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改良にしては内容が大盛? ダイハツが「タント」を大きく変えた理由

2022年10月21日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
ダイハツ工業が主力軽自動車「タント」のマイナーチェンジを実施した。新機種「ファンクロス」を追加したり「タントカスタム」の顔つきを大きく変えたりと、フルモデルチェンジではないのに内容は盛りだくさんだ。大幅改良を施すダイハツの狙いとは?


○ジャンル開拓も現在は苦戦の「タント」



初代タントは2003年に登場し、「ムーヴ」などの「ハイトワゴン」よりもさらに天井の高い「スーパーハイトワゴン」と呼ばれる新たなジャンルを開拓。子育て家族を中心に人気を集め、ダイハツの軽自動車販売を牽引してきた。タントの競合としてスズキが「パレット」を投入しても、タントの人気は長らく盤石だった。打開策としてスズキは、クルマの個性を明確化するためパレットの車名を「スペーシア」に変更したほどだ。



スーパーハイトワゴン市場に変化をもたらしたのはホンダ「N-BOX」の登場だった。初代の発売は2011年で現在は2代目だが、初代発売後の2012年度上半期に軽自動車販売の首位に立ち、2013年4月には年度を通じての首位となった。その後は2位になる年もあったが、ほぼ毎年、軽自動車で最も売れるクルマの称号を獲得し続けている。



一方のタントは2019年にモデルチェンジし、現行型で4代目。最近の状況としては2022年8月の軽自動車販売台数で5位となり、1位のN-BOXに比べれば台数は半分以下となっている。ダイハツ車では3位に「ムーヴ」が入っているが、これは「ムーヴキャンバス」がモデルチェンジしたことにより受注が好調だからだろう。



いずれにしても、ジャンルの開拓者であるタントとしては、失地挽回のためのテコ入れが必要な状況だった。今回はマイナーチェンジだが、新機種を投入するなど内容が豊富なのはダイハツの気合いの表れといえるかもしれない。

○マイチェンの中身は?



マイナーチェンジの中心となるのは「タントカスタムの改良」と「タントファンクロスの誕生」の2点だ。



まずカスタムでは、クルマの顔といえるラジエターグリル周りの意匠が大きく変わり、厳つい顔つきとなった。従来のタントカスタムは上質さを感じさせる意匠だったが、今回のマイナーチェンジではボンネットフードとフェンダーを作り直し、いかにも押し出しの強い、エラの張ったような顔つきとした。


これほど大幅な変更は一般的なマイナーチェンジでは珍しい。開発責任者は「通常であればバンパーやライト周りの変更にとどめることが多いのですが、今回はファンクロスの車種追加もあり、それによる販売台数増が期待できるので、より大幅な意匠の変更をすることができました」と語る。

あわせて後ろのバンパー回りもより角張った造形とし、前後の調和をはかっている。



内装にも手を加えた。例えば前席ではシート表皮のレザー部分を増やしたり、ダッシュボード回りの装飾を抑え気味にして統一感を出したりすることで質感を引き上げた。前席の肘掛けには蓋つき小物入れを設定。身の回りの物をきちんとしまえる利便性を持たせた。


後席の背もたれは従来、折りたたむと座面が一緒に沈み込む「ダイブダウン」機構を採用していたが、マイナーチェンジ後は簡単に折りたたむ機構へと変更した。それにより荷室との間に段差ができるが、そこには上下2段に仕切ることのできる床板を設け、背もたれとの段差をなくすとともに、下段に小物をしまえる空間を生み出している。後席調整の仕組みは標準車も同様だ。


新登場のファンクロスはアウトドアブームに照準を合わせた1台だ。タント最大の特徴である「ミラクルオープンドア」を屋外活動の場面でもいかせるのではないかと考えて企画したという。


車両としての走行性能や快適さに標準のタントとの違いはない。例えばタイヤも、標準車と同じくサマータイヤを選択している。そのうえで、外観はアウトドアを強く印象付ける造形とし、車体側面には保護機能も備える意匠を追加。標準装備のルーフレールは見かけだけでなく、実用に耐える堅牢な仕立てとした。



競合となるスズキのスペーシアにも「スペーシアギア」というアウトドアタイプの車種がある。ファンクロスとの関係性について開発責任者は、「それぞれに個性が異なりますので、実は案外、競合しないのではないかと思っています。ファンクロスの武器は、なんといってもミラクルオープンドアです」と話していた。



タントは2代目からミラクルオープンドアを採用しているが、その価値は今も変わらず、他社にはないタント最大の特徴となっている。この武器をファンクロスでもいかした。大掛かりなマイナーチェンジによって、「ダイハツのフラッグシップとして、タントを販売台数ナンバーワンに引き上げたい」というのが開発責任者の思いだ。



N-BOXが登録車のミニバンを想起させる商品性を追求したのに対し、ダイハツは軽自動車で培った技術や魅力を登録車へ拡大するクルマづくりを進めている。そうした取り組みの違いが、同じスーパーハイトワゴンでも別の商品性となって表れている。自らの道を邁進しながら一歩先へ踏み出したマイナーチェンジ後のタントに対する消費者の反応は、今のところ上々だ。2022年8月の発表から10月初旬までの間に、月販計画台数1.25万台の2倍を超える2.8万台超の受注が入ったという。ファンクロスの販売比率は全体の25%で、想定していた20%を超えたとのこと。これも挑戦的なマイナーチェンジの成果のひとつといえるだろう。



御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら(御堀直嗣)