパーが近所にない! それだけで、普段の生活には支障をきたしそうで、とても住めないと思う人も少なくないだろう。
ところが、生まれも育ちも木挽町という人に話を聞くと、むしろ最近このエリアは住みやすくなったというのだ。
「バブルが弾けた後、区営住宅の<京橋プラザ>ができたり、土地が借地なので比較的安い<銀座タワー>ができたりと、マンションも建つようになって、住民が増えました。それに連動する形で店も増えて、ここ20年くらいで暮らしやすさはアップしています」
写真:筆者
古くからの住民によれば、1999年から募集を開始した「京橋プラザ」が街を大きく変えた一番の要因だという。この区営住宅は、当時人口減が著しかった中央区が京橋小学校跡地に建設した、銀座では初めての19階建てマンション。区営住宅なので銀座近辺なのに家賃は10万円台。しかも所得に応じて家賃を割り引く「応能家賃制度」なので、収入が低ければ家賃は10万円以下になる。さらに、区内在勤者、あるいは二親等以内の親族が区民であれば区外在住者も応募可能と間口を広げたことで、入居希望者は殺到。これをきっかけに東銀座エリアではマンションの開発も進むことになった。
しかし、いくら銀座に近くても、日常生活に不可欠な「スーパー」がなくて大丈夫?
「大型スーパーはありませんけど、コンビニは増えたし、築地までいけば、ドラッグストアのぱぱすや100円ショップのダイソーもあります。それに、銀座にはドン・キホーテも。ドンキができるまではペットフードもデパートで買ってましたから。生活面では暮らしやすくなりましたよ」
なんと、銀座ドンキが暮らしの雑貨店として活躍しているとは……意外な盲点である。あと、ちょっとお高めなのに目を瞑れば、生鮮食品はデパ地下の食料品売場でいくらでも手に入る。生活さえできるなら「歩いて銀座」のメリットは大きいだろう。
「優雅な独身や高齢者で、劇場や映画館や美術館、アンティークなどに興味があれば、近くに様々な施設があるし、どこに行くにも便利です。それに<銀座なんだけど、下町の雰囲気もあって、羨ましいわぁ>といわれますしね。あと中央区は高低差がないから、自転車でどこでもいけますよ」
とはいえ、問題がないわけではない。
「昔ながらの地域コミュニティはほぼ崩壊しているので、子育てには向いていないと思います。それに、健康面では聖路加国際病院が近くにあることがプラス要素ですけど、人口が少ないせいか開業医は減っていて、かかりつけ医がいない人が多いんですよね」
まあ、単なる暮らしやすさに加えて、都内どこに行くにも便利だし、住んでいるとちょっぴり自慢できる感じなのも東銀座エリアの特徴だろう。そんなところが「住み続けたい」の理由ではないか。
われわれ庶民にとって最大の難点は「めちゃ高い」こと。前述の「京橋プラザ」は例外だ。マンションを買おうと思えばワンルームでも6000万円台。賃貸でもファミリー向けだと20万円ぐらい?という感じなのだ。2003年に竣工した「銀座タワー」は「定期借地権なので、安い」と申込みが殺到した。購入時の価格は60平方メートルで3000万円台。70平方メートルで5000万円台だったというから、確かに銀座にしては破格だったわけだ。ちなみに、現在は値上がりして75平方メートルの部屋が1億300万円で販売されている。5000万円台で買った人は笑いが止まらないはず。とにかく、激烈に高いのが常識のエリア。逆に言えば、このハードルがクリアできる人たちにとっては、「住み続ける」のに最適な街といえるのかもしれない。