トップへ

AV業界30年・桜井ちんたろうが男優団体を立ち上げた理由、「新法」に思うこと

2022年09月30日 14:11  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

アダルトビデオ業界ではたらくAV男優たちをまとめ、業界全体が発展していくように目指す団体「日本適正男優連盟」が今年9月1日に発足した。発起人は、AV男優歴「約30年」の桜井ちんたろうさん。


【関連記事:「殺人以外なんでもされた」元AV女優・麻生希さん「自己責任論」めぐり激論】



業界内で、これまで男優だけ統一団体がなかったが、いわゆる「AV新法」の影響を受けて激変する中で「死活問題」も発生しているという。それでも違法動画に流れず、正規審査を経た「適正AV」の枠組みの中で、困難を乗り越えようとしている。



桜井さんに団体を立ち上げた経緯や、業界内の課題を聞いた。



●「1カ月前契約ルールを修正してほしい」

――どうして立ち上げることにしたのか?



男優だけ団体がなかったので、ちゃんと作らないといけないと数年前から危機感を抱いていたところ、AV新法の影響で仕事に差し支えも出てきたので、あらためて「力を合わせて、この難局を乗り切ろう」ということで立ち上げました。



――新法の影響とは?



たとえば、出演者の1人が撮影直前にコロナに罹ったとします。これまでなら、差し替えできました。ところが、新法の「1カ月前契約ルール」(契約から撮影まで1カ月の期間を設ける)によって、その日の現場がまるっとなくなってしまうようになったんです。



男優1人あたり月5、6現場くらいはなくなっていると思います。もはや死活問題ですよ。実際に「家賃も払えない」とか、そういう人たちが出てきています。せっかく出演者を守ってくれる法律ができたのに、みんなが野垂れ死ぬのはおかしいです。



――新法は廃止すべきか?



私の考えは廃止ではなく、「1カ月前契約ルール」を修正するというものです。基本的には「1カ月前契約」でいいし、「発売まで4カ月」でかまいません。大手メーカーの場合、これまでも撮影から発売まで3カ月はかかっていましたからね。



だから発売まで1カ月延びるだけの話です。いったんサイクルに入ってしまえば、どうにかなっちゃうんですよ。そのサイクルを作るまでの半年くらい、ちょっと大変かもしれないですけど、どうにかなると思っています。



しかし、一番の問題は、現場がなくなってしまうことです。だから、「1カ月前契約ルール」について、特例措置というかたちで「代わりの人を入れてもよい」という例外を設けてもらえれば、みんな仕事ができるようになり、生活も良くなると思います。



●「きちんと法律を守る業界なんだというのを徹底したい」

――団体には何人が入っている?



現在20人くらいです。はじめから組織が大きすぎると、いろんな問題を起こす人も入ってきますし、身体検査もちゃんとできません。今後、半年くらいかけて、400人くらいまでもっていければと思っています。



――そもそも男優同士の横の繋がりはなかった?



個人的に仲の良い人はいるんですが、全体的には、横の繋がりを嫌う人たちが多い印象です。商売敵ではないですが、「個人業」という独立精神を強く持っている人たちです。今回はもうそんなこと言ってる場合じゃないと思っています。



――団体にはルールがある?



一般社会では当たり前のようなルールなんですが、自分自身が反社でないこと、反社とは付き合わないことです。さらに違法薬物に手を出さないこと。「適正」ではない違法作品・同人作品に出演しないこと。



あと、私たちの業界ならではなんですが、性病検査を月1回必ず受けること。その検査結果を偽造しないことです。これらのルールに反した場合、ものによっては、違反金を払ってもらったり、退会してもらう罰則を設けています。これくらいの気概がないとダメです。



――反社に付き合っていたり、違法薬物に手を出している人はいるの?



かつて見聞きしました。団体のルールによって、そういう人たちをあぶり出して、業界から抜けてもらいます。きちんと法律を守る業界なんだというのを徹底して、少しでも世の中に認めてもらうことが必要になってきているからです。



●「適正で線を引く必要があった」

――適正ではない業者についてはどう思うか?



適正ではない個人・メーカーの中には、出演者と契約書など結ばず、「とりあえず今日来てよ」とツイッターなんかで連絡して、撮影に持ち込むところもあります。そういう人たちと一緒にやっていくのは、さすがにまずいと思っています。



もちろん適正外で、きっちり法律を守っている人がいるのも、重々承知していますが、「こことここはいいよ」みたいになってしまうと、どこで線を引けばいいのかという問題が出てくるから、やはり「適正」で線引が必要だったんです。



――AV人権倫理機構との関係は?



人権倫の弁護士の先生たちは、ときに業界に対して厳しい意見をぶつけてきます。でも、それを守ることで、私たちの業界が守られるのであれば、それは甘んじて受けるしかないと思っています。なんでもかんでも、昔のやり方でやってたら、やはり違法だからです。



――どういう部分が違法なの?



昔は、スカウトが半分だまして、女の子を連れてきたという話はよくありました。撮影に関しても、「今日はまだ元気だね。もう1回やっちゃおうか」というノリもありました。今から考えれば、契約に書かれていないことをやるというのは、やはり違法だと思うんです。



●AV男優の仕事の醍醐味は「演じること」

――AV新法ができてよかったことは?



昔は、ほとんどの男優は契約書すら結んでいませんでした。電話で「何日空いてますか」「空いてます」「じゃあ、お願いします」だけ。口約束です。人権倫発足後(2017年)は、契約書を当日現場で渡されて「書いといてください」というふうになりました。



それもごく一部のメーカーだったんですが、新法によって、きちんと契約書が意識されるようになりました。一方で、30ページくらいある契約書を渡されて、全部読んで説明してというのも極端だとは思っています。



ただ、これも、もともとやっていなかったことがおかしいと考えるならば、しょうがないですよ。いずれ契約書についても簡易化していくと思いますし、デビューする女の子と、何本も出演しているベテランでは違いが生まれると思います。



――業界の課題はある?



新法ができても、まだ中途半端なところはたくさん残っています。今回、良い機会だと捉えて、きちんと真摯に受け入れて、少しずつでも直していかなきゃいけない部分はあるとは思います。



――ちなみに男優のギャラはどうなっている?



男優に関していえば、30年前のギャラ+1万円くらいに底上げされています。ただ、30年で1万円しか上がっていないと考えると全然よくないですね。それでも月50万~100万円くらい稼いでるでしょうから、食べてはいけています。



――最後に仕事の醍醐味は?



若い人たちは、単純に「いい女とやれるから」とか、そういう性的な部分なのかもしれませんが、私の場合、やはり「演じること」です。作品を見た人から「あれは良かった」とか言われるとうれしいし、逆に批判されたときは「直さなきゃ」と励みになっています。



昔は、ピンク映画出身で、いろいろなドラマに出演するようになった俳優がいました。夢ではあるけれど、将来的には、セカンドキャリアの一つとして、男優もテレビに出られるようになっていく道筋をつくれたらと思っています。



(※)AV新法・・・(1)性行為の強要禁止、(2)事業者に詳細な説明と契約交付を義務付ける、(3)撮影は契約から1カ月、公表は撮影終了から4カ月の期間をおく(4)公表から1年間(施行から2年間は2年間)、無条件で解除可能ーーなど。