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国税庁の酒類振興「サケビバ!」に批判の声、そこまで酒税収入はおいしいのか

2022年09月26日 10:01  弁護士ドットコム

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国税庁が「サケビバ!」と題するお酒のビジネスプランを募集する振興事業を行っています。既に応募は締め切られ、書類審査の結果は9月27日に通知される予定です。本選大会は11月10日に実施されます。


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この「サケビバ!」に対しては、「国が酒の販促をする必要があるのか」や「どれだけ税金が欲しいのか」との批判の声があがっています。国税庁は批判を受けながらもなぜこのようなキャンペーンを行っているのでしょうか。(ライター・岩下爽)



●国税庁はなぜ「サケビバ!」を始めたのか

「サケビバ!」は、日本産酒類の発展・振興を考えるビジネスコンテストです。酒類業界の活性化を図ることを目的としています。コンテストへの応募資格は、20歳以上39歳以下の個人又は3名以下のグループとなっています。募集テーマは「酒類業界の活性化や課題解決に資するプラン」とかなり抽象的な内容です。



受賞者特典としては、①書類審査通過チームには、本選に向けて専門家による研修等の機会の提供、②プランに対する審査員からのフィードバック、③最優秀賞者については、事業化に向けた相談・助言等の支援があります。



賞金があるわけでもなく、誰が審査員をやるのかも示されてないので、審査員からフィードバックを受けられるのが特典と言われても全くメリットを感じません。この特典内容でどれ位応募があったのか気になるところですが、今のところ応募総数は公表されていないようです。



国税庁としては、本気でビジネスを応援するというよりも、若い人が考えるビジネスプランを参考にして、若い人がどうすればお酒に興味を持つのか知りたいというのが本音なのでしょう。どれだけ予算を取っているかわかりませんが、こんなくだらないことに税金を使う位なら税金を安くしてもらいたいものです。しかも、実施主体が税を徴収する国税庁というのだから呆れてしまいます。



●若者のアルコール離れが顕著に

このようなキャンペーンを行う背景には、酒類消費数量の減少があります。国税庁が公表している「酒のしおり」によると、酒類販売(消費)数量の推移は、平成6年の9,642千klをピークに減少傾向が続き、令和2年度には7,828千klまで落ち込んでいます。



また、厚労省の「令和元年国民健康・栄養調査報告」によると、飲酒の習慣があると答えた人の割合が、50-59歳が28.1%、40-49歳が25.2%、30-39歳が17.2%、20-29歳が7.8%と若者のアルコール離れが顕著になっています。



このような状況にあることから、国税庁としては、酒類の販売数を増やすためには若者の飲酒を増やすことが有効だと考えているものと思われます。



●90年代と比べると、酒税の税収は半減

国税庁がなぜそこまで酒類の販売キャンペーンをするのかと言えば、批判にもあるとおり、税収が欲しいからです。酒類の消費量が減ってきたことで、平成6年度(1994年度)に2.12兆円あった税収が令和2年度(2020年度)には1.13兆円と半減しています。実は、酒税は非常に高い税率で効率よく税金を取ることができます。ビール(633ml)が47.5%、発泡酒が37.1%、清酒が18.8%、果実酒が17.5%とかなり高い税率です。



お酒は、酒税だけでなく、消費税も取られます。二重課税ではないかとの批判がありますが、国税庁は、メーカーが納税義務者であり、コストとして製品価格に転嫁しているので二重課税にはあたらないという見解を示しています。



誰を納税義務者とするかは国が自由に決められることだし、原価に含まれると言っても、税金であることには変わりはないのだから、実質的に二重課税であることは間違いありません。いずれにせよ、国としては、酒税と消費税をたっぷり取れるビールをどんどん飲んでもらいたいと思っているわけです。



酒税というのはかなり歴史が古く所得税に取って代わられるまでは、税制の中心でした。贅沢品という位置づけで税金が取りやすく、酒をやめられない人は多いので、安定して税金を徴収できるというメリットがあるからです。少なくなったとは言え、1兆円を越す安定財源なので、今後も維持していきたいと国税庁は考えているはずです。



●お酒の価格にまで介入する異常な仕組み

お酒を作る場合には、国税庁から「酒類製造免許」を取る必要があります。また、お酒を販売するにも卸売りの場合には「酒類卸売業免許」、小売りする場合には「酒類小売業免許」が必要になります。このように、お酒を「作る」にしても「売る」にしてもかなり厳しく規制されています。



また、国税庁は、お酒の価格まで統制しています。安い価格でのお酒の販売を禁止しているのです。「酒税法」及び「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」により、お酒を不当に安く販売すると行政指導が行われ、それに従わないと免許の取消になる可能性があります。



国税庁は、お酒の安売りを禁止する理由として、①酒類は、酒税の課される財政上重要な物品であることと、②中小小売店を守るためとしています。スーパーや量販店がお酒の大量仕入れを行い、安く販売するようになると小売店は価格で対抗できなくなり、倒産してしまうからということです。なぜ、酒の小売店だけがここまで保護されるのかよくわかりませんが、それよりも重要なポイントは、「酒類は酒税の課される財政上重要な物品」と国が認めていることです。



つまり、酒税の税収は国にとって重要な安定財源だからお酒を安売りされて税金が減っては困るということです。店としては、人気のないお酒の在庫を抱えるよりも値段を安くして早く販売したいと考えるものですが、それが禁止されているわけです。独占禁止法がある中で、このような過剰な規制があることは異常な事態です。それだけ、国税庁は酒税の税収を重要と考えているということです。



●増税が難しいので、アルコール好きを増やしたいのか

酒税の税率が高いという話をしましたが、一般会計の歳入内訳を見ると、酒税の割合は1.0%にすぎません。消費税(20.0%)、所得税(18.9%)、法人税(12.4%)に比べると割合としては少ないのがわかります。



ただ、法人税は減税の方向性が強くなっており、消費税率も引き上げたばかりなので、すぐに引き上げるのは難しい状況にあります。所得税については、個人にダイレクトにひびくので政治家としては引き上げにくいという事情があります。



それに比べると、お酒に関しては、「贅沢品」であり、たばこと同様、「健康のためにも課税を強化する必要がある」と言いやすいということがあります。今のうちにアルコール好きを増やしておいて、アルコールの消費が増えたところで増税ということを考えているのかもしれません。