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『RECORD』『音盤紀行』『緑の歌』……色褪せないレコードの魅力を伝える漫画3選

2022年10月10日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 楽曲のサブスクリプションサービスが普及しつつも、未だ根強い支持を得るレコードディスク。その証拠として、現代においてもレコードの登場する漫画作品は多く存在している。


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 レコードをはじめとするアナログな媒体の価値や魅力は何なのだろうか。本稿ではレコードが描かれる漫画作品の一部を取り上げ、前述した問いについて考察したい。


『RECORD』


 2011年に漫画雑誌『月刊コミック アース・スター』(アース・スター エンターテイメント)で連載された『RECORD』。漫画『ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章』などで知られる藤原カムイ氏が手掛けた作品だ(原作協力・中島直俊氏)。


 作品の舞台となる音成町ではエレベーターに閉じ込められたり、人の右手がなくなったりなど、不可解な現象が多発していた。町の異変を解決するため、中古レコード屋を営む主人公・PUNKは不思議な力が込められたレコードディスクを集めていく。


 物語のカギとなるレコードディスクや、音成町で起こる「針飛び」という現象など、作中ではレコードがモチーフとされるキーワードが多く登場する。レコードのジャケットを彷彿とさせる各エピソードの扉絵、レコード盤特有の凹凸が刻まれている本体カバーなど、物語や装丁からもレコードの存在を感じることができる。


 そんな本作に登場するレコード好きの少女は「昔の人は残したい記憶とか思いを強力なものにしたくて…こんな機械を作ったのかもしれないね…」と話す。この台詞は音楽をレコードに記録し始めた当時の人々の思いと重なる部分があるのかもしれない。


『音盤紀行』


 漫画雑誌『青騎士』(KADOKAWA)で連載され、2022年5月にコミックス第1巻が発売された『音盤紀行』。目次がレコードの帯のようなデザインとなっていたりなど、前述した『RECORD』と同様に本作も装丁からレコード特有の質感を覚えることができる。


 そんな本作の第1巻には5本の短編作品が収録されており、オムニバス形式で物語が進行していく。スマートフォンの普及した時代の日本でレコード屋を営む女性のエピソードや、船でレコードを運搬する日本から離れた異国の話など、レコードを共通項としつつも時代や舞台の様々な物語が展開し、ときに別の物語が国や時間を超えてつながりを見せる。


 レコードの保存状態から所有していた人物の姿を推測したり、レコードを手に入れる・届けるために奮闘したりなど、本作のエピソードはレコードという形のあるものだからこそ生まれた物語ばかりだ。CDやMDといった媒体も含め、多くの人に愛されてきた音楽が形のある物体として存在していることこそ、現代までレコードの価値や魅力が受け継がれてきた背景として存在するのであろう。


『緑の歌』


 漫画雑誌『月刊コミックビーム』(KADOKAWA)で連載され、『音盤紀行』と同様に2022年5月にコミックス上下巻が発売された『緑の歌』。作者の出身地である台湾が物語の舞台となっている作品だ。


 村上春樹『海辺のカフカ』や岩井俊二『リリイ・シュシュのすべて』など、日本の文化に興味を抱く少女・緑。彼女は大学進学を期に台湾の都市・台北でひとり暮らしをはじめる。台北の地で出会った少年・南峻(ナンジュン)や同じ大学に通う友人と過ごしていくなか、緑は日本の文化や多くの人々に救われていく。


 コミックス1巻「[04] I Saw You, A Little Bit」にて緑は南峻の自宅を訪れ、アーティスト・はっぴいえんどのアルバム『風街ろまん』の楽曲をレコードを通じて耳にする。そのあと緑は同じアルバムを購入するため、南峻からもらったレコードショップの名刺を片手に日本へ行くことを決心する。アルバムを購入するために異国の地を訪れる旅は、音楽が形のある物体として存在しているからこそ生まれたものであろう。


また日本へ行こうとする緑に南峻は言葉を贈った。
いいと思ったアルバムのジャケットを頼りに選ぶだけ
試聴もできないしもっと言えばネットで評価を探すこともできない
70年代の音楽は70年代のスタイルで聴くんだ
思えば最近「ジャケ買い」といった言葉を耳にしなくなった。


 欲しいものを購入するために商品のレビューを調べ、音楽であれば試聴し、本であれば試し読みをしてから購入を決心して、通販サイトに配置されたボタンをクリックする。中身の一部を知り、いつでもどこでも買い物ができるようになった現代は、数十年前と比べ非常に便利な世の中になったと言えるだろう。


 1970年代ではどうだったのだろう。購入するためにショップへ足を運び、ときに中身を知らないまま、感性の赴くままに購入を決心する。前述した行動とは対照的な行為であるからこそ、レコードを始めとするアナログな媒体を購入して楽しむことの魅力は、便利になった現代において、より強調されているのだと感じる。