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知らない間に「振り込め詐欺の受け子」になって逮捕されてしまった…SNSに潜むワナ、どうやって防ぐ?

2022年10月01日 07:31  弁護士ドットコム

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知らない間に振り込め詐欺に巻き込まれ、逮捕されてしまった…。


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そんな恐ろしい話がツイッターで話題になっています。あるユーザーが「ツレ(友人)の息子」の話として、紹介した話です。



https://twitter.com/oogakesanmelon/status/1571710780202164224







息子さんはツイッターで、お金が当たるという企画に応募して、2万円「当選」しました。お金を振り込んでもらうために、口座番号を教えました。その後、口座には200万円が振り込まれ、間違って振り込んだといって返金を求められました。



息子さんは現金200万円を持って待ち合わせ場所に行き、返金したところ、お礼として10万円を受け取りました。その後、息子さんは振り込め詐欺の「受け子」の容疑で逮捕されたとのことです。息子さんは否認しています。



知らない間に振り込め詐欺の受け子にされてしまった場合、それでも罪に問われるのでしょうか。また、未然に防ぐことは可能なのでしょうか。鐘ケ江啓司弁護士に聞きました。



●「受け子」に利用されたとしても実刑ありえる

——本人が詐欺に関与しているという認識がない場合でも、「受け子」に利用されてしまったら、何らかの罪に問われるのでしょうか。



ツイッターに投稿された事実関係を前提に回答いたします。



本人に詐欺に関与しているという認識がなければ、「理論的には」無罪となります。ただ、「理論的には」そうであっても、だから大丈夫だとはいえません。



詐欺に関与しているという認識については、他の犯罪行為ではなく詐欺という犯罪行為に加担していることの認識が必要ですが、被害者が具体的にどのようにだまされていたかまでの認識は必要としません。



また、確定的な認識まで必要ではなく、被害者から現金をだまし取るという犯罪に加担している「かもしれない」という未必的な認識で足りるとされています(注)。



実務的には、この「未必の故意」というのが容易に認定され、弁護人から見ると「結果責任ではないか」と思える事案もあります。今回のケースでも、詐欺の共同正犯とされる危険性はありますし、前科がなくてもいきなり実刑ということもありえます。



●万が一、警察に逮捕されたら「黙秘」を

——では、こうした犯罪に巻き込まれないために、どのようなことに注意すればよいのでしょうか?



難しい質問です。今回の手法自体は、ヤミ金業者が、口座凍結を防ぐために、ヤミ金に対する債務者の返済金を、借金を申し込んだ他の債務者の口座に振り込ませる手法(「客振り」)と類似しています。しかし、私自身も初めて聞く手口です。



後知恵でいえば、200万円の返金について、銀行窓口で「組み戻し」手続を取れば良かったということになるでしょうが、詐欺の首謀者がそれを阻止するような言い訳を述べていた可能性もあります(たとえば、「組み戻し手続をすると着金まで時間がかかる。すぐ返してもらわないと他の人に配れない」)。



検索すれば出てきますが、実際に銀行の公式ホームページなどで組み戻しには時間がかかると記載されています。



そもそも、お金を配るという話に応募するべきではない、口座を教えるべきではない、などともいえるのでしょうが、実際にお金を配っている有名人がいる中で、そういうアドバイスをしても心に響かないように思います。とにかく現金が必要という人は多数いるわけで、困っている人の心理につけ込んだ悪質な手法です。



後知恵では、「ああすれば良かった」「こうすれば良かった」などということはいえるでしょうが…あえていうのであれば、真面目に生活していても、「いつでも犯罪の被害者にも、加害者にもなり得る」ということを意識しておくこと、さまざまな犯罪の手口についてニュースで触れておくことが必要だと思います。今回は詐欺のケースですが、旅行者が違法薬物の運び屋にされるような事案もあります。



そして、仮に警察に逮捕されるようなことがあれば、すぐに当番弁護士を呼び、弁護士に会うまでは黙秘することです。黙秘に理由は要りませんが、「ネットニュースで、弁護士さんが『逮捕されたときは、当番弁護士に面会するまでは黙秘しなさい』と言っていました」と言うのも良いと思います。



逮捕されると、凄く不安になりますし、「警察に事情を話せば分かってもらえるんじゃないか」と思うものですが…残念ながらその期待は裏切られると思ったほうが無難です。真意と異なる調書が作成されてしまうということはよく聞く話です。



(注)高橋康明「44詐欺罪における故意一特殊詐欺の受け子○東京高判平27・ 1 ・30高検速報集平27・57」植村立郎編『刑事事実認定重要判決50選(下)《第3版》』(立花書房、2020年3月)




【取材協力弁護士】
鐘ケ江 啓司(かねがえ・けいじ)弁護士
刑事弁護、中小企業法務(労働問題、知的財産権問題、契約トラブル等)、交通事故、借地借家、相続・遺言、後見、離婚、犯罪被害者支援、等々幅広い事件を取り扱っている。執務のかたわら、条例による盗撮規制の研究をしており、全国47都道府県の警察本部が作成した迷惑行為防止条例の逐条解説を保有している。
事務所名:薬院法律事務所
事務所URL:http://yakuin-lawoffice.com/