2022年1月1日にティザーPVを公開して以来、新情報のたびに盛り上がる『うる星やつら』新アニメシリーズ。
10月より第1期(2クール分)を放送する本作に先駆けて、諸星あたる役の神谷浩史さんにインタビューを実施! いち読者として楽しんだ原作コミックの思い出や、新アニメシリーズにかける想いなどをうかがった。
大先輩・古川登志夫さんにかけてもらった暖かな言葉、そして『傷物語』当時に新房昭之監督から飛び出した「予言」とは……?
[取材・文:気賀沢昌志 撮影:吉野庫之介]
声優になって、これが「初」です
――まずは諸星あたるという大役を射止めた感想をお願いします。
神谷:素直に嬉しかったです。これまでも大好きな作品に関わらせていただくことはあったのですが、何十年も憧れていた作品に声優として参加できたのは、実はこれが初めてでした。しかもすでに一度アニメ化された作品ですよ。関われるなんて夢にも思いません。
ですから、まずお話をいただくチャンスをもらえたことに驚きましたし、役を決めていただいて心の底から嬉しかったです。
――原作コミックや初代のアニメについて、どのような思い出がありますか?
神谷:最初はテレビアニメでしたね。小学生の頃、毎週水曜日にフジテレビで放送していたのですが、19時から『Dr.スランプ アラレちゃん』、そして19時30分から『うる星やつら』という編成でした。当時はスマホもネットもなく、テレビといえばお茶の間にある据え置きのものだけです。そのため子供にチャンネル権がなく、1日に30分しか見せてもらえませんでした。
親としては当然、虎縞ビキニの女の子が登場するアニメではなく、『Dr.スランプ アラレちゃん』を見せようとしますよね。でも子供の方はダメと言われると余計に見たくなるもので、母が目を離している隙を狙っては断片的に観ていました。
――「昭和あるある」ですね。
神谷:それが最初の出逢いで、本格的にのめり込むようになるのは中学生になってからでした。お年玉で原作コミックをまとめ買いしたんですよ。
それまで友人の家で原作コミックを読ませてもらったり、アニメを断片的に観ていたりしましたが、そこではじめて第1話から最終回まで知り、「こんな話だったんだ!」と改めて感激したんです。
――原作で特にお好きだったエピソードはありますか?
神谷:色々ありますけど、一番はやはり最終章の「ボーイミーツガール」ですね。物語の畳み方として最高でした。それ以外だと因幡が登場するエピソードでしょうか。もともと因幡は大好きなキャラクターなんですよ。
――どんなところがお好きなのですか?
神谷:いい加減なキャラ設定ですね(笑)。『因幡の白兎』をモチーフにしているかと思えば、やっていることは『不思議の国のアリス』の白兎に近いですし、謎多きところがいいですよね。
そんな彼が登場したことで、それまであやふやな立場に甘んじていた三宅しのぶの存在や立ち位置が固まったというか、そこも含めて印象に残っているキャラクターです。
――役が決まったことで、作品の見え方が変わった部分はありましたか?
神谷:改めて「諸星あたる」というキャラクターを見つめ直す、いい機会になりました。それまでは当たり前のものとして受け入れていましたが、よく考えると、主人公なのに根がいい加減で軽薄なキャラクターは、当時かなりエポックメイキングだったのではないかと思うようになりました。
それを古川さんがやられていたんですよ。青二プロダクションの大先輩なので、古川さんがいかにまじめで、後進の育成に熱心で、そしていかに真摯な方か目の当たりにしてきました。諸星あたると重なる部分なんて、まったくありません。それなのに、あの諸星あたるを表現しきったわけです。演じるのは大変だったと思います。
もしも古川さんの「諸星あたる」がなく、ゼロから役作りしなければならないとしたら、「こんな主人公ありえない!」「どうやったらこの主人公で成立させられるんだろう?」と悩んでいたかもしれません。「古川さんの諸星あたる」がDNAレベルで刻まれているからできたことなのかなと思います。
古川さんへの報告会で……
――諸星あたるというキャラクターを演じるにあたり、どんな難しさ、面白さを感じていますか?
神谷:少し話がそれますけど、どう演じようか考えていた時に思い出したことがありました。
あれは『偽物語』のアフレコ後に新房昭之監督とお食事をしていた時なので、10年ほど前のことです。その時に監督が「今『うる星やつら』作るなら諸星あたる役は絶対、神谷さんなんだけどな」と。その時はピンとこなかったのですが、あの時、新房監督は僕のどこを見て「諸星あたる」を感じたのでしょう……。
――結果的に現実のものとなりました。
神谷:僕自身、古川さんの声と演技がDNAレベルで刻まれているので、台本のどのセリフを見ても古川さんの声とリズムで脳内再生されるんです。だってそれが一番面白いんですから。
ところが実際にアフレコが始まってみると、初代とは異なる部分に気づき始めるんです。初代とは当然、演出方法やシーンの意図が変わります。とくに今回は原作コミックの傑作選というコンセプトのもと、可能な限り原作の雰囲気を再現しようとしています。そこで若干、セリフの言い回しが変わってくるんです。
「この場面の諸星あたるは、初代ならこう喋るよね」と古川さんの声がリードしてくれる中で、新しい『うる星やつら』で違和感のないよう、どう自分の身体を使って表現していくか考える……。そのあたりの試行錯誤が難しいところであり面白いところです。
――ちなみにキャストが発表されてから今日まで、古川さんとお話する機会はありましたか?
神谷:極秘プロジェクトでしたから配役決定直後ではなく、慎重に時期を決めてお食事会をさせていただきました。
――古川さんは何とおっしゃっていましたか?
神谷:「自分の演技論を持っている役者に対して、私なんかが特に言うことはありませんよ」と。そして「青ニプロダクションにもう一度『諸星あたる』が戻ってきたことを含め、一番いいところに(配役が)落ち着いてくれたと思います」とおっしゃっていただきました。本当に頭が下がりました。
しかも当日は古川さんをお迎えするということで、それなりのお店を予約していたんです。それなのに、いざお会計というタイミングで店員さんが「じつは事前に古川さんからいただいておりまして……」と。
――……!
神谷:お祝いだからということで、反対にご馳走になってしまいました。
――タメ息しか出ませんね。ところで上坂さんのラムについてはいかがでしたか?
神谷:最高でした。そのひと言に尽きます。僕自身、平野文さんのラムちゃんをずっと見てきましたから、この役は誰がやっても難しいなと感じていました。しかも世界規模でファンがいますからね。それだけのファンを納得させなければいけません。
でもその後、オーディションの時に収録したというラムちゃんのボイスを聞かせてもらって純粋に思いました、「あっ、これはラムちゃんだ」って。それくらい違和感がなく、イメージそのままでした。
――80年代に一世を風靡した作品として、時代のギャップも気になるところです。
神谷:ギャップはあるでしょうね。再アニメ版でも諸星あたるは相変わらず「ねーねーお姉さん、電話番号教えて?」と女性に声をかけます。今の時代なら通報モノですよ。しかもLINEではなく電話です。でもこの作品で描いているのは、そういう時代性の作品であり、言ってしまえば「ネオ昭和」なんだと思います。
――現代風のアレンジが入ることでバランスが崩れる話もあるかなと少し心配していましたが、その部分も含めて「原作そのまま」なのですね。
神谷:そのままです。友引町に住んでいる人たちも、基本的に「変な人」ばかりじゃないですか(笑)。僕もあの町に住んでみたいと思いながら原作を読んでいましたし、関わっているスタッフもみなさん、おもしろがって参加しているように感じます。そこは純粋にエンターテイメントとして楽しんでいただければと思います。
――現状、全4クール構成の予定です。個人的にはもっと続いて、傑作選ではなく完全アニメ化……できればオリジナル・エピソードまで続いて欲しいところです。
神谷:この10年ほどで、大量消費の傾向がアニメ業界で加速していますよね。それは活性化の証拠でもあるのですが、反面、サイクルが短いので「残る作品」が少なくなっているとも言えます。それは僕ら声優だけでなく、すべてのスタッフや制作スタジオも含め、代表作と言える作品ができ辛い状況でもあるんです。
アニメーションは1本制作するだけで、ものすごく手間と時間がかかります。ですから1本でも多くの作品が皆さんの印象に残って、大切にしてくれたら嬉しいなと思いながらアフレコに参加させていただいています。
そんな中で『うる星やつら』の再アニメ化に関われて僕は良かったと思うし、やるからには絶対、初代と新シリーズが並び立ち、お互いを引き立て合うような作品にできたらと思っています。
――本当に楽しみです。初代のアニメ版キャラクターも好きでしたが、今回の原作寄りのビジュアルも期待しています。
神谷:キャラクターデザインを担当されている浅野直之さんが描くラムちゃんなんて、みんな見たいに決まっていますよ。浅野さんのキャラクターは止め絵でも十分かわいいのに、動くともっと輝くんです。しかも今のところ全話の作画監督を担当されていて「マジか……!」と。僕自身、完成版が楽しみです。
――それでは最後に、ファンへメッセージをお願いします。
神谷:初代の時は「週刊少年サンデー」で毎週1話ずつ『うる星やつら』の原作マンガが掲載されていました。今回はそれが原作準拠の新しい映像となり、毎週1話ずつ放送されます。
こんな「祭り」はしばらくないと思うので、ぜひ参加して楽しんでいただければと思います。
(C)高橋留美子・小学館/アニメ「うる星やつら」製作委員会