2022年09月17日 09:11 弁護士ドットコム
自分の車を仕事で使用している人もいるでしょう。弁護士ドットコムには「仕事で現場に向かった際に、どんなに遠い距離でも、ガソリン代などが支払われない」という相談が寄せられています。
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警備業界では、同じ現場に複数人で行く場合、それぞれが公共交通機関を使用すると交通費がかかるため、個人のマイカーに同乗させるように指示されることがよくあります。
同乗した人は、マイカーを出した人に同乗手当を100円自分のお金から支払いますが、それ以外にどんなに遠い距離でも会社からガソリン代などは支払われません。
また、複数の人を乗せて個人のマイカーで現場に行く際に、事故にあった場合は個人で加入している任意保険や自賠責保険を使うように言われ、会社は一切関与しないと言われます。
会社が個人に同乗手当を支払わせ、ガソリン代を支払わないのは違法でしょうか。
今回の相談には、2つ問題があります。1つ目は交通費を従業員負担とする点、2つ目は事故時に会社の関与を否定する指示をする点です。
1つ目ですが、会社が業務遂行により利益を上げる以上、現場への交通費等の業務経費も会社負担とすべきです。
業務経費を誰が負担するかは明文規定がないと言われますが、雇用契約で明示すべき事項に「労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項」があります(労働基準法施行規則5条)。雇用契約書などに交通費を従業員負担とする特記事項がなければ「従業員が負担する」といった合意は存在しません。
個人にガソリン代などを含む交通費を負担させることは違法ではありませんが、従業員負担とする合意がない限り、従業員から返還請求が可能です。放置すると従業員負担とする合意があったとされますので、速やかに会社に精算を求めましょう。
2点目ですが、事故時に個人の保険を使うように指示しても会社の責任はゼロになりません。
今回の相談では同乗はもはや業務命令と理解できますので、事故により損害が発生した場合、会社は使用者責任(民法715条)による賠償責任を負います。怪我をした従業員は業務災害または通勤災害として労災の受給も可能です。
なお、同乗者が払うお金の合計が実際のガソリン代を上回るようなケースでは運転者がいわゆる「白タク行為」として処罰対象となります。その点でも現場への同乗行為は避けるべきです。
【取材協力弁護士】
河村 健夫(かわむら・たけお)弁護士
東京大学卒。弁護士経験22年。鉄建公団訴訟(JR採用差別事件)といった大型勝訴案件から個人の解雇案件まで労働事件を広く手がける。社会福祉士と共同で事務所を運営し「カウンセリングできる法律事務所」を目指す。大正大学講師(福祉法学)。
事務所名:むさん社会福祉法律事務所