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新宿署で勾留中に「パンツ一丁」で拘束、下着汚すと「みっともねえな」と侮辱 20代男性が提訴

2022年09月28日 10:01  弁護士ドットコム

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警視庁新宿署の留置所に勾留されていた20代男性が、警察官から虐待を受けたとして、東京都を相手取り、慰謝料など165万円を求める裁判を東京地裁に起こした。提訴は9月15日付。


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訴状によると、男性は、勾留中の今年7月、体調を崩した同室の男性のために「毛布1枚だけでも入れてやってくれませんか」と頼んだところ、留置担当の警察官に「保護室」と呼ばれる別室に連れて行かれた。



さらに「パンツ一丁」の下着姿にされて、身体を拘束された。トイレにも行かせてもらえず、そのまま下着を汚してしまい、涙を流していたところ、警察官は「みっともねえな」と言い放ち、侮辱したという。



男性側はこれらの警察官の行為は違法であると訴えている。



●病人のために毛布を求めたら「保護室」に連行

男性は留置所でどのような扱いを受けたのか。訴状に書かれた詳細は以下の通りである。



異変が起きたのは、7月6日夜だった。



男性を含む5人が収容されていた部屋で、同室だったA氏が寒気や風邪のような症状を訴え始めた。男性はA氏に自分の毛布をかけてやったが、翌朝、A氏は38.9度の高熱を出してしまった。



起床の際、布団や毛布は室外に収納されてしまう。A氏の悪寒がひどかったために、男性は留置担当官に対して「毛布1枚だけでも入れてやってくれませんか」と頼んだ。



しかし、担当官が「ルール上できない」と断ったので、男性はさらに「38.9度の熱があるのにどうするんですか」とたずねると、担当官は1、2時間後に別室で寝てもらうと答えた。



男性はA氏が苦しがっているのをみて、早く対処してほしいと求めたが、担当官は大きな声で次のように言ったという。



「そんなの知らねえよ。上に言ってくれよ。俺らの仕事ってのは決まってるんで、収容してる人間の統率をしなきゃいけない。演技かもしれないし、全部信じてバカみるわけにいかねんだよ」



男性は「僕は人間としての優しさの話をしているんです。毛布1枚だけでも入れてやってくれないですか」と要望したところ、突然、別の担当官が非常ベルを鳴らして、他の担当官たちを招集した。男性の腕を掴んでそのまま「保護室」と呼ばれる別室に男性を連れて行った。



この様子は、この訴訟で男性の代理人をつとめる小竹広子弁護士が、男性だけでなく、同じ部屋でやりとりをみていた男性2人からも聴取している。



●「垂れ流せよ。みんなそうしてるから」

男性は当初、担当官らと話をすることになるのだろうと思い、まったく抵抗もせずに保護室へと入った。ところが、担当官らはなんの説明もなく、男性の服と靴下を脱がせて、パンツ一丁だけの姿にした。



担当官らは、男性の両手首にベルト手錠をきつく巻き付け、捕縄(ほじょう)で両腕と腰を固定し、さらに背後から男性を捕縄で吊り下げる体勢をとらせた。捕縄が身体に食い込んだ状態で背中も捕縄で縛った。両足首も縛られ、寝転がされた。男性はこの間、無抵抗だった。



縛られて痛みを感じたので、男性は許してもらおうとして「申し訳ありません」と何度も繰り返したが、担当官は「こういう法律があるから仕方ない」と言っただけで、それ以上の説明はしなかった。



保護室に入れられてから、男性はトイレを使いたくなり、「用便願います」とお願いしたが、担当官の一人は「垂れ流せよ。みんなそうしてるから」と言った。男性はしばらく我慢していたが、我慢しきれずに、転がったままで排尿してしまった。



縛られた手首の痛みと、パンツを汚してしまった情けなさで涙を流している男性をみて、その担当官は「みっともねえな」と言い放った。訴状では「男性を侮辱し、屈辱感を与えた」と書かれている。



保護室に連れてこられてから1時間後、男性の身体拘束は解かれたが、汚れた下着は替えさせてもらえず、洋服も着せてもらえなかった。男性は汚れたパンツのまま、保護室に入れられていた。



●トイレで使うちり紙ももらえず…

訴状によると、男性はさらに屈辱的な扱いを受けた。



男性は再びトイレを利用しようと思い、「ちり紙、願います」と要望したが、何人もの担当官が聞いていたにもかかわらず、無視された。仕方なく、保護室内のトイレを利用した後、手に水をつけて拭かざるを得なかった。



昼ごろになってやっと服を持ってきてくれたが、パンツは取り替えてもらえなかった。



翌日の7月8日午後10時ごろ、男性の弁護人である木村壮弁護士が接見した際、やっと保護室から出してもらえた。このとき、男性の両手首や腰には、戒具で強く締め付けられたり、食い込んだりしたためにできた傷が残っており、鮮血がにじんでいた。



木村弁護士が担当官に保護室へ連れて行った理由を尋ねると、当初は説明を拒否した。重ねて聞くと、制止を聞かずに大声を出し続けたからと説明した。



男性は戒具によるケガがもとで、現在も指のつけねにあたる手の甲部分の触覚がないなどの後遺症がある。



●新宿署「人為的ミスで録画がない」

男性側は提訴にあたり、証拠となる資料を廃棄・改ざんされるおそれがあるとして、東京地裁に証拠保全を申し立て、8月26日に検証期日が実施された。



しかし、新宿署側は、保護室など留置施設内を撮影した録画について、「人為的ミスにより存在しない」とした。6月3日に職員が別件で一時録画を停止し、その後、録画を再開するボタンを押し忘れ、それに気づいたのは7月13日だったと説明した。



また、戒具を装着する際にハンディカメラによって撮影された録画は存在するものの、被告である東京都の法務課側は「公務員の職務上の秘密に関する文書である」などとして、裁判所に対する提示を拒絶した。このため証拠保全期日は「検証不能」として終了している。



●保護室収容や戒具使用の要件は?

収容者を保護室に収容できる場合は、「刑事収容施設及び被収容者の処遇に関する法律」214条により、「自身を傷つけるおそれがあるとき」や「担当官の制止に従わず、大声または騒音を発するとき」「他人に危害を加えるおそれがあるとき」「留置施設の設備、器具その他の物を損壊し、又は汚損するおそれがあるとき」と定められている。



訴状では、「男性は同室者の健康にを気遣い、毛布の差し入れを求めたのに過ぎず、かつ、終始敬語を用いて担当官に要望をしたに過ぎない」として、保護室に収容できる要件は全くなかったとし、明らかな違法としている。



また、戒具の使用についても、同法213条1項によって「逃走すること」「自身を傷つけ、又は他人に危害に加えること」「留置施設の設備、器具、その他の物を損壊すること」のいずれかの行為のおそれがある場合に許されている。



しかし、男性は大人しく従っており、これらのおそれはなかったとして、戒具の使用も違法であると主張している。



警視庁は弁護士ドットコムニュースの取材に対して「訴状が届いていないので、コメントできない」とした(2022年9月27日現在)。