Text by 村上広大
Text by 服部桃子
Text by タケシタトモヒロ
脚本の巧みさ、キャラクターの心理描写……。映画レビューというと、着眼点や理解の深さが評価のポイントになりがちだが、それとは一線を画すなんともゆるい映画評を披露しているのが、お笑いコンビ・ミルクボーイの駒場孝だ。
ABCラジオ『ミルクボーイの煩悩の魂』で、2022年の6月頃からときおり語られる駒場の映画レビューは、「ウィル・スミスが道に停めてた車が駐禁とられて面接に遅刻すんねん(映画『幸せのちから』の感想)」などと、ざっくりかつどこか淡々としていて、それでいて気負いもない。だからこそ、多くの人がイメージする映画レビューに対するハードルをひとつもふたつも下げてくれるのだ。「難しい話はわからない」と率直に語る駒場に、映画レビューをはじめた背景や、着眼のポイントなどについて尋ねた。
―観た映画のレビューをABCラジオ『ミルクボーイの煩悩の魂』で話すのが最近の定番になっていますが、どういうきっかけではじめたんですか?
駒場:2006年に公開された『幸せのちから』っていうウィル・スミスが主演の映画があって、大学生の頃に映画館で観てめちゃくちゃ感動したんですよ。それこそ、上映中はずっと泣いてたし、帰りのエスカレーターでも涙が止まらなかったくらい。当時、その話を内海にもしたことがあって、ふとラジオで話題になったんです。
ただ、どんな内容だったかほとんど覚えてなくて。だから、あらためて観て、翌週のラジオでこういうストーリーやったって漫画やテレビの感想を話すくらいのテンションで内海に伝えたんですよ。
それが思いのほかおもしろかったから、ほかにも見てみたいと思って、時間があるときに映画を観てラジオで話すようになったっていう。ただ最近の映画だと、観たいと考えていた人が思わぬネタバレを受けることになってしまうので、10年以上前に公開された映画を中心に観ています。
―久しぶりに映画を観て、感想をラジオで話したらすごく楽しかった。
駒場:そもそもぼくの家は映画を観る文化がまったくなかったんですよ。オトンもオカンもまったく興味がないから、家族で映画館に行って話題作を観るようなイベントもなくて。あるとしても、近所にある小さなレンタルビデオ屋でオトンが『男はつらいよ』をたまに借りてくるくらい。
そんな感じで大人になってしまったから、映画の感想を話すこと自体がとにかく新鮮で。しかも、感想を話すことで映画の内容をもう一度噛み締められるのもよくて。
ー映画を観る際、着目するポイントはあるのでしょうか?
駒場:これはラジオでもよく言ってるのですが、ぼくは難しい話が本当に苦手で。話を覚えてられないというか。だから、伏線回収とかできないんですよ。話はシンプルなほうが好きだし、登場人物は少ないほうがいい。そういう意味では、『ローマの休日』はすごく観やすかったです。そんなに簡単に(お城から)逃げられちゃうのっていう疑問はありましたけど(笑)。
逆に『君の名は。』は何度観てもわからないですね。どこでどう入れ替わったのかが途中で混乱してしまうから解説を入れてほしいくらい。本当はそういうことも含めて楽しむ作品だと思うんですけど。だから、あの関係が一発でわかる人は、ほんまにすごいと思います。
ー世間的には、映画の感想を話す際に「いかに深いことを言うか」が大事なことのように思われている節がある気がします。その点、駒場さんは劇中で起きた出来事を淡々と話している印象があり、それがある種の語り口になっていますよね。
駒場:仲間と一緒に映画を観に行っても、内容がわからなかった人は感想を言いにくい雰囲気があるじゃないですか。わかってる人の話すことのほうが尊重されるというか。でも、内容がわからなくても感想を言いたい人ってめっちゃおると思うんですよ。こういうふうに感じたと率直に言ってもいいし、わからないものはわからないままでいいと思うんです。
せやから、ぼくは知ったかぶりをせず、そのとき思ったことを咄嗟に言うてるんですよね。あとは観ていて引っかかったポイントにツッコミを入れるくらい。
たとえば前作の『トップガン』だと、主人公が浜辺でビーチボールした直後に革ジャンを着てバイクに乗ってるのは気持ち悪いな、とか。人によっては「そんなんええやん!」と思うかもしれないんですけど。
ーラジオでは、駒場さんの話に対して内海さんがツッコミを入れつつも、ちょうどよくその先をうながしたりしていますよね。お二人の会話のやりとりは、漫才のかけ合いを聴いているかのような感覚に陥ることがあります。
駒場:たしかにそうかもしれないですね。話し相手としてはすごくちょうどいい。ぼくも内海も捻くれているから呼吸が合うというか。あら探しじゃないですが、「そういうのが気になるから見られへんよな」っていうポイントに対する意見が一致するんですよね。逆に、ぼくのような感想の話し方を否定する人が相手だったら、こんなふうに喋ってないと思います。
ー内海さんもそこまで映画に詳しくないからいいのかもしれないですよね。
駒場:内海はシナリオライターになりたくて大学(大阪芸術大学の映像学科)に入学したらしいんですが、それまで映画をほとんど観なかったから、周りの学生のレベルが高すぎて驚いたって言うてました。授業の合間に映画の話になることもあったらしいんですけど、「わけわからんかった」と。
だから、ラジオを聴いてもらうとわかるのですが、ぼくも内海も映画のことをほんまに知らないんです。かなり混沌としているから、それがおもしろくて聞いてくれる人もいると思うんですけど。
ー駒場さんはほかの方の感想や映画の解説記事などを読むことはあるのでしょうか?
駒場:ありますよ。映画を観たあとに解説を読んで、こういうことやったのかとスッキリすることも多いですね。一方で、これはちょっと深読みしすぎちゃうか? と疑問に思うこともありますけど。
この前少し時間があったので『スタンド・バイ・ミー』を観たのですが、そのときは「少年たちが何かしてるな」くらいにしか思わなかったんですよ。あと、ベン・E・キングの“Stand By Me”が途中で流れてきて、テンション上がったなって(笑)。でも、その後に解説記事を読んでみて、思考が整理される瞬間がありました。腹落ちしたというか。
これは映画を観たあとの話ですが、場合によっては、観る前にあらすじをすべて読むこともあります。
ーネタバレもOKなんですね。
駒場:はい。さっきも話しましたが、ぼくは映画の内容を把握するのがほんまに得意じゃないんですね。だから、できるなら映画を観る前にあらすじや結末をひととおり読んで知っておきたいんです。最近は自分の第一印象で作品を語りたいので、避けるようにしてるんですけど。ただ、わからんからって観るのを諦めるより、こういう映画だっていう情報をあらかじめ頭に入れておいたほうがいいと思います。
あと、映画を観るための約2時間を無駄にしたくない気持ちも強くて。せっかく時間を費やしたのに、話の内容がまったくわからなかったら嫌じゃないですか。そういう怖さがあるというか。それだったら、最初から結末までのストーリーを知っているほうが映画に集中できて有意義だと思うんです。
ーそういう意味では、ミルクボーイの漫才も結末はどうなるのかわかっていても楽しめますもんね。
駒場:たしかに。ぼくらの漫才もネタバレしているようなものですから(笑)。もしかしたら、最後にどうなるのかわかっていても楽しめるようなものが好きなのかもしれないです。
ー駒場さんのような映画の見方は、映画を観るのが得意じゃない人にとって、何かしらの示唆がある気がします。ちなみに、新作を観に行くこともあるんですか?
駒場:頑張って映画館に行っていた時期も過去にあったんです。ただ、意味わからへんと思うことが多すぎて挫けました。さっき話した『君の名は。』なんて、映画館で観て、その後にDVDで何度も観たけどわからないですから。
何かしらのヘルプがほしいですよね。たとえば、パンフレットを通常バージョンとストーリーが全部書いてあるバージョンを用意しておくとか。後者があったら、ぼくは迷わずそちらを購入しますよ。それで登場人物や物語のあらましを把握したうえで鑑賞したい。そういうふうに考えている人も、ぼく以外にいると思うんですよね。
ーこれからも映画の感想をラジオで話す活動は続けていく予定なのでしょうか。
駒場:いまのところは。ぼく、人よりも記憶力が劣っているというか、観たものを覚えておけないのも映画を観てこなかった理由のひとつなんですね。どうせ来年には忘れているだろうと考えると食指が動かないといいますか。でも、ラジオで話すようになってから、頭に焼きついていることが以前よりも増えていて。その点でも話せる場所があってよかったなと。
ーたしかに、感想を語ることで記憶に定着しそうです。
駒場:そうなんですよ。あとは『スター・ウォーズ』を攻略することですね。この前、何度目かの挑戦の末にようやくエピソード4を鑑賞し終わって。
ー何度かチャレンジされたんですか(笑)。
駒場:最初に事態を説明するテロップが流れてくるじゃないですか、あれを最初は英語で流していたから意味がまったくわからなくて。日本語にしてみて、ようやく帝国軍と反乱軍が戦っているのがわかったっていう。
あと、無敵の悪の存在だと思っていたダース・ベイダーが、普通のおっちゃんにぐちぐちといろいろ言われていたのが意外でした。ちなみにいまはエピソード5を観てるのですが、なかなか内容が頭に入ってこないから冒頭を5度ほど見直しています(笑)。
ーまだまだ先は長そうですね。
駒場:残り7作品ありますから。ただ『スター・ウォーズ』のファンからしてみたら、あのシリーズを真っ白な状態から鑑賞できるのはとんでもなく羨ましいらしくて。そういう意味ではめちゃくちゃ楽しい娯楽がまだたくさん残ってるなと思います。それに、すばらしい映画はほかにもたくさんあるので、しばらくは飽きない日々を過ごせそうですよね。