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値段は? 購入者は? ワクイミュージアムでクラシックカーの魅力を知る

2022年10月27日 11:32  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
電灯のように大きなヘッドライトと長いエンジンルーム、ちょっと馬車を彷彿させるデザインを持つ戦前のクラシックカーたち。現代のクルマとは全く異なるが、その存在感や美しさに思わず見とれてしまうのは、決してクルマに興味がある人だけではないはずだ。そんなクラシックカーは、まさに未知の存在。今回は英国のクラシックカーを得意とする「ワクイミュージアム」を訪問し、その価格やオーナー像などについて教えてもらった。


○名車継続販売会の目的とは?



埼玉県加須市にある「ワクイミュージアム」は英国の名車、ロールス・ロイスやベントレーのクラシックカーを中心に展示する博物館だが、貴重なクルマを次世代に受け継ぐべく販売業務も行っている。最も古いモデルとしては、第一次世界大戦前となる1910年代のクルマまで取りそろえているというからすごい。今回はベントレーモーターズジャパンの企画による「コンチネンタル誕生70周年展示イベント」の開催に合わせて同ミュージアムを訪問した。


同時開催されたのが、1920年代から30年代のベントレーを中心とした英国クラシックカーの展示・販売会「名車継承販売会」だ。会場を彩った展示車の一部を紹介したい。



まずは、ライトブルーの車体がかわいいロールス・ロイス「20HPオープンツアラー by バーカースタイル」(1928年製)に注目してみよう。お値段は1,800万円だ。


ちょっと馬車っぽいデザインだと思ったのだが、それもそのはず。このクルマのボディを担当したのは、高価な馬車を手掛けていたバーカー社なのだ。当時の高級車はエンジンやフレーム、シャシーなど、自動車を走らせる部分を自動車メーカーが作り、その上に載るボディは専門メーカーに任せていた。だから、同じ車種でもさまざまなデザインのクルマが存在する。当時の新車注文主の希望も反映しているため、全てが同じデザインとも限らない。そこもクラシックカーのデザインが魅力的な理由だ。



次に紹介するのはベントレー「3.5L DHC by パークウォード」(1934年製)という黒い2ドアオープンカー。価格は2,600万円で、車名の「3.5L」は排気量を示す。見た目同様にスポーティーな性能を持つクルマで、現在の道路事情にも通用する性能を持つという。


「インヴィクタ4 1/2リッター」(1928年製)はコンパクトだが迫力満点のスポーツカーだ。価格は衝撃の6,800万円(!)である。


英インヴィクタの設立は1925年。1933年までのわずか8年間だけ存在した小規模な高級車メーカーだ。メデゥス製の高性能な4.5L直列6気筒OHVエンジンを搭載するインヴィクタのクルマは当時、「スポーツカーのロールス・ロイス」と称賛された高性能なモデルであった。

渡辺甚吉氏という日本の実業家が1930年に欧州に出向いた際、中古車として売りに出されていた写真のクルマを購入し、日本に持ち帰った。当時は4人乗りのオープンカーだったそうだが、レーシングカーに作り変え、レースにも参戦したという。戦後は行方不明だったが、1955年に残骸の状態で発見。アメリカでの修復を経て現在の姿になった。その後も行方不明だった時期があるそうだが、ドイツのコレクターが大切に所有していたものが再び日本に上陸し、現在に至る。日本でナンバーを取得しているので、公道走行も可能な状態だ。

○お金だけでは買えない? クラシックカーの奥深さ



100年近く前のクラシックカーはもはや工芸品、芸術作品の域で、値段も非常に高価であることがわかったが、いったい、どのような人たちが買うのだろうか。ワクイミュージアムの関係者によれば、購入者はクラシックカーのラリーに参加する人やコレクターが中心で、やはりオーナーの年齢層は高めだという。そのためオーナーの高齢化も課題となっており、貴重なクルマたちを次世代に残すためにも、ワクイミュージアムでは今回のような展示販売イベントを実施しているそうだ。



もちろん、クラシックカー所有のハードルは高い。なにしろ、これだけ古いクルマとなると、走行可能な状態を保つにはかなりのコストと時間が必要となるし、そのクルマに対する愛情も求められる。お金持ちであることは必須条件だが、買うことはできても維持するのが簡単ではないのだ。


その一方で、自動車の歴史を伝える貴重な存在であるだけに、現在よりも価値が下がることはないという。だから、良好な状態さえ保てていれば購入時に近い価格で手放すことはできる(あるいは値上がりの可能性も?)ため、大損の心配はないようだ。



面白いのは、一般的な中古車と異なり、同じ仕様と同等の状態のクルマでも、その個体が持つ歴史によって大きく価格が異なることがあるということ。例えば、かつてレースで活躍していたクルマや、以前の所有者が歴史的な人物だったクルマなどは、同じ車種でも高い値段が付く場合がある。ワクイミュージアムには白洲次郎が所有したクラシックのベントレーが保管されているが、こちらには値段が付けられない価値があり、非売品となっている。



最後に、もっと現代的なロールス・ロイスの中古車も紹介しよう。



1969年製のロールス・ロイス「シルバーシャドウⅠ4ドアサルーン」は、立派なフロントグリルとぱっちりとした4つの丸目ヘッドライトを備えた流麗なスタイルのセダン。映画などに登場する、イメージ通りのロールス・ロイスではないだろうか。


6.2LのV型8気筒エンジンを搭載するこのシルバーシャドウはなんと、オートマ車だ。内装は最高級のレザー、カーペットはウール製という贅沢さなのに、お値段はなんと700万円。現在のメルセデス・ベンツ「Cクラス」(セダン)が700万円前後くらいだから、かなり身近な感じがする。ちなみに、ロールス・ロイスの最新モデルだと、最も手頃なものでも4,000万円級だ。



さすがに100年近く前のクラシックカーを所有するのは厳しいが、70年前後のロールス・ロイスならば、ちょっと現実的な夢かも……。もちろん、年代を問わず古いクルマは、購入後に保管場所の確保や定期的な点検、故障を防ぐ予防整備などが必須となるが、ワクイミュージアムの多くのクラシックカーを見た後だったので、思わず錯覚してしまった。


ワクイミュージアムはその名の通り博物館でもあるので、開館日ならば貴重なクルマを誰でも見学することができる。クルマ好きはもちろん、免許すら持っていなくてもクラシックカーの魅力は感じられるはずなので、興味がある方はぜひ一度、訪ねてみてほしい。



大音安弘 おおとやすひろ 1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。主な活動媒体に『webCG』『ベストカーWEB』『オートカージャパン』『日経スタイル』『グーマガジン』『モーターファン.jp』など。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。 この著者の記事一覧はこちら(大音安弘)