しっかりと仕事をこなしているのに、仕事内容を理解できない他人から「サボって遊んでいる」と言われたらたまらない。ましてや、それが自分の「上司」だったら……。とある企業でシステム管理の仕事をしていた30代の男性から、「転職待ったなし」の強烈な体験談が、キャリコネニュース編集部に届いた。いったい何が起きたのか、詳しく話を聞かせてもらった。(取材・文:昼間たかし)
「部員全員の意見です」ミーティングと称したつるし上げ
前職で総務部に所属し、システム管理担当だった男性は、サーバー室で点検作業を行うことが多かった。仕事内容からして当然……なのだが、これを理解できない上司の女性課長が「冷房ついた部屋でパソコンさわって遊んでる!」と言いがかりをつけてきたのだという。
たちの悪いことにこの課長、社内では「優秀な人」としてみなされていて、女性として初めて課長に抜擢されたレベルの「逸材」だった。
ところが部下視点でみてみると、これがまあ、ひどい。男性はこの上司について「出世のための立ち回りや上役への対応は完璧だったので”無能”ではないと思います。自分の評価に対する根回しなどは完璧でした」と評価する。
一方で、この上司はシステム管理という仕事への理解が決定的に欠けていたようだ。
「要するに、システム管理の業務を全否定するぐらい無知な人だったのです。上司からすれば、私は『日々パソコンに向かって遊んでいるだけ』の人。私について『根回しもしないのに、うまく立ち回っている』と苛ついていたとも、人づてに聞いたことあります。システム管理の業務については、理解不足どころか『理解したくない』『そもそも仕事として認めたくない』というのが、本心だったのではと思います」
ここまで来るとシステム管理の担当者にとっては、地雷を超えて怨霊レベルだろう。
それでも仕事をこなしていた男性だが、ついに転職することに。そのきっかけは、こんなメールが送られてきたことだった。
大型連休前の朝、上司から届いたメールのタイトルは「部員全員の意見です」。
そこにはWord4枚分の添付文書が付いていて、「男性のいたらない部分と直してほしいところ」がつらつらと列挙されていた。そして、「夕方にミーティングルームを用意しているから部員と打ち合わせをしましょう」と書いてあったそうだ。
いや、「打ち合わせ」というか、それっておそらく「吊し上げ」ですよね?
男性はこう振り返る。
「もちろんミーティングはサンドバッグ。連休は地獄でした。それで、現職を決める前に妻に相談し、転職の準備をすすめました。転職先が決まったのは退職決定後です」
仕事の引き継ぎもスムーズにはいかず、その間も課長の嫌がらせは継続。ようやく後任者がやってきたのは退職15日前。経験者だったので、すぐに悲惨な状況を理解し「この仕事量で遊んでいるって……大阪や東京だったら50~60万もらっても安いくらい……あの課長ヤバいですね」とこぼしていたという。
そりゃあ、破綻しますよね。
この上司、出勤最終日に「1カ月後と3カ月後と半年後に連絡するね!!困ったことあったら聞くかも」と告げてきたという。このあたり上司の「無理解」と「自信のなさ」が表れた発言と言えそうだ。
噴飯ものの発言ではあるのだが、退職が決まっていることもあり、冷静に受け止められたのだろう。男性は「完全に連絡手段を断つよりも、沈みゆく総務部の状況と課長の強がりの乖離を楽しみたいのもありましたから」と語る。
結局、後任者も3カ月で退職。さらにその後は他部署から一般事務職の若い社員を連れてきて業務の片手間でやらせていたというから、推して知るべしである。
想像通り「助けてコール」がかかってきたのは一年後。くだんの課長が猫なで声で泣きついてきたのだという。
「突然基幹システムがダウンして、様子を見に行ったら、どこかわからない所からピーピー音がなって赤いランプがついてる。後釜のシス管も引き継ぎの時に一回見たきりでわからない。しかも私の残したマニュアルは文書はもちろん、データファイルも紛失した」
「ベンダーに頼むと出張費や修理費で諸々3桁行くかもしれないから、あなたに今からバイトで来てほしい! 3万出す! もちろん修理部品は電気屋に売ってるよね! そのお金はだすよ! 今から来られる?」
夜10時にこんな連絡をしてくるのだから、よほど困っていたのだろう。男性は満面の笑みでこう言い返したそうだ。
「冷房のついた部屋で遊んでいた私には判りかねます。誰にでもできる簡単な仕事でしたよね、課長ご自身で何とかなさってください。あと、職務規定で副業は禁止されてるので。では!」
課長の「帝国」は続く
こうして溜飲を下げた男性だが、現場の人たちが困っているだろうと、仲良くしていた社員にこっそり連絡して、対処法を教えてあげたそうだ。
「結局、原因はHDD2本が壊れていたのと停電後の復電時にエアコンが故障してたことが重なっていたみたいです。HDDの故障は毎日リモートで確認してたんじゃないかと思って現在のシス管の子に聞くと、課長から遊んでいると注意され怖くて見てなかった……と」
ちなみに男性の残したはずの引き継ぎマニュアルは、課長が「遊びのマニュアルなんていらないでしょ!」と処分していたということだ。何から何まで課長の自爆である。
結局、このトラブルの3カ月後には、総務部の古株が全員転職。男性を「ミーティング」でつるし上げた社員たちも転職していったという。
そんな有様でも、まだ課長は首になっていないというから、問題は根深い。
「今はなにも知らない新卒と第二新卒、他部署のパソコンに明るくない社員を無理やり引き抜いて帝国をつくっているそうです。大規模システムの入れ替え前にもベンダーに虚勢を張って、他社の存在をほのめかして、半値とか八掛けを要求して愛想をつかされていると聞きました」
男性によれば、課長の無体な振る舞いは肩書きがついてから。以前を知る社員からは「肩書がついた途端にここまで変わるとは……」と囁かれていたという。
結局は、こういう人に役職を与えてしまった「上の人たち」の見る目がなかったということだろう。その尻拭いをさせられている現場の人たちが気の毒で仕方ない。