トップへ

営業秘密を不正取得「かっぱ寿司」元社長、今後の責任追及どうなる? はま寿司から賠償請求される可能性も

2022年10月14日 10:01  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

回転ずし大手「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイト(横浜市)の田辺公己前社長が、競合他社の営業秘密を不正に取得したなどとして、不正競争防止法違反の疑いでこのほど逮捕・送検された。


【関連記事:先輩の母親と「ママ活」したら、地獄が待っていた…もらった「250万円」は返すべき?】



報道によると、田辺氏は、「はま寿司」の親会社であるゼンショーホールディングス(HD)に在籍していた2020年10月頃、傘下のはま寿司の仕入れ原価などに関する営業秘密を複製して不正に取得した疑いがあるという。同年、カッパ社に移籍後、これを使って両社の仕入れ原価を比較するなどしたようだ。



田辺氏以外にも、カッパ社商品部長や元はま寿司経営企画部長が逮捕されたほか、不正競争防止法の規定に基づき、カッパ社も書類送検された。逮捕当時社長だった田辺氏は10月3日、カッパ社社長を辞任した。



田辺氏は、ゼンショーHDを退職する際に秘密保持の誓約書に署名していたとも報じられている。厳しい競争にさらされている回転ずし業界で起こった事件は、今後どう進展していくのか。里貴之弁護士に聞いた。



●営業秘密として保護を受けるための「3つの要件」

——営業秘密の不正取得とはどのような行為でしょうか。



「営業秘密」とは、(1)秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の(2)事業活動に有益な技術上または営業上の情報であって、(3)公然と知られていないものをいいます(不正競争防止法2条6項)。



この定義から、営業秘密として保護を受ける要件は、(1)秘密管理性、(2)有用性、(3)非公知性の3つに整理されます。田辺氏が、退職時に秘密保持の誓約書に署名しているという報道もありますが、(1)を基礎づける事情といえます。



また、不正競争防止法には、営業秘密を保護するために、営業秘密を侵害する行為が不正競争行為として規定されているだけでなく、刑事罰として、営業秘密侵害罪が成立する行為類型が規定されています。



——具体的にはどのような罪の成立が考えられるのでしょうか。



事件の概要として、田辺氏が在職中に営業秘密に当たるデータを不正に取得したと報じられていますが、在職中に当該データへのアクセスやその使用が許されていた場合における不正な目的での営業秘密の持ち出し、使用・開示行為は、不正競争防止法21条1項3号及び4号の営業秘密侵害罪が成立することになります。



なお、不正競争防止法22条は両罰規定を定めていますが、「正当に示された営業秘密を不正に使用等する行為」については、両罰規定の対象外とされています。



本件と関係する3号及び4号が除外されている理由は、転職後の不正使用・開示の場合に、転職先企業を両罰規定で処罰すれば、企業が転職者の受け入れを躊躇することになりかねないという点にあります。



したがって、3号及び4号との関係では、カッパ社の処罰は問題となりません。ただし、カッパ社の商品部長も逮捕されており、両罰規定は、法人の従業員等の選任・監督上の過失を根拠とするものであることから、当該商品部長の被疑事実との関係で、カッパ社の処罰が問題となってきます。



●過去の類似ケースでは「懲役刑」が科されたことも

——過去に類似事例などはありますか。



今回のように営業秘密の不正取得が問題となった他のケースとしては、民事事件では、元従業員が、同業他社へ転職する際に、営業秘密を不正に持ち出し、転職先に不正開示したという事案において、裁判所が、営業秘密の使用差止及び損害賠償請求を認めた事案(大阪地裁令和2年10月1日判決)があります。



刑事事件には、会社の執行役員や事業本部長などの重職を務めた経歴を有していた被告人が、その子会社に在籍中、営業秘密を領得し、競合他社に就職後、これを開示したという事案において、懲役2年6月および罰金120万円(執行猶予3年)を言い渡した事案もあります(名古屋高裁令和3年4月13日判決)。



記憶に新しいケースとして、「5G」の技術情報などを転職先の楽天モバイルに不正に持ち出したとして、2021年1月にソフトバンクの元従業員が逮捕され、ソフトバンクが同年5月、元従業員と楽天モバイルに対して訴訟を提起したという事案もありました。



——今後どのような捜査がおこなわれることが考えられますか。



今回の事件では、昨年株式会社はま寿司が刑事告訴し、警察による捜査を経て田辺氏らが逮捕されていますので、警察は、はま寿司側から、営業秘密の該当性にかかる資料提供等を受けているものと考えられます。今後は、カッパ社における営業秘密の使用状況等についてより詳細な捜査が行われるものと思われます。



仮に、田辺氏に対する被疑事実が認められる場合は、同種の事案のように、懲役刑が言い渡される可能性があるほか、逮捕されたカッパ社の従業員との関係では、カッパ社が両罰規定により罰金刑を受ける可能性もあります。



その他、ソフトバンクと楽天モバイルの件のように、はま寿司から、田辺氏およびカッパ社に対し損害賠償請求するといった事態も想定されますので、今後の動きが注目されます。




【取材協力弁護士】
里 貴之(さと・たかゆき)弁護士
2013年京都大学法学部卒業。16年京都大学法科大学院修了。17年弁護士登録。争訟・紛争案件を中心に、特許・商標・著作権・不正競争防止法等の知的財産に関する業務に従事する。
事務所名:弁護士法人北浜法律事務所大阪事務所
事務所URL:http://www.kitahama.or.jp