2022年09月25日 09:51 弁護士ドットコム
注文住宅を建てたところ、新品のトイレを業者に使われてしまったという相談が弁護士ドットコムに届いた。「トイレを最初に使う権利」を無惨にも奪われたとき、業者の責任をどこまで追及できるのだろうか。
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30代のマツシタさんは今年、念願のマイホームを手に入れた。住宅会社と何度も打ち合わせを重ね、夫婦のこだわりを盛り込んだ自慢の一軒家だ。
ところが、引き渡し当日に思いもよらないトラブルに見舞われた。
「トイレの洋式便器が汚れていたんです。すでに水は流されていましたが、便器や床に黄ばみがはねていて、明らかに誰かがオシッコしたとわかりました。新品のトイレにうれしくなって、汚れに気づく前に便器を触ってしまったので不快でした」
引き渡しに立ち会った住宅会社に「犯人」の特定をもとめたところ、状況からおそらく内装業者によるものと思われたが、誰も名乗り出ず、特定には至らなかったという。
しかし、マツシタさんらにまったく非がない事態であることは間違いないため、住宅会社から謝罪を受けるとともに、汚れたトイレも掃除してもらった。
それでも、楽しみにしていた「トイレ一番乗り」を台無しにされ、「住み始めてからも気分が悪かった」というから怒りは深い。
弁護士ドットコムにも、新築戸建のオーナーから、仮設トイレを撤去した後、引き渡しの前に自宅トイレを使われた「証拠」があり、業者側に便器・壁紙の交換、値引きをもとめられるのかといった相談が寄せられている。
「トイレの純潔」を奪った業者の責任をどこまで追及できるのだろうか。山之内桂弁護士に聞いた。
——新築物件で新品のトイレを業者側が使っていたことが発覚しました。施工側に法的責任はあるでしょうか。
一般的な新築請負契約では原則として、施工側には新品を供給する契約上の義務があります。
ですので、施工側や関係業者が引渡しの「前」に新品トイレを使ってしまうと、たとえ結果的に汚損がなかったとしても、新品供給の義務に違反することになり、施工側は契約不適合の責任を負います。
その場合、民法では、発注者側(施主)は、「目的物の修理補修、代替物の引渡し、不足分の引渡による履行の追完」や「損害賠償」を請求できるとされています。施工側は、「施主に不相当な負担を課するものでないときは、施主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる」とされています。
——施主側は施工側にどこまでの対応を求められるでしょうか
ご質問の案件では、「トイレ部分の施工のやり直し」(便器、便座、付属設備、床・壁紙の全交換)や、それによる工期延長のための「引渡遅延に対する補償」を求めることは履行の追完の相当範囲内と思われます。
当然ながら、「謝罪」「入念なクリーニング」「新品交換費用以内の詫び料の支払い」といった解決も相当範囲内ですが、施工者の本来の契約上の義務は新品の供給ですから、施工側から施主側に中古品の受領を強いる対応を押し付けることはできません。
施主が相当の期間を定めて、施工側に対して上記のような履行の追完の催告をし、その期間内になされないときは、施主は不適合の程度に応じた請負代金の減額を請求することができます。
——どれくらいの減額を請求できますか。
この場合の減額幅は、「既存設備の撤去と新品への入れ替えにかかる費用」の相当額です。既設設備が中古取引されればその買取分を控除した額です。
履行の追完・損害賠償・代金減額がされれば契約適合は回復されるので、それらに加えて慰謝料は請求できません。
施主の側に帰責事由があると、追完・損害賠償・代金減額等を請求できませんが、本件で施主が有責になる事態はほとんど考えられません。
たとえば、施工者が強く要求したにもかかわらず、費用や場所の都合で施主が仮設トイレの設置を拒否したため、仮設トイレが設置できなかった事情があったとしても、そのことだけでは施主に帰責事由があるとはいえません。
その場合、施工者は追完の責任を免れず、割合的な責任の考え方に基づき、代金減額幅が縮小される程度の認定にとどまる可能性が高いと思われます。
今回のような「トイレ問題」が発覚した場合、施工側には金銭的だけでない様々な負担が生じえますし、なにより評判も落ちますので、今一度注意が必要です。
ちなみに、新品の引渡しを受けた「後」に無断使用された場合は、契約の履行が終了していますので、上記のような契約責任としての解決はできません。
また、リフォーム業者が既設中古トイレを施主に無断で使用した場合は、業者が契約上新品の供給義務を負っていないので、上記の説明は当てはまりません。
それらの場合は、当該無断使用者が当該住宅所有者に与えた具体的な損害に対する不法行為に基づく損害賠償の問題となり、トイレを汚したことによる損害の賠償のみ請求できます。
単に使用して汚れただけで、用法・構造上損壊していない便器や便座の新品交換は認められません。せいぜいクリーニング費用や水道代・電気代程度の賠償請求に限られます。
【取材協力弁護士】
山之内 桂(やまのうち・かつら)弁護士
1969年生まれ。宮崎県出身。早稲田大学法学部卒。司法修習50期、JELF(日本環境法律家連盟)正会員。大阪医療問題研究会会員。医療事故情報センター正会員。
事務所名:梅新東法律事務所
事務所URL:https://www.uhl.jp