2022年10月05日 16:21 弁護士ドットコム
弁護士費用の立て替え制度(代理援助)の利用を拒まれたのは不当として、青森県の弁護士法人が、日本司法支援センター(法テラス)本部を訴えていた訴訟で、最高裁はこのほど弁護士法人側の上告を退けた。弁護士法人側の敗訴が確定した。
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訴えていたのは、弁護士法人「青空と大地」(代表社員・橋本明広弁護士)。着手金や報酬金など、合計16万5160円を求めていたが、一審・二審ともに請求棄却となっていた。
橋本弁護士は裁判を振り返って、「法テラスの審査が厳しくなっているように感じます。このような判断が積み重なれば、経済的に余裕のない人は司法にアクセスできなくなり、司法の公正が保たれなくなる。法テラスの趣旨が形骸化してしまうのではないでしょうか」と懸念を語る。
原判決などによると、橋本弁護士は2018年4月、30万円の支払いを求める訴訟を提起された県内の住民の意向を受け、法テラス青森に代理援助の利用を申し込んだ。
これに対して、法テラス青森は2018年5月、代理援助の不開始決定を通知した。橋本弁護士は不服を申し立てたが、提出した書類からは援助要件を満たしているとは判断できないとの理由から退けられ、裁判に至った。
代理援助の要件は3つある(日本司法支援センター業務方法書9条)。
(1)当事者が資力に乏しいこと
(2)勝訴の見込みがないとはいえないこと
(3)民事法律扶助の趣旨に適すること
このうち、橋本弁護士のケースでは(2)と(3)が不適切との判断がなされた。
この点について橋本弁護士は、「本気で詳細な書類をつくれば申請は認められたと思います」と語る。では、なぜそうしなかったのか。それには理由がある。
「これまでも勝訴の見込みは『不明』と書いたことはありましたが、特に説明を求められることなく、援助開始決定が出ていました。そもそも、弁護士が受けようと思う事件で『(和解も含めた)勝訴の見込みがないとはいえない』事件などおよそ考えられませんので、この要件はほとんど問題とはならないはずです。また、30万円の被告事件で本人が望んでいるのに民事法律扶助の趣旨(費用対効果)を問題として援助不開始にするというのは余りに非常識です。他の弁護士に聞いても、被告事件で、控訴事件でもないのに、援助自体がないのはかなり珍しいと驚いていました。今回は相手方も法テラスを利用していたと思われます。そのため、予め事件の概要を知っていた。だから勝訴は無理だと判断した可能性があります。でも、そうだとしたら法テラスの仕事を超えています」(橋本弁護士)
何より、「勝訴の見込み」を詳細に書くことは「手の内」を明かすことにもなりかねない。法テラスの援助開始を審査するのは当該弁護士会の所属弁護士。実際に相手方代理人と同じ事務所の弁護士が法テラス青森の役職に就いており、審査業務にも携わっている可能性があった。
「もちろん、常識的に考えれば情報が筒抜けになる可能性はほとんどないとしても、リスク自体は考慮しなくてはならないでしょう。成立の真正に争いのない処分証書があって、勝つのは難しい事件だったので、念には念を入れたかった。青森のように小さな弁護士会では往々にして起こりうる問題です」(橋本弁護士)
実際に橋本弁護士は、代理援助が利用できなかったため、無償でこの依頼者の代理人となり、一審で勝訴判決(原告の請求棄却)を引き出した。二審で逆転敗訴し、上告棄却で確定したものの、要件を満たしていたケースだったことは結果で示した形だ。
しかし、法テラスとの裁判の判決は、一審・二審とも、業務方法書の規定に沿ったもので、判断に誤りはないなどとして、橋本弁護士側の主張を退けた。
「一言でいえば、援助不開始となったのは私の説明不足が原因という内容で、裁判所は積極的に規範を定立し、判断することはしませんでした。ある程度、予想されたことではありますが残念です」(橋本弁護士)
一方で、収穫もあった。控訴審・上告審では他県の弁護士が弁護団を組んで戦ってくれた。法テラスの審査委員経験者も意見書を書いてくれたという。多くの弁護士と問題意識を共有できたことに価値を感じている。
「おかげで今回の法テラス青森の審査の理論的・実務的問題点を余すところなく整理し主張することができました。先々につながってくると思います」(橋本弁護士)
十分なお金がない人でも司法手続きが受けられるようにとつくられた法テラス。一方でそれゆえに報酬の低さや労力の多さ、事務処理の負担などから否定的な意見を持つ弁護士も少なくない。
「商売としてはその通りで、法テラスとは契約しなければ良いという弁護士はたくさんいます。でも、地方で弁護士をやっていれば、資力のない相談者や依頼者もいっぱいいる。そういう人たちのための法テラスだと思っています。少ない報酬でも、法律扶助の必要性に共感する弁護士の善意に支えられている制度なのに、こちらが無理やり事件を回して、法テラスからお金を引っ張ろうとしているかのような審査のされ方をしたのが不本意です」(橋本弁護士)
制度を持続するうえでは、当事者の利用しやすさはもちろん、弁護士などの法律専門家の負担を小さくする必要もある。法テラスの審査をめぐって、橋本弁護士は現在、別事件で争っており、今後も問題提起していく予定だという。
【取材協力弁護士】
橋本 明広(はしもと・あきひろ)弁護士
2008年弁護士登録。弁護士法人やまびこ基金法律事務所(仙台)勤務を経て2010年から十和田ひまわり基金法律事務所所長。2014年弁護士法人青空と大地を設立し代表就任。現在に至る。
事務所名:弁護士法人青空と大地
事務所URL:http://aozora-daichi.com/