2022年09月29日 10:01 弁護士ドットコム
北海道森町の宿泊施設で開かれたモータースポーツの体験イベントで、女児(11)が運転するレーシングカートがコースを外れて見物客等がいる場所に突っ込み、男児(2)が死亡する事故が起きた。
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報道によると、事故は9月18日昼、自動車販売店が主催するイベントで発生。女児は事前に講習を受け、身長140センチメートル以上が対象の大人用のカートを1人で運転していた。制限時間を終えて、右に曲がりピットレーンに入るはずだったが、アクセルを踏み込んだまま直進し、コースを逸脱したという。
コースの一部には頑丈なプラスチック製のブロックが置かれていたが、見物客等がいる場所の前には三角コーンやポールしかなかった。事故が起きたカートコーナーは、千歳市内にあるレンタルカート施設が運営していたという。
この事故で、男児が意識不明の状態となり、翌日死亡が確認されたほか、4歳の男児2人が軽傷を負った。女児にけがはなかった。
イベントで使用されていたカートは、遊園地などで使用されている「ゴーカート」より速いスピードがでる「レーシングカート」と呼ばれるタイプで、「排気量200cc」のものだったようだ。
警察は事故の状況と安全管理体制などを捜査しているようだが、死亡事故の法的責任はどうなるのか。澤井康生弁護士に聞いた。
——誰がどのような法的責任を負うことになるのでしょうか。
まず、民事責任についてです。
運転していた女児には不法行為責任の成立が問題となりますが、未成年者の場合、責任能力を具備していない場合、不法行為責任を問えないと規定されています(民法712条)。
一般的に責任能力が認められる年齢は小学校を卒業した「13歳程度」といわれており、本件の女児はまだ11歳ですから責任能力なしと判断される可能性が高いです。
なお、未成年者の責任が否定された場合に未成者を監督する監督義務者(親権者)が代わりに責任を問われる場合もあります(民法714条)。
今回のケースでは、親権者の立場からは事故の予見が可能だったとはいえないと思われますので、監督義務者の責任も否定される可能性があると思います。
——イベント主催者などの責任はどうでしょうか。
イベント主催者とカートコーナー設置者は別のようですが、契約内容や役割分担が不明なので事業者側の責任として検討します。
実は最近、今回の事故と似たようなゴーカート事故について判断した福岡高裁の裁判例(福岡高裁令和2年3月17日判決)があります。
この判決は、遊園地内のゴーカート乗り場のスタート地点で発進待ちをしていた客のゴーカートに、後ろから走行してきた小学校高学年の児童が運転するゴーカートが止まることができずに追突して客が傷害を負った事件について、事業者側の不法行為責任を認めました。
加害児童がブレーキとアクセルを踏み間違えたため、停車中のカートに追突したものと認定した上で、ゴーカートについて運転に不慣れな子供が操作した場合、ブレーキが遅れる、ブレーキとアクセルを踏み間違える等の操作ミスが生じ、他のカートに追突する事故が発生することは、事業者側にとって十分に予見できることであると判断。
事業者は追突事故の発生を防止する措置を講じ、利用者の生命及び身体を危険から保護する義務を負っていたにもかかわらずそのような措置を取っていなかったとして義務の懈怠(過失)を認めました。
今回の事故についても、車の免許も保有しておらず運転に不慣れな小学生がゴーカートを運転した場合、ブレーキとアクセルを踏み間違えたり、ハンドル操作を誤ったりして他の車両やギャラリーに衝突する事故が発生することは、事業者側の立場からは十分に予見できたと思われます。
そうすると、事業者側には利用者やギャラリーの生命及び身体を危険から保護する義務が認められることから、見物客等がいる場所の前は三角コーンやポールではなく、頑丈なプラスチック製のブロックなどを設置すべきだったということになります。
事業者側はこの義務を怠ったという点で「過失あり」と判断され、不法行為責任が認められる可能性が高いです。
——刑事責任として罪に問われることはあるのでしょうか。
運転していた女児については、11歳であることから「刑事未成年者」として犯罪は成立しません(刑法41条)。14歳未満の者は一律に刑事責任能力がないとされているからです。
事業者側については、民事責任で説明したように、事業者側には事故の予見可能性があるとすれば、結果を回避するための措置を取る義務が認められます。この義務を怠ったことによって死傷事故が発生したことから、業務上過失致死罪や業務上過失傷害罪の成立は十分に考えられます。
——今後どのような捜査となることが考えられますか。
録画映像の収集と分析、ゴーカートの事業者関係者からの事情聴取、ゴーカートの車両やコースの分析、各事業者の役割等について調べるなど、過失が認められる者を特定していく捜査になるものと思われます。
【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官の資格も有する。現在、朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:秋法律事務所
事務所URL:https://www.bengo4.com/tokyo/a_13104/l_127519/