最近ネットで話題の「配属ガチャ」というワード。夢を抱いて就職しても、希望とまるで違う部署に配属されるなんていうのは、会社員の悲哀としてよく語られてきたこと。ここにきて「配属ガチャ」の理不尽さに注目が集まっているのはなぜなのか? ワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに解説してもらった。
仕事内容や勤務地、部署が「運任せ」でいいの?
職務に縛られた「就職」ではなく、会社の一員として「就社」する。そんなメンバーシップ型と呼ばれる日本の雇用システムは、時に働き手にとって不本意な配属を生み出すことがあります。会社に強い人事権があり、社員の配属を決めることができるためです。
特に、新卒社員が社会に出て最初に受ける配属辞令は「配属ガチャ」と揶揄されがちです。新卒の人たちにとって最初の配属先は「運任せ」で、職務や勤務地、部署などを会社から強制的に決められてしまうように見えるからです。しかも、多くの人が「最初の配属」について、人生を大きく左右する出来事と捉えています。
たとえば、人事職がやりたいのに営業職に配属されたり、都内希望なのに地方勤務になったりすれば、ガッカリするのはわかります。
いったん配属されれば、少なくとも当面は不本意な仕事に携わることになる。そのうえ数年後、仮に異動できたとしても、その異動先を決定するのも会社側。下手をすると、ずっと不本意な仕事のままの可能性もあります。
なぜ、こんな「理不尽」を我慢しなければならないのでしょうか?
配属ガチャが発生する「一筋縄にはいかない事情」とは?
中途採用であれば、「あらかじめ仕事の内容や、勤務地などが確定した状態で入社」というケースは少なくありません。そのほうが、会社側としても準備がしやすいようにも思います。新卒もそういう条件で人を採用したら配属ガチャなど起きないはずです。
ただ新卒採用の場合に「配属ガチャ」が発生する背景として、一筋縄にはいかない事情が少なくとも二つあります。
一つは、新卒社員は基本的に仕事経験がないため適性がわからないことです。
本人が「人事がしたい」と希望していたとしても、人事の仕事が向いているかどうかは別です。極端な話をすると、社会保険労務士のような難関資格を持っていて、労務手続きの専門知識がある人でも、必ずしも「この人は、人事部に向いている」とまでは断言できません。
というのも、人事の仕事は労務手続きだけではなく、その人が採用や人事制度構築など「他の人事タスク」に携わる技能や適性があるとは限らないからです。
仕事経験がない新卒社員はポテンシャルで採用されます。そのため、まずはポテンシャルを軸に配属し、実務に携わる中で適性を確認することになります。その際、実務経験を積んだベテラン社員が考える「ポテンシャル」の評価と、実務経験がない新卒社員の自己評価が一致しないことはどうしても起こりえます。
新卒に期待しているのは、現時点での能力よりも「ポテンシャル」
もう一つの事情は、社内体制が事業環境にあわせて変化することです。事業戦略の再編や予定外の退職が起きると、それに合わせて人員配置の組み換えも必要になります。当然ながら、新卒社員の配属もその流れの中で決めていきます。その際に会社が少しでもポテンシャルを感じるポジションにはすべて、配属先になる可能性が生じることになるのです。
それら二つの事情がある一方で、環境変化に応じて会社が人員配置を決められる仕組みは、メンバーシップ型組織の強みでもあります。たとえば、もし割り当てられた仕事が自分に向いていなくて、成果が出せなかった場合でも即クビにはならず、配置転換で雇い続けてもらえたりします。
つまり配属ガチャは、日本特有のメリットとデメリットを併せ持つ会社システムの副産物なのです。
配属ガチャに対する不満を耳にした人たちが、頭ごなしに「そんな考えは甘い!余計なことは考えずに、黙って5年はやってみろ」などと否定してしまったりするのは、このシステムを前提にしているからでしょう。
そうした環境で働いてきたベテラン社員たちの多くも、配属ガチャに悩みながら堪え続け、徐々にそのメリットが見えてきたという経験があるのです。
ただし、この話は「入社から定年まで会社で勤め上げる代わりに生涯の生活を保障してもらえる終身雇用の関係」を、暗黙の前提にしています。しかしながら、既にこの前提は崩れてしまっていて、経済界からも「終身雇用の維持は無理がある」という見解が出されているぐらいです。
そういう時代には、自ら「自分自身のキャリア」をどうするか考え、自分自身で築いていくしかありません。そうなると、希望する仕事を選択して、幸福を追求するキャリア権も尊重されるべき時代になってきていると言えそうです。
冷静かつしたたかに最適解を選ぼう
以上を踏まえると、これから重要になってくるのは「配属ガチャ」を、「自身のキャリアにどう活かすか」という視点です。ただ従順に受け入れるのも、闇雲に否定するのも、得策ではありません。
では実際に、配属ガチャで不本意な状況に置かれてしまったとき、どう行動すべきなのでしょうか?
もし、まだ自分の希望がハッキリしていない場合には、不本意な仕事でもひとまず一所懸命に取り組むのがいいと思います。やってみると実は向いていた、新たな面白さを発見したなど、想定外の可能性との出会いがあるかもしれません。
逆に「案の定、向いてなかった」という結論になったとしても、チャレンジしたことで自分自身への理解が深まりますし、そこで得られた経験が視野を広げ、後々のキャリアに活きる貴重な財産となるかもしれません。
また、自分の「将来なりたい希望」が明確にあるのに、それと違う仕事を割り当てられたケースでも、辞めずに踏みとどまるほうがいい場合もあります。
例えば、人事の採用担当希望者が営業部門に配属された場合。これは一見まるで関係ない仕事ですが、顧客を惹きつけて商品購入へとつなげるスキルは、求職者を惹きつけて内定承諾を勝ち取るスキルと相通じるものがあります。将来希望通りに人事部門に異動になった時、もとの職場で磨いたスキルが役立つかもしれません。
一方無理に耐える必要がないのは、その仕事に耐えられないほど強いストレスを受けているとか、上司との相性が悪すぎて心身を壊してしまいそうといったケースです。会社側が状況を改善してくれそうにないなら、他の職場に移るほうが賢明でしょう。
冷静かつしたたかに、自身のキャリアにとっての最適解を選び取っていただきたいと思います。