「罪を犯したのは個人的な資質もあると思いますが、背景には会社の体質も影響しているはずです」
そう話すのは、大手引越業者『サカイ引越センター』の現役社員Aさん。彼の“同僚”が事件を起こしたのだ。
埼玉県警大宮署は10月19日、同社の社員・角拓磨容疑者(25)を窃盗の疑いで逮捕した。
客の目を盗んで『カルティエ』パクった!
「角容疑者は今年6月11日の午後2時ごろ、同県さいたま市大宮区の被害者宅へ引っ越しの見積もりで訪れた際、被害者のスキを見て、カルティエの高級腕時計(時価28万円相当)を盗んだ。7月には盗んだ時計を都内の出張買い取り業者に売却していた」(全国紙社会部記者)
警察の取り調べに容疑者は、
「室内を確認中に盗んだ。借金があった」
などと容疑を認めているという。
角容疑者は同県白岡市の出身。帝京平成大学を卒業後、同社へ正社員として入社。社会人になってからは、近隣の同県上尾市のメゾネット式アパートでひとり暮らしを始めた。築10年、2LDKで、家賃は月8万円ぐらい。
同じマンションの住民は、こう証言する。
「2年ほど前から住んでいますね。スラリと背の高い好青年という印象でした」
帰宅するのはいつも夜9時すぎで、
「作業服姿で、駐車場に自家用車と、サカイの黄色い線が入ったワゴン車をかわるがわる停めていました。ときどき同僚男性らが部屋に来ていたし、駐車場で打ち合わせをする姿も見たこともあります」(同・住民、以下同)
同アパートの住民には若い夫婦や子連れのファミリーが多いようで、
「月8万円の家賃、駐車場代、光熱費などで固定出費は月10万円を越えます。車のガソリン代だってあるし、手取り30万円ぐらいないと、厳しいんじゃないですか」(同住民)
冒頭のサカイ現役社員Aさんも、同意見だった。
「容疑者の年齢で営業職なら、手取りで月20万円ぐらい。固定給は月10万円ほどでしょう。残業が120時間超えていてもこの金額ですからね。労働基準法なんか、まったく守っていないんですから」
休日に別の引越業者でバイトする社員も
薄給で生活が苦しい社員たちは……、
「休日に別の引越業者で働いたり、ウーバーイーツでアルバイトしたりする人までいるんですから」(同・Aさん、以下同)
上司によるパワハラもひどいようで、
「“見積もりがとれるまで、戻ってくるな!”と怒鳴られる。休日も社用スマホを持たされて、お客さんからの連絡に出なければいけない。あるいは、上司に呼び出されることも」
“せっかく入社しても、すぐに辞める正社員が多い”とAさん。離職率は極めて高いようだ。
「一生懸命に働いても、金銭的に報われないし、みんなもう疲弊しまくっている。会社のほうが社員のやる気を失わせているのが現状です。今回の事件直後、見積もり時にお客さまにレ点をつけてもらうチェックリストがあるのですが、運ぶ荷物に“現金、貴重品はない”という項目がすぐにできました。これってお客さまに責任を押し付けているようなものですよね」
容疑者の人となりを知るべく、勤務していた支社を訪ねた。下駄箱には「角拓磨」とまだ名前があり、スリッパも残されたままだった。
「こちらでは、取材は受けられませんので、大阪の本社へお願いします」(支社の担当者)
と告げられた。そこで本社へ問い合わせるも、
「弊社の社員がこのような不祥事を起こしてしまって、申し訳ございません。19日付けで懲戒解雇しております。再犯防止に力を入れていきたいと考えております」
だが、容疑者の勤務態度などの質問には無回答だった。
同県白岡市にある容疑者の実家も訪ねた。父親は、
「申し訳ないんですが、どうか勘弁してください」
とひたすら頭を垂れていた。
近所の主婦は、
「昔は明るくていい子でしたよ。うちの家族もサカイに引越をお願いしたの。高くなくて、丁寧だったと喜んでいたのに……」
と驚いていた。
奴隷のような労働が容疑者を追い込んだのか――。その真相は不明だが、今も『サカイ引越センター』で苦しむ“同僚”たちがいることは事実だ。