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心理占星術研究家 鏡リュウジ×料理研究家リュウジ 特別対談 「ホモサピエンスは占いをして料理をする動物」

2022年09月30日 17:21  リアルサウンド

リアルサウンド

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「本当の自分とは? 自分の運命とは?」


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 どんなにテクノロジーや科学が発達しても、自らの存在意義や不確かな未来を知りたいと思う欲望から人類が解放されることはないーー。21世紀がスタートして20年経つ現在も、我々は「占い」に惹かれ、そして興じている。


 9月26日、英国でロングセラーとなっている名著『月と太陽でわかる性格事典』が、およそ20年ぶりに増補改訂版として再び日本で出版された。著者は英国の占星術界で最高峰の権威であるチャールズ&スージー・ハーヴェイ夫妻。月の12星座と太陽の12星座、即ち12×12=144通りの性格分析で、世界中の読者に自分自身を深く知るヒントを示した1冊だ。


 待望の再販にあたって監修を務めたのは、約20年前の邦訳と同じく心理占星術研究家の鏡リュウジ。本書はなぜ時代を超えて読み継がれているのか。そして占いとの正しい向き合い方とは。


 リアルサウンド ブックでは、著者の希望により料理家/YouTuberのリュウジとの対談を実現。意外に思える組み合わせだが、もともと彼らには親交があるのだという。占いと料理ーー異なる領域を探求しながら、同じ名を持つ、不思議な関係の両者によるスペシャル対談をお届けする。(小池直也/メイン写真:左、鏡リュウジ。右、リュウジ)


■ふたりの出会いはTwitterで


――おふたりは以前から親交があったそうですが、知り合ったきっかけは何だったのでしょう?


鏡:Twitterですね。同じカタカナのリュウジなので、よく間違えられていたのがきっかけです。


リュウジ:今も間違えられます。鏡さんが料理をしていると思っている方もいて(笑)。


鏡:カタカナの“リュウジ”を見ると、一定の年齢層以上の人は僕だと思ってしまうみたいですね。エゴサーチをする中で、たまたまリュウジさんを発見しました。それから占いメディア「ザッパラス」のイベントに参加してほしいと、僕からDMさせてもらったんです。


リュウジ:そうでしたね。料理家として活動する上での名前を考えていた時に、本名の竜士だと字面がいかついなと思ったんです。悩んでいたら友達から「占い師の鏡リュウジって知ってる? 覚えやすいから“リュウジ”にしなよ」とアドバイスをもらって、この名前になりました。


鏡:僕の本名は服部彰浩なので筆名とは全然違うんですけれど、語感が好きで30年以上この名前を使っています。まさに“リュウジ”は漢字にすると、どうしてもVシネマの俳優みたいになってしまう(笑)。


リュウジ:そう! 任侠っぽくなるんですよ。


鏡:僕も表記はかなり迷ったんですけれど、原稿の締切もあったので、仕方なくカタカナで出したんです。でもこれが結果的に正解で、雑誌の中吊り広告とかで見た時に言葉より字面で人々に覚えていただけたなと。


リュウジ:僕のなかで“リュウジ”は鏡さんですから。鏡さんがカタカナで名乗っていなければ、いまの僕は存在していないかもしれません。


■この本には自分のことが書かれている


ーーおふたりは出会うべくして出会ったのですね。さて『月と太陽でわかる性格事典』は1994年に出版され、2003年に邦訳として日本で発売されています。占い本の名著と評されている一冊ですが、鏡さんにとってはどんな本ですか。


鏡:思い入れのある本のひとつです。昔は占星術の情報が日本で手に入りにくく、大学時代からイギリスの占星術協会に通っていました。当時の会長が本の著者である故チャールズ・ハーヴェイ先生でした。素晴らしい英国紳士でインテリジェントな学者です。この業界はとくに口さがないのですが(笑)、チャールズ先生を悪く言う人はただの一人も見たことがありません。身を削って占星術に尽くされた方だと思います。英国占星術協会では優れた占星術家に授与する賞を設けているのですが、その名前を「チャールズ・ハーヴェイ賞」として、氏の功績を残しています。ただ、業界のためにエネルギーを削がれていたせいか、主著と呼べる本がないし大学での職もなかった。この『月と太陽でわかる性格事典』は先生の業績の中ではポップなものですが、先生の著書を何とか出版したいなと思いまして、2003年に邦訳したところ、それなりに売れて評価もしていただきました。でもしばらくして品切れになり、版元の都合もあって宙に浮いていたのですが、辰巳出版からお声がけいただき、20年越しの増補改訂版として出版できることになりました。


――「増補改訂版」でグレードアップしたのはどの部分でしょうか。


鏡:周期表や言葉遣い、ジェンダーに関する解説、著名人の入れ替えが主なアップデートです。それから原著にないキャッチフレーズは僕が付けました。これがあるとすぐに理解できてキャッチーになるかなと。とはいえ内容は、ほぼ変わっていません。それだけ普遍性のある内容なんです。


――月星座の概念があることで、いわゆる12パターンの星座占いとは解像度が各段に違います。これについて改めて解説していただきたいです。


リュウジ:僕も星座に太陽以外のものがあるとは知りませんでした。


鏡:多くの人が知っている自分の星座は、生まれた時の太陽の位置を元にしているんです。でも詳細に見るには太陽のほかに金星、火星など十数個の天体の位置を調べるのが正式。とくに月は欠かせません。ただ。誕生日だけでわかる太陽星座に比べ、月星座が広まらなかった理由はその詳細さ故でしょう。でも今になって、女性たちの間で広まってきています。増補版では周期表にページを割きましたが、かなりの分量になるので、女性誌連載だとこんなの掲載不可能です(笑)。今ではネットで調べられるので載せるか迷いましたが、本だからできることだと考えて収録することに決めました。


リュウジ:だからこの対談の前に、僕の生まれた時間を聞かれたんですね。この本が一冊あれば完結できるので、個人的には入れてくれてよかったです。


鏡:太陽は意識的に生きている自分で、月は本能的であったり酔っぱらっている時の自分みたいな側面なんです。公と私の両面のコントラストが書いてあるので面白いんですよね。人間というのは色々な側面があって、そもそも矛盾した存在なんです。


 本来の詳細なホロスコープの判断を本でやるのは難しいですが、月星座を桑田だけで、太陽だけの星座占いより12倍詳しく診断できるんです。この『月と太陽でわかる性格事典』は本当によくできていて、イギリスのプロ占星術師も密かにカンニングぺーパーとして使っていた本なんです(笑)。


――それほど当時としては画期的な本だったと。


鏡:とはいえ太陽と月の組み合わせを見る方法は100年くらいの伝統があります。尊敬されているチャールズ&スージー・ハーヴェイ夫妻が難しい内容でなく、ポップな本を作ったということが革新的だったんです。だからこそ、プロたちも夢中になりました。


リュウジ:最初は難しい本なのかなと思ったのですが、これは面白いです。友達と飲みながら話す時とかに盛り上がりそうですね。


鏡:その場で占えるから、話のネタになる本ですね。20年前に出た時も色々なバーに「話題に困ったらこれを」と置いてきてました(笑)。


リュウジ:僕自身は本を全然読まないんです。人生で読破したのは、読書感想文で取り上げたヴィクトル・ユーゴー『ああ無常(レ・ミゼラブル)』と片山恭一『世界の中心で、愛をさけぶ』、乾くるみ『イニシエーション・ラブ』くらいで(笑)。でも、この本には自分のことが書かれているから、つい読んでしまいます。


■料理研究家・リュウジは「革新的な現実主義者」


――では、実際にリュウジさんの星座の組み合わせを見ていきたいと思います。鏡さん、いかがでしょうか。


鏡:リュウジさんは太陽が牡牛座で月が水瓶座なので「革新的な現実主義者」です。ピッタリじゃないですか?


リュウジ:長所は「自信がある」、「独立心が強い」、「正直」とありますね。まさにその通りです(笑)。


鏡:最大の短所は「頑固で物事が思い通りにならないと無気力になる傾向がある」、「その瞬間に身を委ね、物事をなすことを嫌う」、「うぬぼれてるという印象を与えるほど自信過剰」。


リュウジ:これは完全に僕ですね(笑)。実は、僕は自分以上の現実主義者はいないと思っているほどのリアリストなんです。夢を追う人には「人の気持ちがわからないのか?」とよく言われます。そこに「理想はそうだけど、現実にどうするの?」と畳み掛けてしまうので、変な空気になるんです。


鏡:わかります(笑)。牡牛座は食と、水瓶座がテクノロジーと関連が深いんですよ。だから太陽が牡牛座で月が水瓶座というのはリュウジさんにぴったり。


――的中するところが多いですね。ちなみに、鏡さんにとってのチャールズ・ハーヴェイ先生のような感じで、リュウジさんにとって師匠筋にあたる方はいらっしゃいますか。


リュウジ:尊敬する人は少ないですが、世の中について教わった方はふたりいます。ひとりは叔父。頑固な人なんですけど、彼から世の中での生き方や義理人情を教わりました。あとはホテルマン時代に知り合った、バー経営もする革新的な方がいて、彼からはお酒の飲み方や人間的な面白み、コミュニケーションの仕方を教わりました。今の僕を構築してくれた方々ですね。


――料理を教わった方はいるのでしょうか?


リュウジ:料理の師匠はさまざまな人々です。例えばカレーはインド発祥というのは有名ですが、僕らが普段「カレー」と呼ぶ食べ物はイギリス生まれなんです。つまり、イギリスを経由して日本に伝えた人がいて、はじめて僕らはカレーを知ることができた。そういう風に捉えているので、今まで食べてきた料理のすべてが先生だと思っています。


 今でも僕以外の人のレシピや動画を見たり、食べに行って着想を得るようにしています。今日は鏡さんと一緒にランチをいただいたのですが、そのときも「このメンチカツ、どうやって作ってるんだろう?」と考えていました。「胃がもたれないけど何の油だろう?」などと考えながら、また自分で実践して新しいものを発想したり。でもそれは完全に新しいことではなくて、誰かがやっていることの組み合わせなんですよね。


 料理は基本的にそういうもので、もう何年も完全に新しいものは生み出されていません。だから料理に著作権とかはないんです。みんなが更新していけるようになっている。色々と組み合わせて更新していくという意味では音楽にも近いと思うんですが、音楽には著作権があって、そこが大きな違いだと思います。もしも料理に著作権があったら、お店でカルボナーラを販売できなくなってしまいますから。自由に何かを真似て自分の要素を入れていけるのが、料理の面白いところです。


鏡:文化ですよね。どこかから伝わって混ざったり、ときにはミスコピーがあったりしながら発展していく。それにしても面白いのは「決まった先生がいない」と言いつつも「リスペクトする」姿勢を持っているところ。縦関係ではなく、横のネットワークで考えるのはみずがめ座の特徴なんですよ。


リュウジ:そうですね、関係はフラットじゃないとダメなタイプです(笑)。上に立たれたり、下に立たれたりするとやりづらいんですよ。フラットに接することができる人じゃないと、一緒に仕事をしたくないです。


鏡:水瓶座はロジックで考えますが、実際に食べに行ったりするのは牡牛座らしい特徴です。その感覚をもとに水瓶座的な感覚で思考していくので、虹を単に美しいものとしてではなく、太陽光の分光であるとして論理的に考えつつも、冷静に処理せず「このように構築されるなんてすごい!」と考えられるタイプ。


リュウジ:まさに僕ですよ(笑)。星座でそこまでわかるとは、驚きです!


■占いはなぜ普遍的に求められるのか?


――先ほどレシピのルーツの話題になりましたが、長い歴史を持つ星占いが、テクノロジーや文明が発達した現代でも人々に求められるというのがすごいと思います。


鏡:占星術はもともと、古代バビロニアの星の神様への信仰として始まりました。今は金星をヴィーナス、木星をジュピターと呼びますが、バビロニアでは金星を女神イシュタル、木星を主神マルドゥクと呼んでいたのがその起源です。今なお色々なところにその痕跡は残っているんです。


リュウジ:僕の好きなゲーム『女神転生』に出てきました(笑)。


鏡:星の配置が神からのメッセージとされていたので、日食が起きたり火星が目立った動きを見せたときには畏れた神官たちがさまざまな儀式をしていたんでしょう。それから段々と規則性や法則性が見出されて、ギリシャの数学や自然学と結び付きました。現在の科学的な思考の基盤と、星の宗教的な考えが混ざっているところが占星術の興味深いところです。今では天文学者として知られるガリレオ・ガリレイやヨハネス・ケプラーも、実はれっきとした占星術師だったんです。技法は時代とともに変わっています。でも、もともとは「星の動きと人間の性質には何かしらの関連があるはずだ」という直感が基にあったのではないでしょうか。だからこそ、今でも多くの日本人が「なんだかわからないけれど、当たりそうな気がする」と考えているのだと思います。


 「世界は“兆し”に満ちている」という考え方は、人間の深い部分にあると思うんです。先日エリザベス女王のお葬式で虹が出たというニュースがありましたが、あれもサイエンスに即せば意味なんてないはず。でも、そこに意味をこじつけるのが我々人間の性なんです。


――コロナ禍を経て、リモートワークやステイホームなどで人々の環境が変わり、占いと料理も発信の方法や内容が変わってきたと思います。それについて思うことなどはありますか?


リュウジ:僕自身はレシピ本やネットの記事を見て料理を覚えたので、なぜみんなが動画を見てくれるのか、実は理解できていないところがあります(笑)。最初はTwitterやInstagramで発信していたのですが、気がつけばYouTubeの方が人気になっていました。おそらくそれは、ステイホームで動画を見る時間が増えたというのもあると思いますが、大きくはネット環境の変化が関係しているのかなと。回線が4Gになって、動画の方が情報を得やすくなっていった。近い将来、5Gが当たり前になったら、僕がレシピ本以外の本が読めないように、静止画を観ていられないという人が現れるかもしれません。


 僕はこんなにYouTubeで動画を出していますが、レシピ本の文化が失われてほしくないので、いまも出版し続けています。ページをパッと開いて、そのまま調理の参考にできるのがレシピ本のいいところです。料理を作るペースは人それぞれですし、動画のスピードに追い付けなかったりするじゃないですか。だから、動画で細かいところを一度見て、2回目以降は本を読んで自分のものにしていくという感じで、どちらも楽しんでいただけると嬉しいですね。


鏡:なるほど。占星術でいえば、コロナ禍でタロットカードの売上が倍増しました。世界的に売れているみたいなんですよ。ただ多くの人に「不安な時代だから占いが人気なんですね」と言われますが、この業界に何十年もいて「こんな時代だから占いが人気なんですね」と言われなかった年はありません。つまり、いつの時代も占いは求められ続けてきたんです。


 70年代はオイルショックとオカルトブームがありましたし、高度成長期が終わってからは「こんな時代だから占いが人気」と言われました。80年代半ばからはバブルで心理テストが流行ったり、臨床心理学の人気で「心の時代」とされて「物質的に満たされたから目に見えない世界にみんな関心があるんですね」と言われました。バブルが崩壊し、オウム事件が起きても「こんな時代だから占いが人気なんですね」と、ずっと言われ続けてきたんです。そういう意味では料理と同じで、スタイルや表現が変わりつつも、人間社会におけるインフラのようなものとして存在し続けてきたのが、占いなんだと思います。


リュウジ:確かに。料理と同じで「常にそこにあるもの」なんでしょうね。


鏡:僕がいつも言うのは「ホモサピエンスは占いをする動物」だということ。過去と現在、未来と長いスパンの時系列で考えるのは人間ならではの思考で、そういう思考を持ったときに自動的に生まれたのが占いなんだと思います。加えて人間は「料理する動物」でもありますよね。調理によって消化吸収の時間が節約されたことが、結果として文化を発達させたという説もありますから。


――占いも料理も、普遍的な人の営みなんですね。では最後に対談を踏まえて、リュウジさんの著書『リュウジ式至高のレシピ 人生でいちばん美味しい! 基本の料理100』から、鏡さんへのおすすめのレシピをお願いします。


リュウジ:鏡さんも割と料理されますから、どうしようかな。


鏡:レシピに忠実ではなく、少しアレンジしてしまうんですよ。


リュウジ:プロの方はアレンジを嫌がりますが、僕のレシピ本はむしろそういう使い方をしてほしいです。


鏡:年齢的には味を薄め、野菜多めにしたいというのはありますね(笑)。


リュウジ:では「至高のコールスロー」がおすすめです。味の濃さは塩で調整していただければ大丈夫かと。


鏡:コーンは入れなくも大丈夫? 苦手なんですよ(笑)。


リュウジ:大丈夫です(笑)。ニンジン多めにしてください。