2022年10月07日 15:21 弁護士ドットコム
年々増えて約3000人いる日本の企業内弁護士(インハウスローヤー)。採用数のトップをひた走っているのはIT大手のヤフーだ。
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日本組織内弁護士協会(JILA)の調査によると、同社内の企業内弁護士数は2017年から6年連続1位。2022年6月現在で49人が働いており、2位の三井住友信託銀行とは18人もの差がついている。
どういう戦略のもとに採用され、どういう業務を担っているのだろうか。部門責任者と実際に働いている企業内弁護士に聞いた。
ヤフーが採用数の上位20社に初めて入ったのは2009年のこと。当時の企業内弁護士は日本全体で354人と少なく、4人を採用していたヤフーは12位だった。その後、採用は順調に増え、2013年以降、ヤフーが1位か2位という状況が続いている。
ヤフーでは、企業内弁護士の8割ほどが法務部に所属する。ECや金融など約100のサービスを提供しており、商材ごとに細かな決まりがあるケースもあるため、事業を進めるうえで法律の素養は欠かせない。
「デジタル分野はもともと法制度が整っておらず、自主的に適切なルールを考え、運営してきた面があります。法改正も多く、法律をよく理解し、論理的な活動ができるという点で、弁護士資格を持った人材には魅力があります」
こう話すのは、ヤフーの加納美幸さん(政策企画統括本部長)。今後も一定のペースで弁護士人材を採用していく予定だという。なお、給与体系は他の社員と一緒とのことだが、所属する弁護士会に払う会費は会社持ちだそうだ。
法務以外の企業内弁護士の大部分は、加納さんのもとで官庁などと連携した「政策渉外」の仕事をしている。立法や法改正などに伴う関係省庁との折衝や定期的な意見交換などを通じて、「政策提言」や「ルールづくり」をする業務だ。
「弁護士資格を持ったかたは勉強の習慣があってキャッチアップが速いですし、法律にどう落とし込んでいくのかという細かい議論ができるのが強いですね」(加納さん)
法律や命令などが新しくなっても、企業がとるべき具体策は必ずしも明確ではない。ときには有識者を招いて独自の検討会を開き、課題を議論してもらうこともある。
たとえば、巨大デジタルプラットフォーム(DPF)に取り引きにかかわる情報開示などを求める「透明化法」。2021年に施行され、今年8月には政令改正によりデジタル広告も対象に加わった。10月3日に経産省から発表された対象事業者の中にはヤフーの名前もある。
同社ではこれに先立ち2021年7月から、大学教授や弁護士らによる独自の有識者検討会を6回開催し、省庁もオブザーバーとして参加した。検討会の内容も踏まえて、今年3月には具体的な対応方針を公表し、すでに実践している。
業界最大手の率先した取り組みは、同業他社にも強い影響力を持つ。業界のスタンダードをつくる仕事とも言えるだろう。
「ヤフーはビジネスの領域も広く、関係するステークホルダーが多い。ルールメイキングにしても、自分たちだけでなく、多様な視点を取り入れていくことを意識して、社会の声やメディアの反応も見ています」(加納さん)
この透明化法対応のプロジェクトにかかわったヤフー社員の一人、相澤澪亜さんは入社3年目の弁護士。「ITの現場に興味があった」といい、法科大学院をへて、司法修習が終わってすぐの2020年1月に入社した。
修習の関係で新卒弁護士だけは入社時期が違う。同期のほかの弁護士とはよく連絡を取り合う仲だ。ただし、社内では年齢や役職に関係なく、「さん」づけで呼び合うため、業務で関わりのある人であっても相澤さんを弁護士とは知らない人もいるという。
「透明化法では、法案段階から社内の他部署からのヒアリングを重ね、政府とやり取りをしてきました。施行後も事業者の立場から政府と認識合わせをしています。より良い社会の実現と事業の両方を大事にしてやっています」(相澤さん)
相澤さんは現在、幼い子どもの面倒も見ながら働いている。
「仕事と家庭の両立も企業内弁護士になった理由のひとつでした。基本的には在宅勤務で、現在は8:30~15:30をメインに働いています。企業内弁護士のロールモデルが多く、将来のイメージもできますし、仕事とプライベートを分けやすい職場だと感じています」(相澤さん)
ゆくゆくは法務も経験してみたいという。同社は提供サービスが多く、部署が変わると覚えるべきことも大きく変わる。「社内転職」状態のためか、流動性の高いIT業界にあって、弁護士資格を持った社員の定着率は極めて高いという。