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就活ウェブテスト「代行サービス」使った新入社員 懲戒解雇できるのか

2022年10月02日 07:51  弁護士ドットコム

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就職試験の際、一般常識や性格などをみる適性検査。試験会場だけではなく、自宅からオンラインで受験できることもあるため、受験代行を提供する会社まで出てきています。


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代行サービスを利用して、無事に適正試験を突破する人も。ネット上では、代行を利用して入社した後になって「バレたらどうなるか」と不安にかられる社会人たちの姿も見受けられます。



問題は、代行を利用したことがバレた時です。弁護士ドットコムには「就活時の適性検査を代行業者に依頼して入社した新入社員を、学歴詐称で懲戒解雇したい」という相談が寄せられていました。



この相談のように、就活におけるwebテストのような適性検査を不正に受けて入社した社員を、懲戒解雇処分することはできるのでしょうか。中村新弁護士に聞きました。



●学歴詐称となるのか

ーー代行業者の利用は、懲戒処分の理由となるのでしょうか



懲戒処分を行うためには、就業規則の根拠規定が必要となります。就業規則の内容は会社によって異なりますが、経歴等の詐称については、「重要な経歴を偽り採用されたとき(入社したとき)」が懲戒事由として記載されている例が多いです。



申告された経歴は採用の可否を決定する際に重要なファクターとなるので、重要な経歴の詐称は懲戒解雇事由とされている例が大半と思われます。



また、懲戒解雇を含む懲戒処分の規定は、懲戒の対象となる非違行為を列記したうえで、「その他、前各号に準じる程度の不都合な行為があったとき」という文言を付記する形を取っているのが通常です。



懲戒処分の対象となる非違行為を漏れなく記載することは難しいため、厳密に見ると列挙されている非違行為に該当するか微妙であるが、実質的にはそれに相当するという場合にも懲戒処分を可能とするために置かれているものです。



ーー代行業者を利用して不正に受験したことを理由にしたことで、懲戒処分は可能なのでしょうか



就活時のwebテストを代行業者に依頼すること(替え玉受験をすること)が懲戒事由である「重要な経歴の詐称」に該当するか否かが問題となります。



webテストの成績も志願者が入社選考の際に企業に示す属性の一部であることは疑えず、テストの成績が入社選考で参照されていることも間違いないところなので、「重要な経歴の詐称」に該当すると考えることは十分可能と思います。



また、仮に「重要な経歴の詐称」そのものには該当しないとしても、それに準じる程度の不都合な行為があったときに該当するとして、懲戒処分の対象とされる可能性が高いと思われます。



Webテストは足切り、あるいは参考程度に用いる程度のものであり、その他の面接試験等は実力で突破したのだから懲戒処分、特に懲戒解雇まで行うのは行き過ぎではないかという意見もあるでしょう。



しかし、入社選考に当たり不正な手段を用いることは、志願者の規範意識や倫理観の欠如を如実に示す行為です。このような不正を入社試験ではたらいた従業員が懲戒処分の対象とされることはやむを得ないでしょう。



ーー懲戒処分が妥当だとして、解雇も含む重い処分とすることもできるのでしょうか



「重要な経歴の詐称」が懲戒解雇事由とされているのであれば、懲戒解雇にまで至っても、その効力を争うことは難しいと思われます。



懲戒解雇の有効性は厳しく判断される傾向にあり、表面的に懲戒解雇事由に該当する場合にも懲戒解雇は無効とされることは珍しくありません。



しかし犯罪行為や重大な不正行為については、懲戒解雇もやむなしとして有効と判断される例が多いです。



仮に足切り、あるいは参考程度のテストであったとしても、替え玉受験は重大な不正行為なので、替え玉受験を理由として懲戒解雇された労働者には、裁判所も厳しい判断を下すと予想されます。



もっとも、懲戒解雇の規程には、「情状により処分を軽減することができる」という文言も付されている場合も多いので、会社の裁量により、一段軽い諭旨解雇(一定期間内に退職届を提出することを促し、提出されれば自主退職扱い、されなければ懲戒解雇とするという処分)などにとどめられる可能性もあります。



なお、懲戒事由が「重要な経歴を偽り、その他不正な手段を用いて採用されたとき」と詳細に定められている場合には、替え玉受験が懲戒事由に該当することについて争う余地はなくなります。




【取材協力弁護士】
中村 新(なかむら・あらた)弁護士
2003年、弁護士登録(東京弁護士会)。現在、東京弁護士会労働法制特別委員会委員、2021年9月まで東京労働局あっせん委員。労働法規・労務管理に関する使用者側へのアドバイス(労働紛争の事前予防)に注力している。遺産相続・企業の倒産処理(破産管財を含む)などにも力を入れている。
事務所名:銀座南法律事務所
事務所URL:http://nakamura-law.net/