2022年09月16日 09:21 弁護士ドットコム
コロナ禍でリモートワークを実施していたものの、対面でのコミュニケーションを重視して、出社を前提とした働き方に切り替える企業が出てきている。
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ホンダは、「現場・現実・現物」からなる「三現主義」で物事の本質を考えて、さらなる進化を生み出すための出社を基本とした働き方にシフトするとしている。部門ごとに対応は異なるが、対面を重視した形となる(東洋経済オンライン「ホンダがテレワークやめ原則出社に踏み切る真意」より)。楽天も昨年11月から、従業員に週4日以上の出社を促している。
コロナ禍が落ち着いてくれば、対面に戻す動きがさらに強まることが考えられるが、それだけで、企業が抱えているコミュニケーションの課題は解決するのか。
リクルートワークス研究所で企業現場のコミュニケーションの調査をしている辰巳哲子・主任研究員に聞いた。(編集部:新志有裕、白井楓花)
ーーリクルートワークス研究所では、辰巳さんをプロジェクトリーダーとして、「人が集まる意味を問いなおす」というプロジェクトを始めて、7月には報告レポートを公表しました。「人が集まる」とは対面でのコミュニケーションのことでしょうか。
必ずしもそうではないのが、このプロジェクトの特徴です。「集まる」という言葉の定義を、「3人以上のメンバーが、同じ時間、同じ場において、コミュニケーションの発生が期待されること。リアル・リモートを問わず、目的の有無も問わない」としました。
ーーリモートも「集まる」の中に含めたのはなぜでしょうか。
リモートであったとしても、オンライン会議ツールの同じミーティングルームに入っていれば、「集まっている」という感覚を覚えることは、多くの人に納得してもらえると思います。
一方で、オンラインでのコミュニケーションだけでは足りないので、対面でも集まりたい、ということもあるでしょう。その目的に応じて、リアルもリモートも「集まる」ことは可能だと考えています。
ーー今回のプロジェクトに関連して、昨年10月に実施した調査結果(調査対象:三大都市圏にある従業員50人以上の企業で働くオフィスワーカー4202人)では、リモートワークの増加に伴って、偶然生まれるコミュニケーションが減少しているという傾向が出ています。具体的にはどのような結果なのでしょうか。
エレベータホールでばったり会って話したり、隣の部署の人と話したりといったような、偶発的で非自発的な接触の機会は、コロナ禍以降、減少しています。
データを見ても、「仕事とは関係のない雑談」が減ったと回答した人が45.1%、「会議の前後に発生する会話」については35.2%の人が減少したと回答しています。
一方で、目的が設定された会議については大きな減少傾向が見られず、「情報伝達のための会議」や「意思決定・合意形成のための会議」についてはむしろ増加したと回答している人の方が多いです。合目的的な集まりについてのみ言えば、オンラインはむしろプラスに働いていると考えることができるでしょう。
ーー雑談や目的のないコミュニケーションが減少していることに対して、企業は何か対策をしているのでしょうか。
どの企業も模索している最中です。
例えば報告書でも事例として取り上げさせていただいたカルビーさんは、オンライン研修から別のコミュニティが生まれるというように、研修や勉強会をきっかけとした、学びや出会いを生み出そうとしています。
また、富士通さんは、オフィスを「エクスペリエンスプレイス」とし、社員間で共通体験ができる場としています。入社式や経営陣との対話ミーティングは会議室ではなく、社員が働いているオフィスのなかで実施しています。アプリを使って、出社者の偶発的コミュニケーションを促す仕掛けも作っています。
ーーコミュニケーションに課題があるということで、対面に戻そうという動きが出ていますが、この動きがかなり強まって、コロナ以前のような対面中心の働き方に戻っていくのでしょうか。
コロナ禍が終わったとしても、リモートワークを前提とした働き方はなくならないでしょう。
一つは、採用戦略上の問題です。リモートワークを前提としないと良い人材を採用しにくくなってきています。働き方の選択肢を拡大していくことが企業の競争力に直結することになるので、リモートワークを完全になくすことは簡単にはできないと考えています。
もう一つは、リモート環境下で成果が上がった「リモートハイパフォーマー」と呼ばれる層が存在するからです。今回のプロジェクトでもその存在が見えてきました。
テレワークで週3日以上就業している人のうち、15.9%の人がコロナ禍前と比べて成果が上がったと回答しました。属性別で見ていくと、「女性」では19.6%、「6歳以下の子どもを持つ」人では27.4%です。このような女性たちを中心に、リモートハイパフォーマーがいることがわかりました。
これまでミーティングに参加しづらかったり、職場の集まりに入れなかったために情報ギャップが生まれていたりしていた人たちが、リモートワークによって非常に働きやすくなってパフォーマンスを出しやすくなっています。
ーーリモートハイパフォーマーのような、個人レベルでの業績の向上があれば、組織全体の業績も向上していくのでしょうか。
そう単純な話でもないのです。調査で、「コロナ禍以降での組織の業績などの変化についてどのように感じているか」という質問をしたところ、個人の仕事の成果については、「悪化」が15.6%なのに対して「改善」が12.2%でした。
これが職場の業績についてになると、「悪化」が27.9%で「改善」が15.9%です。職場という組織単位ではパフォーマンスが低下していると感じている人の方が多い状況です。
ーー個人としてのパフォーマンスは向上したのに、組織としては低下していると感じるのは、なぜでしょうか。
組織としてのパフォーマンスをどう維持・向上させていくのかということをあまり議論せずに、オンラインかリアルかの単純な議論に終始してしまっているからだと思います。
対面で集まるにしても、その意味や目的を明らかにして、チームに共有する必要性があります。対面でもオンラインでも主催者側が集まる目的を言語化できていないと、メンバーを説得するのが難しくなってきていると思います。
例えばサイバーエージェントさんは、「チームでやっている」「仲間なんだ」という組織風土を新たに入ってきた社員に伝えるためには、どうしてもリアルな場が必要だと考えて、週3日全社での出社日を設けています。
ーー逆に、採用戦略を重視して、エンジニア職だけをフルリモートにしようという事例も聞いたことがありますが、こちらも組織全体のパフォーマンス向上にはつながらないということでしょうか。
そうですね。対面にせよ、リモートにせよ、組織としてのパフォーマンス向上のために組織としての集まりをどう設計するのかを考えることが重要です。
その組織がどうありたいか、何を目指しているのかという目的や目標がないと、組織風土や事業の特徴に沿った「人が集まる」仕組みは設計できません。むやみに対面に戻せばいいというわけではないのです。