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EVはSUVばかりで胸やけ気味? 今すぐBMW「i4」を試してみよう!

2022年09月20日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
クルマの電動化が進み、各社から新しい電気自動車(EV)が登場しているが、ブームの影響もあってかボディタイプはSUVばかりだ。床下にバッテリーを積みやすいなどSUVならではの利点もあるのだろうが、さすがに食傷気味という方もいらっしゃるのではないだろうか。そこで注目したいのが、BMW「i4」だ。さっそく試乗してきた。


○EVに早くから取り組んでいたBMW



BMWはドイツの自動車メーカーのなかで率先してEVの市場導入に取り組んできた。日産自動車「リーフ」が日本で発売となったのは2010年。BMW「i3」は2014年だ(欧州では2013年から)。



i3の開発に際しBMWは、小型EVからの市場導入を前提に「メガシティヴィークル」(大都市のクルマ)という構想を打ち立て、ミニ(MINI)をベースとする実証実験用EVで世界の都市を走った。知られる通りドイツには速度無制限区間のある「アウトバーン」があるので、EVでの長距離移動の実現は次の段階と考えたのだろう。



それでもi3の導入に向け、BMWは車載バッテリーだけで走行するEVのほかに、充電が切れてもしばらくは走行できるよう、発電用のガソリンエンジンを搭載する「レンジエクステンダー」の車種も用意した。そうした慎重な車種構成でEVへの第一歩を踏み出したのである。



同時に、単に排出ガスゼロのEVを売り出すだけでなく、製造段階からの脱二酸化炭素にも力を注いだ。車体のフレーム構造に使う炭素繊維は水力発電で稼働するアメリカ工場で生産。ドイツの組み立て工場では風力発電を使う。内装にはユーカリ材などの天然素材やペットボトルのリサイクル繊維を使用し、革のなめしにはオリーブの葉から抽出した油を利用するなど、環境適合とクルマとしての耐久性や商品性を両立させ、持続可能なEVづくりに挑戦した。国際連合の総会で2015年にSDGsが採択される前の話だ。



BMWのEVラインアップは長きにわたりi3のみだったが、ここへきて選択肢が増えてきた。EVの普及に向けた段階に入ったといえるだろう。現在の選択肢はi3のほかに「iX」「iX3」「i4」があり、このあと「i7」と「iX1」を導入予定だ。


それらのうち、今回試乗したのはi4である。

○BMW製EVで最も上質な乗り味?



i3が小型ハッチバック車、iXとiX3がSUV(ただしBMWはSUVではなくSAV:スポーツ・アクティビティ・ヴィークルと位置付ける)であるのに対し、i4は4ドアハッチバック車だ。4ドアセダンをよりお洒落にしたような車種である。ベースとなっているのは、ガソリンエンジン車の「4シリーズ グランクーペ」だ。i3のように、EV専用で開発した車種ではない。


それでも、BMWは4シリーズ グランクーペの開発段階からEVバージョンの導入を想定していたはずだ。i4の室内を見渡しても、EVとするために何かを犠牲にした様子は見られない。ガソリンエンジンの4シリーズグランクーペで見慣れた姿だ。


EV性能はリチウムイオンバッテリーの容量が83.9kWh、一充電走行距離が604km(WLTCモード)。高性能車種の「M50」はバッテリー容量は同じだがモーター出力が高く、一充電走行距離は546kmになる。いずれも、日本で利用するには十分な距離といえるだろう。



運転席に座って感じるのは、SUVと違って車高が低いことによる重心の低さだ。気分が落ち着く。運転を楽しませるBMWらしい、運転に集中させるような雰囲気を味わえる。

SUVなど車高の高いクルマは、着座位置が高くなるので遠くの見晴らしはよい。一方で、運転する上では重心が高くなるので、操縦安定性と乗り心地の折り合いをつけるのは難しい。乗り心地をよくしようと思えば、速度をあげたりカーブを曲がろうとしたりする際に安定性が欠けやすい。安定性を高めようとすれば、乗り心地が硬く感じられる。



それに対しセダンやクーペは、車高が低い分、操縦安定性と乗り心地を両立させやすい。その雰囲気が、i4の運転席に座っただけで伝わってきた。


スイッチを入れて動きだすと、アクセルペダルの操作に的確にこたえる滑らかな走りが心地よい。適切な操縦安定性がEVの上質な乗り味をさらに高めている。路面からの衝撃も巧みにいなし、乗り心地もよい。i3以降、これまで試乗してきたBMWのEVのなかで、最も質の高い走行感覚を味わうことができた。



シフトをDからBへ切り替えると回生効果が高まり、ワンペダル操作ができる。停止までアクセルペダルだけで行うことが可能だ。アクセルオフで停車すれば、次の発進まではブレーキペダルを踏まなくても停車し続ける。


ワンペダル操作には賛否両論ある。否定的な意見の多くは、背景に運転者自身のアクセルペダル操作の粗さがある。繊細に操作するよう練習すれば、アクセルとブレーキのペダル踏み替えを減らし、運転が楽になるだけでなく、ペダル踏み間違い事故の起こる可能性も大きく減らすことができる。



EVで先行する日産によれば、ワンペダルを活用することでペダル踏み替えを7割近く減らすことができるという。操作に習熟すれば、9割近くも減らせるそうだ。実際、今回のi4の試乗でも、Bレンジにしてからは大半の時間をペダル踏み替えなしで、アクセルのみで運転することができた。



BMWはi3からワンペダル操作を採用している。当初に比べ違和感は大幅に減って、i4では実用性の高い機能に仕上がっていた。



ワンペダル操作については自動車メーカーによっても否定的な意見がある。だがBMWは、長くEVを市販してきたからこそ、長所をより伸ばし、完成度の高いEVならではの機能を熟成させることができたといえるだろう。



いずれにしてもi4は、EVを作り慣れたメーカーが熟成させた1台という印象だった。


あえてさらなる希望をいえば、「2シリーズ」のグランクーペにEVがあれば、もっと小型で扱いやすく、それでいて価格もこなれ、より多くの人の選択肢に入ってくるのではないか。今後へ向けたBMWのEV拡充のなかで、上級車種やSUVだけでなく、小型車や4ドア車にも広げてほしいと強く思った。



プジョー「e-208」が好評なように、小型EVが充実しれくれば、輸入車の市場動向が動く可能性もあるのではないだろうか。BMWグループではミニをEVブランドにしていく方向が示されているが、それとは別にBMWブランドでも、より身近な車種でのEV拡充に期待したい。そこに目を向けさせるほど、i4は仕上がりの優れたEVであった。


御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら(御堀直嗣)