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ユイマナカザトとセイコーエプソンがパートナーシップを締結 環境負荷に配慮したデザインを研究

2022年10月21日 19:12  Fashionsnap.com

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ユイマナカザト 2022年秋冬オートクチュールコレクション

Image by: YUIMA NAKAZATO
デザイナーの中里唯馬が手掛ける「ユイマナカザト(YUIMA NAKAZATO)」は、プリンター大手のセイコーエプソン(以下、エプソン)とファッション業界の課題解決への貢献を目指すためのパートナーシップを締結した。10月20日には、記者発表会を東京・赤坂のエプソンクリエイティブスクエア赤坂で開催。今回のパートナーシップはまず3年間の期間で、環境負荷に配慮しながら、一人ひとり異なる個性を尊重した多様なファッションデザインを提供する技術研究や仕組み作りを行っていくもの。

デジタル捺染機を使った過去2シーズンの取り組み
 ユイマナカザトは過去2シーズンのオートクチュールコレクションで、エプソンのデジタル捺染などの印刷技術を採用してきた。6月に発表した直近の2022年秋冬のオートクチュールコレクション「ブルー(BLUE)」では、インクジェットデジタル捺染機モナリザ(Monna Lisa)を用いて、中里の手描きのデザインをシルクオーガンジーの生地に印刷し、ドレスを制作した。

 デジタル捺染は刷版を必要としないため、必要な時に必要な量を生産することができるほか、精細なグラデーションや色調の再現が可能。従来の捺染工程と比較し、蒸しや洗いなどの工程が必要ないことから水の使用量を大きく削減でき、環境負荷が低い顔料インクを使用することができるという。
 またパリで行われたショーの会場演出でもエプソンのデジタル印刷技術を活用。中里の描いた地球の絵をエプソンの社内から出た数百メートルの古紙に拡大プリントし、使用後にはまた再生紙としてリサイクルされた。

今後の取り組み
 エプソンの𠮷田潤吉(執行役員プリンティングソリューションズ事業本部長)は、今回のパートナーシップについて、「中里さんとは昨年からクリエイティブ面でお手伝いをさせていただき、その協業をさらに発展させていこうと公式にパートナーシップを締結することが決まった」と説明。また「ファッションのクリエイションと環境保全の両立は容易ではないこと。エプソンでは、デジタルによる表現技術で、デザインの制約を取り除きながら、新しいサステナブルでクリエイティブなモノづくりのサポートをしていきたい」と期待を寄せる。

 中里唯馬は、「人間は衣服を着ないと生きていけない生き物。衣服の未来を考えていくことは、人類の未来を考えることに等しいと考える。ミシンなど、効率よく服を作る技術が発達した一方で、そこには環境問題を含めてたくさんの課題がある。また大量生産によって、多様な個性も見過ごされてきた。同じヴィジョンを持つもの同士で、より良い未来の衣服の在り方をともに考えていきたい」と話す。今後については「デジタルとクラフツマンシップを組み合わせながら、無駄を出さないバリューチェーンの実証実験を行っていく」と明かした。

 ユイマナカザトは、来年1月にパリで開催する2023年春夏のオートクチュールコレクションでも、エプソンの技術を使った作品を発表する。さらに映画監督の関根光才とファッションの環境負荷を考えるドキュメンタリー映画を撮影中で、来夏に公開予定。廃棄された衣服が行き着く場所であるアフリカ・ケニアを取材する内容で、その衣服を日本に持ち帰り再生させ、今後の課題解決を考えていくという。
大杉真心 (Mami Osugi) ファッション リポーター 文化女子大学(現文化学園大学)とニューヨーク州立ファッション工科大学(FIT)でファッションデザインを学び、ファッションブランドやセレクトショップで販売職を経験。「WWD JAPAN」で記者として、海外コレクション、デザイナーズブランド、バッグ&シューズの取材を担当する。2019年にフェムテック分野を開拓し、ブランドや起業家取材を行う。21年8月に独立し、ファッションとフェムテックを軸に執筆、編集、企画に携わる。22年4月に文化学園大学の非常勤講師に就任。