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森口将之のカーデザイン解体新書 第56回 シトロエンの名車と新型車「C5 X」の関係とは

2022年10月26日 11:32  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
シトロエンの新型車「C5 X」は、独創的なデザインで話題を振りまいてきた同ブランドの新たなフラッグシップらしい仕上がりであると各方面から高い評価を受けている。では、具体的には何がシトロエンらしいのか。シトロエン史を振り返りつつ考えた。


○車名の「X」が意味するところは?



シトロエンのC5 Xは、欧州のクラス分けでは「Dセグメント」に属する。日本車ではトヨタ自動車「カムリ」や日産自動車「スカイライン」、欧州車ではプレミアムブランドになるがメルセデス・ベンツ「Cクラス」やBMW「3シリーズ」と同格になる。



かつてシトロエンは、このクラスに「C5」というクルマを投入し、その歴史は2世代続いた。日本でも販売していたが、2代目C5は2015年に国内販売を終了している。



Dセグメントにはその後、「C5エアクロスSUV」が登場。これがシトロエンのフラッグシップとなっていた。しかし、6台のシトロエンを乗り継いできた筆者の周囲にいる昔からのファンには、いまひとつピンとこなかったようだ。


C5エアクロスSUVの全長は4,500mmと2代目C5の4,795mmと比べ短く、フラッグシップらしさが希薄だったということもあるけれど、シトロエンの頂点は長きにわたりセダンが務めてきたので、SUVではイメージに合致しないという側面もあったようだ。



その観点でC5 Xを見ると、リアウインドーを大きく寝かせたファストバックスタイルが同ブランドのかつてのフラッグシップである「CX」や「XM」を想起させる。ゆえに、多くのファンが好意的な印象を抱いているようだ。ちなみに車名の最後のXは、「セダン、ワゴン、SUVのクロスオーバー」であることを示すとともに、CXやXMに用いられたXの系譜を継承するという意味が込められているという。


たしかにC5 Xの最低地上高は165mmで、150mm未満が一般的な欧州のセダンやワゴンとしてはやや高い。ここからはSUVの要素が見て取れる。後車軸の後方まで伸びたルーフはファストバックとしては長めでワゴンに近い。


CX、XM、2世代のC5では、セダンとワゴンを別々に用意していた。C5 Xでは2つのボディを統合させたことになる。



ただ、XMのあとを受けた「C6」のように、フラッグシップらしさを出すためにボディをひとつにした事例もあるし、荷物を載せる用途にはC5エアクロスSUVもある。こうした状況を考えて1ボディとしたのだろう。

○シトロエンらしさ満載のディテール



C5 Xのボディサイズは全長4,805mm、全幅1,865mm、全高1,490mmで、2代目C5セダンの4,795mm×1,860mm×1,470mmに近い。日本の道を走ることを考えれば、それほど大きくならなかったのは朗報だ。とはいえDセグメントにふさわしい存在感のあるサイズであり、シトロエンがフラッグシップとしてC5 Xを位置付けていることが納得できる。



そこにSUVテイストを盛り込んだのは、2014年にデビューしたクロスオーバーSUV「C4カクタス」の影響が大きいだろう。同車が高い評価を受けたことで、その後のシトロエンデザインはコンパクトカーの「C3」など、多くがこの路線になっている。


具体的にスタイリングを見ていくと、まずプロポーションはCXよりXMに似ている。サイドウインドー下端のラインがリアドアが終わるあたりでキックアップしてしたり、リアエンドにスポイラーを備えていたりしているところに、XMとの相似性を感じる。ハッチバックであるところもXMと共通だ。

一方でサイドウィンドーまわりは、2022年初めに上陸した「C4」に通じるところもある。今のシトロエンブランドとしての統一感を持たせたのだろう。ただし、前後フェンダーの張り出しを強調したC4と比べ、C5 Xのボディサイドは穏やかで、フラッグシップとしての落ち着きを感じる。



フロントマスクもC4に近い。ヘッドランプ同様、外側がV字型に開いたリアコンビランプもC4に通じるものがある。最新のシトロエン・ファミリーであることが理解できる。


日本仕様のボディカラーは4色。上級グレードのシャインパックでは、すべてルーフがブラックの2トーンとなる。個人的にはイメージカラーのグリーンがかったグレーより、ホワイトのほうがスタイリングが映えると思った。この点もXMと同じだ。

○日本人デザイナーが仕立てたインテリア



インテリアは黒基調。艶と色味を抑えた木目調パネルなど、フラッグシップらしくシックにまとまっているが、随所にフランス生まれならではの遊びを発見できる。デザインの世界で「CMF」(カラー・マテリアル・フィニッシュ)と呼ばれる部分へのこだわりを感じる。


この分野はフランス本国のシトロエンのデザインスタジオで仕事をする日本人、柳沢知恵氏が担当した。発表会には柳沢氏も来て自ら説明をしてくれた。



とくに目についたのは、ロゴマークの「ダブルシェブロン」を効果的に使っていること。具体的にはシートやドアトリムを走るステッチと、シートのレザーに施されたパーフォレーション(穴開け加工)、シートの色分けの境目を走るアクセントクロス、インパネのシボ加工、ドアトリムなどに配されたウッドパネルで山なりのモチーフが確認できる。


柳沢氏によれば、ここまでロゴマークで遊んでも許されるところがシトロエンらしさであり、アイデアをいろいろ出し合って取り入れていったとのこと。一部は日本では先行して販売された「C3エアクロス」などにも採用しているが、本来はこの車種のために考えられたディテールだという。



機能面では大きめのセンターディスプレイとヘッドアップディスプレイ、対照的にコンパクトなメーターパネルの表示が整理されていてわかりやすく、好感を抱いた。スライド式のATセレクター、ダイヤルを残したエアコンなど、タッチ式スイッチを多用せず扱いやすさを重視した姿勢も評価できる。


前席は腰を下ろした瞬間は固めかと思いきや、その後はシトロエンらしく体を優しく包み込んでくれる。しかもシャインパックでは、ヒーターやベンチレーターに加えて多彩なマッサージ機能まで用意されている。



後席は身長170cmの僕なら足が組めるほど。2,785mmのロングホイールベースのおかげだ。前席より一段高めに座るのに、頭上空間がしっかり確保されていることも感心した。外から見るとワゴンのように長めに感じるルーフは、実は居住性を考慮した結果でもあった。

後方のラゲッジスペースは通常でも545L、後席背もたれを前に倒せば1,640Lの容積を確保できるうえに、ファストバックのおかげで大きく開くリアゲートがありがたかった。


C5 Xは美しいだけでなく使いやすさにも配慮し、なおかつ多くの人がシトロエンらしいと感じるデザインを備えている。ベースグレードのシャインであれば500万円以下という価格をお買い得と思う人は多いだろう。



森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら(森口将之)